正真正銘
みくろぎ
第1話 中田紀一は幸せだったはず
大学時代の友人中田紀一が、自殺した。
俺は、中田は幸せだったと思っていた。
葬儀場では、中田の奥さんの美絵が母親に支えてもらいながら立っていた。近くの椅子に、小学1年生の娘さんが座っている。その近くに泣きじゃくる中田のお母さんが居た。その隣に居るのが中田の親父さんか…俺は、その顔を見て少し驚いた。30代後半か40代にしか見えない茶髪に男だった。再婚とかだろうか。いや、単に若く見えるだけかもしれない。そんな事を思いながら俺は葬儀場を出た。すると、駐車場に懐かしい面々に出会した。同じ学部だった佐藤大樹、宮下ひまり、加藤弦太だ。
この3人と中田紀一、奥さんの美絵は同じ大学に研究室の仲間だった。
「卒業以来だな! 今から、俺たちで食事でもって話していたんだが山本もどう?」
「ああ。行く」
近くにある24時間のファミレスに集まった。
「俺……中田は幸せだと思ってたよ。だってよ。有名企業にすぐ内定、学部のマドンナの美絵ちゃんと付き合って卒業してすぐ結婚。すみれちゃんも生まれてさ」
佐藤が、そう言い皆頷いた。
「俺も…この間、すみれちゃんが小学校入学したって俺に自慢メールしてきたから信じられない」加藤が、メールのやり取りを見せた。そこには、笑顔の中田とぎこちなさそうに笑う美絵ちゃんが居た。
「美絵ちゃん、なんか疲れてる?」
俺は、その写真を見ながら声に出してしまいはっとした。
「……美絵……産後あんまり良くなかったみたい。心配で、遊びとか誘ったんだけど断られてて……」宮下が目に涙を溜めながら言った。
「それ、美絵ちゃん大丈夫なのか?」佐藤が聞いた。
「さっき、美絵のお母さんと話したんだけどしばらく美絵とすみれちゃんは実家に帰るみたい。丁度、夏休みだしお母さん専業主婦だしそこは心配要らないかも」
それは、良かったと思った。挨拶する時に近くで見た美絵ちゃんは骨みたいに痩せ細っていてゾッとしたからだ。でも、この数日でこんなに痩せるとは思えないから何か精神的にあったのかもしれない。
軽く食事を済ませ、大学時代の思い出話をしていると佐藤が
「俺、中田の親父さん若くてびびったんだけど…ごめん。どうしても気になって…」と言った。俺も気になったと賛同した。
「私も初めて見たけど若く見えるってレベルじゃないと思うわ」
すると、加藤が口を開いた。
「俺、ずっと言わなかったんだけど紀一と小学校一緒だったんだ」
「まじかよ!」佐藤が叫んだ。
「多分、紀一は気づいてないと思う。俺の小学校マンモス校で一度も同じクラスにならないやつとか普通に居たし。紀一は、小学3年の時だけ同じクラスだった。で、小6の時転校したんだ。話した記憶あんまりないけど。その時、中田じゃなくて平川って苗字だった。で、俺中学でいじめられて高校は同級生居ない学校にしたらそこで紀一と再会した。その時、中田になってて最初は人違いかと思ったけど特徴的な2つの泣きぼくろはあんまり居ないしお母さんそのまんまだったしね。俺、高校入る前にめっちゃ痩せたから紀一気付いてなかったと思う」
「つまり、再婚ってことか」佐藤が、呟いた。
「ああ。俺、一度親父さんに会った時若いねって言ったら再婚で25って言ってた」
「25ってことは、今39歳ぐらいか。そりゃ若いよ」
「父って言うより、兄貴って感じ。でも、恥ずかしいから皆には、言わないでくれって言われて黙ってた」
親父さん、すげぇ泣いてたな。美絵ちゃんにも何かあったら言ってくれって言ってたし…。
「そうだ。明日、研究室行ってみない? 教授に伝えたいの」
宮下の提案に佐藤と加藤が明日仕事だから無理と言った。すかさず、俺の顔を見る宮下。
「山本君って、在宅ライターの仕事だよね」
「ああ。そうだよ……。今、仕事ないから明日良いよ」と俺は言った。
「じゃあ、決まりね」宮下は、昔から押しが強い。優柔不断な俺にとってはありがたいと思う時もある。
俺たちは、店を出た。
正真正銘 みくろぎ @mikurogi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。正真正銘の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます