第7話 魔王城への序章

黒い荒野の中、レオンとカリンはついに魔王城の門前へとたどり着いた。その城は巨大な威容を誇り、天を突くようにそびえ立っている。周囲の空気は不気味な静寂に包まれており、風さえも止まっていた。


「……これが魔王城か」


カリンが呟きながら、剣を握り直す。その声にはわずかな緊張が混じっていた。目の前に立つ門は異常なほど大きく、その表面には奇妙な紋様が刻まれている。


「これで最後の砦だ。この門を越えれば魔王城に入れる……だが、簡単には通してくれないだろうな」


レオンが低く言いながら、剣の柄に手をかける。その言葉にカリンは軽く鼻を鳴らした。


「ま、いつも通りってことだろ?」


そう言ったカリンの顔には緊張感を隠すための笑みが浮かんでいた。しかし、門の前に漂うただならぬ気配が、二人を警戒させている。


突然、門が低い唸りを上げながら震え、青白い光が弾けた。その光の中から、巨大なゴーレムのような存在が姿を現した。それは「城門の番人」と呼ばれる魔王城の最終防衛機構だった。


その巨体は漆黒の石でできており、全身から魔力の波動が溢れ出している。片手には巨大な斧を持ち、その一振りで大地を砕く力を持つ。


「来たか……予想通りだな」


レオンが剣を構えながら冷静に呟く。彼の目は敵の動きを鋭く観察していた。


「予想通り!?これ、ただの門番ってレベルじゃないぞ!」


カリンが剣を振り上げながら叫ぶ。その声にレオンは短く答えた。


「門を守るのが役割だ。ここを越えるにはこいつを倒すしかない!」


城門の番人が巨大な斧を振り上げ、その一撃で地面を砕いた。その衝撃波がレオンたちを襲い、瓦礫や砂塵が視界を覆う。


「これじゃ、まともに近づけない!」


カリンが叫びながら、剣で飛び散る瓦礫を弾き飛ばす。その隙間からレオンが駆け出し、ゴーレムの足元に迫った。


「動きが遅いのが唯一の救いだ!」


レオンは剣を振り下ろし、ゴーレムの膝を狙った。しかし、その一撃は石の表面をかすっただけで、ゴーレムにほとんどダメージを与えられなかった。


「くっ、硬すぎる……!」


レオンが歯を食いしばる中、ゴーレムは斧を振り回しながら二人を攻撃し続ける。その圧倒的な力に、レオンとカリンは徐々に追い詰められていった。


戦いが膠着状態に陥る中、遠くから低い声が響いた。


「お前たち、そんな戦い方じゃ、この番人には勝てないぞ」


その声と共に現れたのは、全身を黒いローブで包んだ男だった。彼は冷静な目でゴーレムを見据えながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。


「……誰だ!?」


カリンが剣を構え直して警戒する。その目には敵意が浮かんでいた。


「待て、カリン。こいつは……味方かもしれない」


レオンはその男に目を向け、剣を少し下ろした。彼の直感が、この男が敵ではないことを告げていた。


「俺の名はアルフ。元魔王軍の幹部だ。だが、今は反旗を翻した身……お前たちと同じく、魔王を倒すためにここに来た」


その言葉にカリンは目を見開いた。


「魔王軍の幹部だと!?そんな奴を信じろって言うのかよ!」


「信じるかどうかはお前たち次第だ。ただし、俺の知識がなければ、この番人には勝てないぞ」


アルフは冷静に言い放つ。その言葉には自信が宿っており、嘘をついている様子は感じられなかった。


「この番人の力の源は胸部の魔力核だ。そこを破壊しない限り、どれだけ叩いても倒せない」


アルフがゴーレムを指差しながら続ける。


「だが、魔力核はこの霧で覆われている。この霧を消すには、同時に複数の部位を攻撃して負荷をかける必要がある。俺が指示を出すから、お前たちは動け」


その言葉にレオンは深く息を吸い、短く頷いた。


「……分かった。やるしかないんだな」


カリンも不満げな表情を浮かべながらも、剣を握り直した。


「まったく、変な奴が増えたもんだ。でも、あんたの言う通りにしてやるよ」


アルフの指示のもと、レオンとカリンは連携してゴーレムの部位を攻撃し始める。カリンはその俊敏さを活かして脚部を狙い、動きを封じる。一方で、レオンはゴーレムの攻撃を引きつけつつ、斧の隙を狙って腕部に攻撃を仕掛ける。


「いいぞ、その調子だ!」


アルフが叫びながら魔法を発動し、ゴーレムの霧を一瞬だけ消し去った。その隙に、ゴーレムの胸部に輝く魔力核が露わになる。


「今だ!全力で叩け!」


レオンとカリンは同時に魔力核に向かって突撃し、剣を振り下ろした。その一撃がゴーレムの核を砕き、巨大な体がゆっくりと崩れ落ちていった。


「……倒せたな」


カリンが剣を収めながら息を切らす。崩れたゴーレムを見つめる彼女の顔には、わずかに安堵の色が浮かんでいた。


「アルフ……お前、本当に味方なのか?」


レオンが慎重な声で問いかける。その目にはまだ疑いが残っている。


「信じる信じないは、お前たち次第だ。ただ、俺は魔王を倒さなければならない理由がある。それだけは信じてくれ」


アルフはそう言って、静かに微笑んだ。その表情には、どこか悲しみも宿っている。


「分かった。お前の知識は貴重だ。これからも頼らせてもらう」


レオンがそう言って手を差し出すと、アルフは短く頷き、握手を交わした。


崩れた城門を越えたレオンたちは、魔王城の内部へと足を踏み入れた。そこはまるで永遠に続く闇の世界だった。巨大な石柱が並び、天井はどこまでも高く、冷たい空気が肌を刺す。


