No.03『孤独で嫌われ者の死霊術師(ネクロマンサー)』
タケルとエルスは宿から出て、ギルドへと向かう。
宿から出たときに店主の様子が少し、変な顔をしたことに、タケルは違和感を持った。
ギルドに入り、クエストボードからクエストを選ぶ。
「スノーウルフ、5匹の討伐…。難易度は、星3か…。」
難易度の星は、最大五段階なので、このクエストの難易度は、中くらいである。
冒険者見習いには高い難易度だが、初心者クエストのない今では、最低の難易度がこの星3だった。
「なぁ、君は隠密スキルに長けてるんだよな?」
タケルが、エルスの方を見ていう。
エルスは、正面を見たまま答える。
「はい。並の冒険者には負けない程度には。それ故に、今年までの80年。誰にも見つからずに暮らしてきました。」
「なら、このクエスト。2人でクリアできると思うか?」
タケルは、先程まで見ていたクエストの書かれた紙を指さす。
「さぁ?ご主人様が足を引っ張らなければ5匹程度なら可能ですが。」
「はは、頑張るよ…。」
苦笑いをしたタケルは、受付へと向かう。
「すみません。聞きたいことがあるんですが…。」
「はい?どうしまし…っぷぷ。」
緑の服を着た受付嬢が、タケルの方を向いて、笑い出した。
爆笑する受付嬢を不思議に思うタケルに、彼女は手鏡でタケルの顔を見せた。
そこには、マジックで眼鏡やひげが書かれていた。
「は⁉ なんだこれ?いつのまに⁉」
タケルが、エルスの方を向いて聞く。
エルスは真顔のまま答える。
「私が首輪を付けられて起きたときには、すでに書かれてました。」
エルスの答えで犯人に気づき叫ぶタケル。
「あんのど畜生がぁ!!」
——————————
タケルは、お手洗いで顔を洗い、再び受付嬢に質問をする。
「クエストの受注ってどうすればいいんですか?」
「あ、昨日冒険者になりたての方ですね。クエストは、頼みたい方とギルド内での契約となってまして、冒険者にはその手伝いをしてもらっている。という形をとっていますので、納品であれば品を、討伐であれば、それが証明できるものをギドに持ってきてくだされば、その場で報酬を渡します。」
「つまり、あのボードからどのクエストがやりたい。っと報告する必要はないということですか?」
「はい、その通りです。しかしそれでは、せっかくクエストをクリアしたのに先を越されてしまった。なんてことも起きてしますので。こちらの受付で行いたいクエストを予約できます。そうした場合、そのクエストをボードから外しますので、安心してクエストに集中してください。
ただ、予約には、300モガンかかりますし、成功報酬の10%をギルド側がいただくことになりますので、ご注意ください。」
タケルは、それを聞くと、クエストボードから目当てのクエストを取り、受付に持っていく。
「では、こちらの『スノーウルフの討伐』は予約が必要ですかね?」
「そうですね。こちらは、難易度もそこまで高くはありませんし、予約をしておいた方が賢明かと思います。」
「では、予約をお願いします。」
タケルは、受付嬢に300モガンを払い、予約をする。
「ところで、さっそくパーティーが出来たんですか?」
受付嬢がエルスの方を見る。
顔をそらして隠す。その動きでエルフ耳が髪からあらわになる。
その耳と首輪を見た嬢は、なるほど、というような顔をして言う。
「ああ、即戦力ですか。まぁ、クエストの難易度も高くなっていることですし、賢明な判断でしょう。」
そして、嬢が笑顔になって言う。
「それでは、いってらっしゃい。無事に帰ってきてくださいね。」
——————————
森の中を進みながら、エルスはタケルに聞く。
「ご主人様は、スノーウルフと戦ったことがございますか?」
「いや、魔物と戦うことすら初めてだ。」
「そうですか。であれば、彼らの特性をお教えしますね。彼らは、集団で獲物を襲います。そして、その数が多ければ多いほど仲間を呼びだします。」
突然、エルスが姿を消す。
「なので、ご主人様1人と思われたほうが良いです。私は、隠れて遠くから狙いますから、ご主人様は囮になってください。」
