第15話 魔王の本心④

魔王カイザーを打ち倒し、広間に静寂が訪れた。傷だらけのレオンたちは、彼の言葉が残した余韻に支配されていた。


「……これで本当に終わったのか?」


カリンが疲れた声で呟きながら、剣を鞘に収める。その視線はカイザーの膝をついたままの姿に向けられている。


「違う……カイザーの言葉が気になる。まだ、何かがあるはずだ」


レオンが低い声で答える。彼の手は剣を握りしめたまま震えていた。それは疲労だけではなく、これから訪れるかもしれない新たな事実への不安が表れていた。


「……あの扉を見ろ」


アルフが冷静に指差す。広間の奥に現れた光の扉。それはどこか威厳を持ちながらも、不気味な雰囲気を漂わせていた。


「カイザーの最後の言葉……『真実を知る』って、あの扉の先に何があるんだ?」


ユキが不安げに呟く。彼女の手は杖を握りしめ、疲れ切った体を支えている。


「行くしかない」


レオンが短く言い放つ。その目には迷いを振り払った覚悟が宿っていた。彼が扉に近づくと、カイザーが最後の力を振り絞り、口を開いた。


「その先にあるのは、私の存在の意味、そしてお前たちが信じる正義の代償だ」


カイザーは苦しげな息を吐きながら続ける。


「この世界を救うために必要なのは、ただの力ではない……選択だ。お前たちがその選択に耐えられるかどうか――それが、勇者としての最後の試練だ」


「選択……?」


カリンが眉をひそめ、カイザーに問いかける。しかし、カイザーはそれ以上言葉を発することなく、ゆっくりと頭を垂れた。


「……あいつが言う選択って、どういう意味なんだ?」


ユキが不安げに口を開くが、答えはない。ただ、光る扉がその行く先を示すように静かに輝いている。


「行こう。俺たちの手で確かめるしかない」


レオンはそう言い、振り返らずに扉を押し開けた。光の中へ一歩足を踏み入れると、全員がそれに続く。


扉の先に広がっていたのは、広大な空間だった。床も壁もなく、ただ白い光が無限に続くような場所。その中央には、巨大な結晶が浮かんでいた。それはゆっくりと脈動しており、生きているように見える。


「これ……何だ?」


カリンが驚いたように呟く。結晶はただの無機物ではない。そこから感じる力は、この世界そのものを支えているような絶対的な存在感があった。


「これは……」


アルフが険しい顔で結晶を見つめ、言葉を失っていた。その時、空間全体に響く声が聞こえた。


「ようやくたどり着いたか、勇者たちよ」


その声はカイザーのものではなかった。もっと冷たく、もっと静かで、どこか機械的ですらあった。


結晶の中から、一人の人物が現れた。それは白いローブをまとった中性的な姿の存在で、目には感情の欠片もない。ただ、圧倒的な威厳を感じさせる存在だった。


「私はこの世界の創造主。そして、お前たちが目指した『救い』の意味を明らかにする者だ」


「創造主……?この世界を作ったっていうのか?」


レオンが問いかける。その言葉に、創造主は静かに頷いた。


「そうだ。この世界は私が作り上げた。しかし、完璧ではない。均衡を保つために、特定の存在に力を与え、世界を維持してきた。それが魔王カイザーの役割だ」


「魔王が世界の均衡を……?」


ユキが驚愕の表情で呟く。その声に対し、創造主は淡々と説明を続けた。


「魔王はただの支配者ではない。この世界が崩壊しないよう、魔力を循環させ、全ての存在を統制している。お前たちがカイザーを倒したことで、その均衡は既に崩れ始めている」


「……それじゃ、俺たちがやってきたことは無意味だったのか?」


レオンが拳を握りしめ、問いかける。その声には迷いと怒りが混じっていた。


「無意味ではない。お前たちの行動は、この世界に新たな選択肢を生み出した。だが、その代償は重い」


創造主は手をかざし、結晶を指し示す。その中に浮かび上がったのは、崩れゆく大地と燃え盛る空――世界が崩壊していく未来の映像だった。


「お前たちが選ぶべき道は二つある。一つは、この結晶を破壊し、新たな世界を作ること。その場合、この世界に存在する全ては消滅し、ゼロからやり直すことになる」


「ゼロから……?」


ユキが声を震わせる。その言葉の重みを理解し、全員が息を呑んだ。


「もう一つは、この結晶に魔力を注ぎ込み、私が新たな魔王を生み出すこと。その魔王が世界の均衡を保つ役割を担うだろう」


「新たな魔王……?また同じことを繰り返すだけじゃないのか!」


カリンが声を荒げる。その問いに対し、創造主は冷静に答えた。


「そうだ。均衡を維持するということは、犠牲を伴う。だが、世界は今の形を保ち続けることができる」


「俺たちに……そんな選択をしろっていうのか?」


レオンが低く呟く。その目には深い迷いが浮かんでいた。


「そうだ。選ぶのはお前たちだ。全てを消し去り、新しい未来を創るのか。それとも、今ある現実を受け入れ、その中で生き続けるのか」


創造主の言葉が響き渡る中、空間は再び静寂に包まれた。全員が黙り込み、それぞれが心の中で葛藤を抱えていた。


「……どうする、レオン?」


カリンがレオンに問いかける。その声はどこか優しく、だが確かな覚悟が込められていた。


「俺たちの選択が、この世界の全てを決めるんだな……」


レオンは剣を握りしめながら、結晶を見据えた。その瞳には迷いと共に、勇者としての責任が映っていた。


「どちらを選ぶにせよ、その代償は計り知れない。だが、俺たちは選ばなきゃいけない……未来のために」


次の章へ続く……



次回予告


次回、「選択の代償」。

魔王カイザーとの決戦を終え、創造主によって明かされた世界の真実。レオンたちはすべてを破壊して新しい未来を創るか、現実を受け入れて再び犠牲を伴う均衡を選ぶのか、究極の選択を迫られる。勇者たちの覚悟が、いよいよ試される――!


読者へのメッセージ


最後までお読みいただきありがとうございます!魔王カイザーとの激闘、そして創造主による真実の告白が描かれました。レオンたちが選ぶ道は、彼ら自身の信念と世界全体の運命を背負うものです。次回、彼らがどのような選択をするのか、ぜひ見届けてください!感想やご意見をお寄せいただけると励みになります。それでは、次回もお楽しみに!

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