第10話 魔王城の真実②

黒い球体が放つ光が徐々に収束していき、空間全体が異様な静寂に包まれた。その静けさは一瞬の嵐の前触れのようで、レオンたち全員が緊張の糸を張り詰める。


「……嫌な感じがするな」


カリンが剣を握りしめながら呟く。その目は黒い球体から伸びる光を見つめていた。


「ただの防衛機構じゃない。この空間そのものが、何かを試しているように感じる」


アルフが低く呟く。その鋭い目は、戦闘の本能を研ぎ澄ませていた。


「試している……?それってどういう意味?」


ユキが不安そうに尋ねる。彼女は杖を握りしめ、いつでも魔法を放てるように準備を整えている。


「簡単な話だ。この場所は、俺たちが本当にここへ進むべきなのかを試しているんだ。多分、覚悟の有無を――」


アルフが言いかけた瞬間、空間が大きく揺れた。そして、黒い球体の周囲に新たな影のような存在が次々と浮かび上がる。それらは、はっきりとした形を持たず、黒い霧が凝縮して作られた異形の生物のようだった。


影のような存在は音もなく動き始めた。その一つがレオンたちに向かって襲いかかる。


「来るぞ!」


レオンが剣を構え、正面から飛びかかってきた影を斬りつける。だが、剣は影の体を通り抜けるだけで、手応えが全くなかった。


「くそっ、実体がないのか……!」


カリンが横から剣を振るうが、彼女の攻撃も同じ結果に終わった。その瞬間、影の一つが黒い霧のような腕を伸ばし、レオンの方へ迫る。


「危ない!」


ユキが叫びながら杖を振り、雷の魔法を放つ。その雷が影を貫いた瞬間、影の動きが止まり、黒い霧が霧散して消えた。


「効いた……!」


ユキがほっと息をつくと、アルフがすぐに補足した。


「そうだ、魔法じゃなければこいつらにダメージを与えられない。レオン、カリン、俺たちが魔法で削る間、こいつらの動きを引きつけてくれ!」


「了解!できるだけ動きを止めてやる!」


カリンが素早く応じると、レオンも頷きながら影の動きを観察する。


影たちは動きが速く、無秩序に攻撃を仕掛けてくる。レオンとカリンはその動きを読み、何とか影たちを引きつける役割を果たしていた。


「アルフ、右側の影を頼む!ユキは左だ!」


レオンが的確に指示を飛ばすと、アルフは闇魔法を放ち、右側の影を一掃する。


「いいぞ、その調子だ!」


ユキも雷の魔法で左側の影を次々と撃ち落としていく。その魔法の閃光が空間を照らし、一瞬だけ影の勢いを抑え込んだ。


だが、戦況が安定し始めたその時、黒い球体が再び輝きを強めた。そして、それに呼応するように、影たちが一斉に形を変え始めた。人型へと進化した影が、赤い目を光らせながらレオンたちを見下ろす。


「これは……!」


カリンが驚愕の声を上げる。新たな形態の影は、先ほどまでの霧のような動きとは異なり、明確な意思を持ったかのように動き始めた。


「ただの魔法では足りない……!」


アルフが焦りの声を漏らす。その言葉を聞いたユキは一瞬考え込み、すぐに新たな魔法の詠唱に入った。


「これでどうですか……!雷槍(サンダーランス)!」


ユキの手から放たれた巨大な雷の槍が、新たな影の一体を貫いた。その影は一瞬で霧散し、完全に消滅した。


「やった!」


ユキが小さく叫ぶが、その喜びもつかの間、残りの影が一斉に攻撃を仕掛けてきた。


レオンは剣を構え直し、迫りくる影を必死にかわしながら仲間に指示を送る。


「このままじゃジリ貧だ……!アルフ、あの球体が奴らの源だろ?」


「恐らくな。だが、球体に直接攻撃を加えるには、影たちの妨害をどうにかする必要がある」


「なら、俺が奴らを引きつける!カリン、ユキ、アルフ、三人で球体を叩け!」


「そんな無茶を……」


カリンが驚きながらもレオンの覚悟を感じ取り、頷いた。


「……分かった。死ぬんじゃないぞ!」


レオンの覚悟


レオンは影たちの前に立ちはだかり、その剣を掲げた。


「来い!俺が相手だ!」


影たちはレオンに狙いを定め、一斉に襲いかかる。その攻撃をかわし、剣で弾き、必死に時間を稼ぐレオンの姿が広間に響く。


その間に、カリン、ユキ、アルフの三人が球体に集中攻撃を開始した。ユキの雷魔法が球体を包み、アルフの闇魔法がその力を削り取っていく。


「これで決める……!」


カリンが全力で剣を振り下ろし、球体に一撃を加えた。その瞬間、球体が大きく揺れ、周囲の影が消えていく。


影が全て消え、黒い球体が砕け散った。空間には再び静寂が訪れた。だが、その静けさを破るように、空間全体に響く声が聞こえた。


「……見事だ、勇者よ。そしてその仲間たち。だが、これで全てが終わったと思うな」


その声に、レオンは剣を収めながら答えた。


「次はお前だな、魔王カイザー……!」


声は深い笑いを残しながら消えていく。広間の奥に新たな扉が現れ、そこにはさらなる試練が待っていることを予感させた。


「やることは変わらない。進むだけだ」


レオンが仲間たちにそう言い放つと、カリンは笑みを浮かべながら剣を肩に担いだ。


「ったく、無茶ばかりさせやがって。でも、その方が楽しいってもんだ!」


ユキも疲れた顔で微笑み、杖を握り直した。


「次はもっと強力な魔法を用意しておきますからね!」


アルフは静かに頷きながら、一歩前へ進んだ。


「準備は整ったな。行こう、次の扉へ――」


そして、レオンたちは新たな扉を開き、さらに魔王城の核心へと足を踏み入れた――。

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