「おい!ちょっと待て!!」
タケルが叫ぶと、その声を聴いたのか、白い姿に赤い目をした、スノーウルフが姿を現す。
「あーあ、ご主人様が大きな声を出すから、スノーウルフたちが来てしまいました。私は、遠くで応援しますから、頑張ってくださいね。」
「おい!」
タケルが、どこからともなく聞こえる声に文句を言っていると、その隙にスノーウルフ5匹に囲まれる。
タケルは剣を構え、背後から攻撃されないようにゆっくり回りながら全方向を警戒する。
「後ろ!!」
エルスの声に、すぐに振り向き背後からの攻撃を止めるタケル。
「ありがとう!エルス!!」
タケルが礼を言うが、帰って来たのは思いもよらない回答だった。
「ちっ。外したか。」
「おいこら!聞こえてるぞ!」
タケルの集中が、途切れたのを確認したスノーウルフが一斉にタケルを襲い始める。
「うわぁ!!」
「いけいけ、スノーウルフ!頑張れ頑張れスノーウルフ!!」
エルスの応援の声が、森に広がる。
ふと見ると、木々の隙間から腕を振るエルスの姿が見えた。
「おい!見えてるぞ!ふざけてないで、助けてくれ!!」
タケルが、スノーウルフの群れを何とか抜け出し、エルスの元へ走る。
スノーウルフ達が、タケルを追いかけてくる。
「やべぇ!」
スノーウルフが、タケルに飛びかかる。
その直前で、エルスがスノーウルフを射抜く。
「はぁ。馬鹿ご主人様のせいで、私の身も危なくなったじゃないですか。」
エルスが、4本連続で矢を放つ。
それは、スノーウルフの体を射抜く。
「エルス、弓を持っているなとは、思ってけど、そんなに狙撃得意だったのか。」
「まぁ、隠密スキルで姿や気配を消しても、近づいたらバレやすくなりますからね。狙撃も練習してます。」
「なら、もっと早く助けてくれよ…。」
「嫌です。ご主人様が死んだ後、1人で報酬を頂くつもりでしたし。」
笑顔で答えるエルスに、ため息をしつつ、スノーウルフを紐で縛り持ち帰るタケル。
——————————
「はい。スノーウルフの討伐5匹。無事確認できました。それでは、報酬の20万モガンから、手数料を引いて、18万モガンをお渡しします。」
「そういえば、クエストって、ギルドが出していると言うより、誰かの依頼をクエストボードに出している。ように感じるのだけど。報酬を今貰って大丈夫なんですか?」
「ええ、依頼主には、後にギルド側から依頼が無事完了したと報告した後、報酬を頂くので。ご心配ありがとうございます。」
笑顔で答える受付嬢に、「へぇ〜。」と言いながら報酬の入った袋を受け取る。
そして、報酬の半分。9万モガンをエルスに渡した。
「ほい、今回の報酬。」
「は?」
エルスが、訳も分からないという顔をする。
「ああ、そうか。倒したのは君だもんな。どのぐらい欲しい?」
「いや、そっちじゃなくて。私、貴方の奴隷ですよ。奴隷に金を払うって、スノーウルフに囲まれて、頭おかしくなりました?」
「そこまで言う⁉」
「そこまで言われる事ですよ。奴隷に自由になる金を払うなんておかしいことですよ。」
エルスの答えに、嬢も頷く。
「昨日も言ったけど、俺達は仲間なんだ。」
「そんなお人よしでは、絶対後悔しますよ。」
エルスは、報酬を貰い、クエストボードの方に行く。
「珍しい方ですね。奴隷を買うのにも多額のお金が必要だったと思いますが…。」
「まぁ、即戦力として仲間が欲しかったから、前金というか、課金の力というか…。」
タケルは頭を掻いてそう言った後、「ところで。」と嬢の方を見る。
——————————
「というわけで、仲間募集の紙を貼ってもらいました。」
「は?」
タケルとエルスは、ギルドの食堂で食事をしながら会話をしている。
エルスは、タケルの言葉に、目を細める。
「そ、そんな、何言ってんだこいつ。みたいな顔をしないでくれ。」
「しますよ。仲間が欲しいのは分かりますが、さっきの結果を見て、仲間を増そうと、すぐに思ったんですか。」
「思った。」
「何故です?」
「君、俺が死ぬように仕向けるじゃん。俺の身が持つか心配だよ。」
「安心してください、死んでくれた方がうれしいので。」