「……ここが魔王城の中か。思った以上に不気味だな」


カリンが剣を握り直しながら辺りを見回す。彼女の声にはわずかな緊張が混じっていた。


「静かすぎる……迎撃部隊が待ち構えているかと思ったが」


アルフが眉をひそめながら呟いた。その言葉にレオンも同意する。


「妙だな……ここまで何もないのは不自然だ。何かが待ち受けているのかもしれない」


慎重に進む一行。しかし、彼らが広間のような空間に入った瞬間――。


突然、遠くから小さな爆発音が響いた。石柱の影で何かが動き、明らかに混乱した様子でこちらに近づいてくる。


「誰だ!?」


カリンが鋭い声を上げて剣を構えると、石柱の影から現れたのは若い女性だった。青いローブをまとい、手に魔法の杖を握っている。彼女は怯えた表情を浮かべながら、必死に息を切らして駆け込んできた。


「お願い、助けて!」


彼女はそう叫ぶと、レオンたちの前で立ち止まり、後ろを振り返る。その視線の先には、黒い獣のような魔物が複数体、彼女を追って現れた。


「何者だ!?何でこんなところにいる!」


カリンが問いかけるが、女性は魔物に気を取られ、答える余裕がない様子だった。


「話は後だ!あいつらを倒す!」


レオンが剣を抜き、前へと躍り出た。アルフも後に続き、即座に魔物と戦闘を開始する。


魔物は鋭い爪を振り回し、レオンとカリンに襲いかかるが、二人はそれを見事にかわしながら反撃する。一方、アルフは闇の魔法を放ち、魔物の群れを一掃しようとしていた。


「火球!行け――!」


突然、女性が杖を振り、火の玉を魔物に放った。その一撃で複数の魔物が吹き飛び、燃え尽きる。


「……やるじゃないか」


カリンが目を丸くしながら呟く。その間にも、レオンが最後の魔物を斬り伏せ、戦いは終わりを迎えた。


魔物がいなくなったことで、広間に静寂が戻った。女性は肩で息をしながら、ようやく姿勢を正し、頭を下げた。


「ありがとうございます……本当に助かりました!」


「で、あんたは誰だ?」


カリンが剣を収めながら問いかける。その声には警戒心が含まれていた。


「あ、私はユキ。魔法使いです。ここの異変を調査していて……その途中で魔物に襲われて、逃げてきたんです」


「調査?」


レオンが疑問の声を上げると、ユキはうなずきながら説明を続けた。


「この魔王城が原因で、周囲の土地に異常な魔力が広がっているんです。それを止める手がかりを探していたんですが……迷い込んでしまって」


その言葉に、アルフが少し驚いた表情を浮かべた。


「……なるほどな。普通の人間がこんなところに来るなんて無謀だと思ったが、それなりに理由があるようだ」


「でも、こんなところで一人で何ができるってんだ?」


カリンが呆れたように言うと、ユキは困った顔で笑った。


「そうですね……正直、一人じゃどうにもならなかったです。でも、皆さんに会えて本当に良かった!」


その明るい笑顔に、カリンは呆れながらも少し肩をすくめた。


「なら、この先はどうするつもりだ?」


レオンが問いかけると、ユキは少しの間考えた後、力強く頷いた。


「私も一緒に行かせてください!この魔王城を調べる目的もありますし、皆さんの力になれるかもしれません!」


「お前みたいな新人が足手まといにならなければいいけどな」


カリンが冷たく言うが、どこか悪意のない言葉だった。


「いいだろう。ここから先は危険な道のりだが、魔法使いが一人増えるのは助かる」


レオンはユキの申し出を受け入れた。その言葉に、ユキは喜びの表情を浮かべた。


「ありがとうございます!全力で頑張ります!」


ユキを仲間に加えたレオンたちは、さらに魔王城の奥へと進んでいった。道中には、崩れた廊下や荒廃した装飾品が散乱しており、不気味な雰囲気が漂っている。


「……あの柱、ただの飾りじゃなさそうだ」


アルフが前方を指差した。そこには黒い柱がいくつも立ち並び、その間を魔力の流れが漂っている。


「罠か……?」


レオンが慎重に近づこうとするが、ユキが慌てて止める。


「ちょっと待ってください!あれは、魔力を感知して攻撃する防衛システムだと思います!」


「詳しいじゃないか」


アルフが感心したように言うと、ユキは少し照れくさそうに笑った。


「少しだけ魔法工学を勉強していて……この柱を無効化する方法もあるかもしれません」


新たに加わったユキの知識と魔法を活用しながら、レオンたちは黒い柱を突破する作戦を立てる。アルフの経験、ユキの知識、そしてレオンとカリンの戦闘能力が一体となり、彼らは少しずつ強いチームとして成長していく。


次回予告


次回、第8話「忠実なる盾」。

魔王城の奥深く、レオンたちの前に現れるのは魔王カイザーの忠実なる盾・ゼクス。彼の圧倒的な力と不屈の意志が、レオンたちを追い詰める。一方、新たに加わったユキの魔法が勝利への鍵となるか?魔王討伐の旅はさらに緊張感を増していく――!


読者メッセージ


最後までお読みいただきありがとうございます!第7話では新たな仲間ユキが加わり、チームとしての成長が描かれました。魔王城の奥に進むにつれて、ますます試練は厳しくなっていきます。次回はいよいよ魔王軍の強敵との激突が描かれます!感想や応援のコメントをお待ちしております。次回もお楽しみに!


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