第16話 選択の代償①
創造主の言葉が静寂に包まれた空間に響き渡った。その重みは、レオンたちの心に深く刻み込まれていた。
「お前たちに与えられた選択肢は二つだ――この結晶を破壊し、すべてをリセットするか。あるいは、この結晶に力を注ぎ、新たな魔王を生み出して均衡を保つか」
創造主の冷淡な声が繰り返される。その中で、カリンが苛立ちを隠せずに声を荒げた。
「そんなのどっちを選んでも犠牲が出るだけじゃないか!それが『選択』だって言うのかよ!」
彼女の声は空間に虚しく響くだけで、創造主の表情はまったく変わらない。
「犠牲のない未来など存在しない。それを理解した上で選べ。それが、この世界を救うということだ」
全員が言葉を失い、結晶の輝きを見つめた。レオンの拳が震え、汗が額を伝う。
「……すべてをリセットする。そうすれば、もうこんな苦しみを繰り返さずに済むのかもしれない」
ユキが恐る恐る口を開いた。その声は震え、どこか投げやりにも聞こえる。
「でも……もし、すべてが消えたら、私たち自身もなくなるってことだよね……?」
ユキの言葉にカリンが振り向いた。
「そんなの答えにならないだろう!あたしらはここまで戦ってきたんだ。この世界を守るために!なのに、今さら消すなんて選べるわけない!」
「けど、このまま均衡を選んだら……また同じことが繰り返されるんじゃないの?」
ユキが反論すると、カリンは言い返そうとして言葉を詰まらせた。
「……均衡を保つために犠牲を払う。それが本当に正しいことなのか……?」
アルフが低く呟く。その目は遠い昔の記憶を思い出しているかのようだった。
「魔王軍にいた頃、俺は力で秩序を守ることが唯一の正解だと信じていた。けど、それで何を守れた?多くの命を失わせて、それでも世界は変わらなかった」
彼の言葉に、レオンは静かに目を閉じた。そして、力強い声で答えた。
「アルフ、それでも俺たちは選ばなきゃいけないんだ。どっちを選んでも後悔は残るかもしれない。でも、何も選ばなければ、今ここで終わるだけだ」
レオンは剣を握りしめ、結晶に向き直った。その中には、これまでに見てきたすべての犠牲と、戦ってきた仲間たちの姿が思い浮かんでいた。
「リセットすることで、苦しみを終わらせることができる。でも、それはすべてを捨てることと同じだ……」
彼は自分の胸に問いかけるように呟く。
「じゃあ、均衡を選べばどうなる?俺たちが戦ってきた意味は……それで、これまでの犠牲は報われるのか?」
レオンの言葉に、カリン、ユキ、アルフの三人もそれぞれの思いを抱きながら立ち尽くしていた。
「選ぶのはお前たちだ。どちらを選んでも正解も不正解もない。ただ、この世界の未来はお前たちの覚悟によって決まる」
創造主の言葉は冷たく、どこか無情にも感じられる。だが、その無情さが、選択の重みを一層際立たせていた。
「どっちを選んでも、俺たちはその先の未来を背負っていくんだ……」
レオンが剣を握る手をさらに強くする。その目に宿るのは迷いを振り払った覚悟だった。
「カリン、ユキ、アルフ……一緒に決めよう。俺たちの手で、この世界をどうするかを」
仲間たちはレオンの言葉に応じ、それぞれ頷いた。全員が迷いを抱えながらも、それでも前に進む意志を固めていた。
「分かったよ、レオン。どっちにしろ、あんたについていく」
カリンが力強く言い、剣を握り直す。ユキも不安げながらも微笑みを浮かべ、杖を構えた。
「私も……レオンさんたちと一緒に決めます。どんな未来になっても、私たちで守っていきましょう!」
アルフは静かに目を閉じ、一言だけ呟いた。
「後悔のない選択をするだけだ……それが、この場に立つ資格だろう」
レオンは結晶に向き直り、深く息を吸い込んだ。
「よし、行こう。俺たちの選ぶ未来へ――」
その言葉と共に、彼らはゆっくりと結晶に手を伸ばした。その先に待つのは、世界の終わりか、新たな始まりか――すべては、今ここで決まろうとしていた。
次のシーンへ続く……
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