「どう安心しろと⁉」
タケルが、ため息をついて、スープを飲もうとした時、「あの~。」とか細い声が聞こえた。
タケルが、声のしたところを見ると、紫の髪を伸ばした、赤目の女性が、柱に身を半分隠しながらこちらを見ていた。
女性は、とても小さな声で言う。
「え~っと、わ、私…。仲間募集のちらしを見て…。そ、そのえ~っと。」
「え?なんですか?」
あまりにも小さな声に、聞き返すタケル。
女性は、その言葉に怯え、柱に身を隠す。
「い、いえ。あの…、すみません!!」
エルスが、軽蔑するような目でタケルを見る。
「あ~あ、泣~かした。泣~かした。」
「えぇ⁉」
「すみません、すみません。こんな、暗くて、不気味で、気持ちの悪い、
突然、虚ろな目をして話す女性に、タケルは「お、おい…。」と言う。
しかし、その声は女性には聞こえず、彼女は黒いローブからナイフを取り出す。
「もう、こんな私なんて、小指切って悶えてればいいんです!!」
「ちょ、ちょっと待て、その中途半端な自傷願望をやめろ!!」
——————————
「チリ・デットネス。職業は、
タケルは、目の前で、目をそらしながら「えへへ。」と陰鬱そうに笑う女性から、ギルドカードを見せてもらう。
「なぁ、
陰鬱な女性、チリが、身を乗り出して答える。
「それはもう、可愛い可愛い死霊達を、召喚して一緒に戦ったり、闇魔法で相手を攻撃したり。」
「お、おう…。」
「死霊を呼びだすには、霊力が必要なんですが。これがまた、面白くて———」
突然元気になり、話し続けるチリを無視して、タケルは、エルスに聞く。
「ゲームでいうところの、サモナーやウィザードみたいな感じか?」
「ゲームが何だかわかりませんが。
エルスのその言葉を聞き、涙目になるチリ。
「そ、そうですよね。私なんて、所詮。
チリの怪しい雰囲気に、タケルは声をかける。
「お、おい。」
「足の小指をぶつけて、苦しんだらいいんですよ!!」
「だから、その中途半端な自傷願望をやめろ!!」
——————————
「ゴブリン10体の討伐。これも、星3か。ゴブリンなんて、弱いイメージあるけどな…。」
タケルは、チリを仲間に入れ、新たなクエストを探す。
チリが、タケルの方に近寄る。
「あ、あの。ありがとうございます。その、私を仲間に入れてくれて…。」
「うん、まぁ。俺の命を狙ってるやつと2人きりより、ましだし。」
タケルは、後ろにいるエルスの方を目だけで見ながら言う。
タケルは、ゴブリン討伐のクエストを予約して、森へと向かう。
——————————
森を少し進むと、ゴブリンの群れに出くわす。
数は丁度10体、小刀と盾を持ったものが9体、1体は弓を持っていた。
「あいつらか、行くぞ!」
チリが、突っ込むタケルを止める。
「あ、えっと…。ここは、私に…。」
チリは、ドクロの付いた杖を地面に突き刺し、呪文を唱える。
「汝、死を超越し、我が剣と成れ!スケルトン!!」
チリの足元から展開された魔法陣から、小さな盾と、両手剣を持った骸骨が現れた。
「おぉ!!」
タケルが驚きの声を上げる。
骸骨は、ゴブリンに向かって走り出し、両手剣を振り下ろす。
「よし、しっかりキズを負っているぞ。で———」
タケルが、チリの方を見る。
「貴方自身は、何をするんです。」
その期待の眼差しを貰い、チリは焦る。
「あ、えっと…。ソ、『ソウルクラッシュ』!!」
チリの杖から、小さな黒い球が放たれる。
それは、ゴブリンに当たり、爆発する。
「おぉ!!」
タケルは再び驚きの声を上げる。
しかし、煙が消えてくると、「え?」とタケルは言う。
なんと、先程の爆発が嘘のようにゴブリンの体にはかすり傷しかなかった。
「え?ちょっと、チリさん?今の爆発で、あれだけ?」
「ソ、『ソウルクラッシュ』は、相手を脱力させて、弱らせるのが本命の技で、火力は…。」
焦るチリを見て、エルスが言う。
「ほ~ら、これだから
その言葉を聞いて、黙って下を向くチリ。
「分かりました…。」
今までより低い彼女の声に、タケルとエルスは驚く。
チリは低い声で、続ける。
「分かりました。火力を見せれば良いんですよね?
