第11話 魔王城の真実③
レオンたちが次の扉を開けると、そこにはこれまでとはまったく異なる空間が広がっていた。冷たい石造りの廊下や広間ではなく、黄金の光に満ちた広大な空間――その中央には、巨大な鏡のような物体が静かに浮かんでいた。
「これは……」
ユキが一歩前に進み、その鏡を見つめた。その表面は波紋のように揺らめき、まるで生きているかのような不気味な気配を放っている。
「ただの鏡じゃないな……魔力が異常に集中している」
アルフが鋭い目で観察しながら呟く。その声には警戒心が滲んでいた。
「見ろよ。周りの壁や床、全部この鏡を守るために造られてるように見える」
カリンが剣を握りしめながら辺りを見回す。壁には魔法陣のような刻印がびっしりと刻まれ、床には無数の魔石が埋め込まれている。
「何かが隠されている……ここに、魔王カイザーの秘密があるのか?」
レオンが呟きながら鏡の方へ歩み寄った。だが、その瞬間――鏡が強い光を放ち、空間全体が揺れた。
鏡の試練
「気をつけろ!何かが起きる!」
アルフが叫ぶと同時に、鏡の表面から何かが浮かび上がり始めた。それはレオンたちの姿だった――だが、歪み、黒く濁った影のような存在に変わっていく。
「な、何だよ、これ……!」
カリンが驚愕の声を上げる。鏡の中から現れたのは、レオンたちの影のような存在だった。姿形はそっくりだが、その目には冷たい光が宿り、不気味な笑みを浮かべている。
「これは……俺たちの……?」
ユキが声を震わせる。その問いに、鏡の中の「影」が静かに答えた。
「そうだ。我々はお前たち自身だ――お前たちの迷い、恐怖、そして隠された本音の具現だ」
「迷い……?」
レオンが眉をひそめる。その言葉に、影のレオンが冷笑を浮かべた。
「そうだ、勇者よ。お前は本当に自分の選択が正しいと信じているのか?99回失敗し、100回目もただ突き進むだけで、本当に救いがあるとでも?」
その言葉に、レオンの心が一瞬揺らぐ。それを見逃さず、影のレオンはさらに続けた。
「お前の戦いは、結局のところ自己満足だ。仲間を危険に巻き込み、ただ己の使命感を満たしているだけの無意味な戦いだ」
「……そんなことは!」
レオンが剣を握りしめ、影のレオンに向かって声を張り上げる。しかし、その声にはわずかな迷いが混じっていた。
影との対峙
同じように、カリンやユキ、アルフの影もそれぞれの前に立ちはだかる。
「カリン、お前の戦いはただの復讐だろう?自分の後悔を晴らしたいだけで、仲間のためなんて嘘だ」
「ユキ、お前は役に立ちたいと思いながら、実は怖くて逃げ出したいだけだろう?」
「アルフ、お前は魔王軍を裏切った罪を贖いたいと言いながら、自分の過去を帳消しにしたいだけの臆病者だ」
影たちの言葉は、まるで心の奥底を覗き込まれたように鋭く、正確だった。カリンは剣を強く握りしめながら叫んだ。
「うるさい!そんなの、どうだっていい!私は前に進む、それだけだ!」
ユキは必死に杖を握り直し、涙を浮かべながらも影を見据えた。
「……怖い。でも、みんなと一緒に進むって決めたんです!逃げません!」
アルフは静かに目を閉じ、深く息を吐いた。
「過去を消せるなら消したいさ……だが、それでも俺は今ここに立っている。それが答えだ」
レオンの覚悟
レオンは影の自分を睨みつけ、深く息を吸い込んだ。そして、迷いを断ち切るように剣を構え直した。
「俺の選択が正しいかなんて分からない。だけど、俺たちはここまで来たんだ。進まなきゃ何も変わらない!」
その言葉に、影のレオンが嘲笑を浮かべた。
「進む先に何もなかったらどうする?すべてを失った後で、その言葉を後悔するぞ」
「それでも構わない。それが俺たちの選んだ道だ!」
レオンの叫びと共に、剣が影のレオンに向かって振り下ろされた。その一撃は影の体を貫き、影は静かに霧散していく。
影の消滅と扉の先
他の仲間たちもそれぞれ影を打ち倒し、広間には再び静寂が訪れた。鏡は最後の輝きを放つと砕け散り、その後ろに新たな扉が現れた。
「これが……真実への扉、か?」
レオンが扉の前に立ち、振り返る。その目には迷いを振り切った覚悟が宿っていた。
「ここで立ち止まるわけにはいかない。行こう、みんな」
カリン、ユキ、アルフがそれぞれ頷き、扉の向こうへと歩みを進めた。その先には、魔王カイザーが待つ最終決戦の舞台が広がっているのだった――。
次回予告
次回、第11話「魔王の本心」。
ついに魔王カイザーとの対峙が実現する。だが、彼が語る真実と目的は、レオンたちの想像を遥かに超えたものだった。討伐か、それとも別の選択か――彼らの覚悟が試される時が来た!
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