タケルさん。ゴブリンを一か所に、なるべく狭く集めてくれますか?」
「あ、はい。分かりました。」
タケルは、ゴブリンを挑発し、9体のゴブリンを集める。
「これでいいか?」
「1体残っていますが、まぁ、いいでしょう。さぁ、スケルトン!あのゴブリンに突っ込むのです!」
チリの命令で、骸骨がゴブリンの集団に突っ込む。
チリは、再び杖を地面に刺す。
「汝、その魂を火種にし、尽くを破壊せよ‼ 『コープスバースト』!!」
チリが、杖を取り出し、骸骨に向ける。
骸骨は、体から光を放ち、大爆発を起こす。
煙が晴れると、吹き飛んだゴブリンの死体と、タケルが倒れている姿が見える。
「お!ご主人様も一緒に死んだか?」
「あ、すみません。生きてますか?」
2人の言葉に、ボロボロになったタケルが顔を上げ叫ぶ。
「殺す気か!」
「ちっ、生きてたか。しぶとい奴め。」
「おいこら、そこのハーフエルフ!! そろそろ殴るぞ!!」
ツッコミを終えたタケルが立つ。
その直前で、エルスが矢を放つ。
矢は、タケルの頭をかすり、後ろにいた弓を持つゴブリンを打ち抜く。
「よし、これで、10体ですね。」
しれっとしたエルスに、タケルが叫ぶ。
「おい、お前ぇ。しれっと、俺も撃ち殺そうとしたよな!!」
「何を言ってるんです。
口笛を吹くエルスに、タケルは「事故をよそって、殺す気だったろ!」とツッコミを入れる。
その後、彼はチリの方を向く。
「それと、チリさん。爆発させるなら一声かけてください。」
「すみません。むきになりすぎました。」
「しかし、あんなに強い技なのに、なんですぐに使わなかったんですか?」
タケルの質問にチリは説明をする。
「先ほども言いましたが、死霊を呼ぶには霊力が必要なんです。この霊力が、朝になるとすっからかんになり、夜が近づくにつれて増えていくんです。昼間に、そうぽんぽんと、死霊を出せないので、コープスバーストは奥の手なんです。」
「なるほど、ちょっとめんどくさいな。」
タケルは、「しまった。」と思う。
また、彼女の自傷願望が発動する。そう思ったのだが、
「そうですね、なので私は、朝の戦いは弱いです。ご理解お願いします。」
「あれ?」
チリは、特に気にしてないように答えた。
タケルたちが、ゴブリンを回収しようとしていると、突然大きな足音が近寄ってくる。
「なんだ!」
「これは…。」
タケルと、チリがあたりを警戒する。
「ステルス。」
そして、エルスは姿を消す。
「あ!1人で逃げた!」
叫ぶタケルの頭上に、大きな一つ目を持つ大きな鬼が近づく。
「わぁ!」
タケルとチリは、鬼から逃げ出す。
「あ、あれは、なんです!!」
「あれは、トロールです。めちゃくちゃ危険な魔物です。」
トロールは声を上げ、持っている棍棒で、2人をつぶそうとしてくる。
——————————
2人は、夜まで走り、途中で疲れて倒れてしまう。
しかし、トロールはしつこく追いかけてくる。
「ど、どうしましょう。チリさん!!」
タケルが、チリの方を向くと、チリはゆっくりと立ち上がった。
「チリさん?」
再び変わった彼女の様子に、タケルは不安を覚える。
チリは、タケルの方を向いて言う。
「誰が、チリさんじゃ!」
「え?」
立ち上がったチリに、トロールが追い付く。
「吾輩は、最高のアンデット族、リッチ。その中でもそこそこの死霊術の使い手。チリ様であるぞ!タケル。そこになおれ!」
チリの突然の変貌に、タケルは正座をする。
「い、いやけれど、チリ様?今、トロールが迫ってきて。ピンチなんですけど。」
「ああ?」
チリが、トロールを睨むと、トロールも彼女を睨む。
「何じゃその目は。吾輩に戦いを挑むというのか!」
チリが、地面に杖を刺し、呪文を唱える。
「汝、死を超越し、我が盾となれ!アーマーファントム!!」
魔法陣から、大きな槌と大きな盾を持った鎧が現れる。
鎧が、槌をトロールのすねにぶつける。
トロールは、鎧を睨み、棍棒を振る。
鎧は、それを盾で受け止める。
「フハハハハハ!そんな攻撃。無駄であるぞ。その程度じゃ、アーマーファントムに傷1つつかぬわ。さらに———」
チリは、地面を蹴り、空を飛ぶ。
「『デットリーカース』!!」
紫の玉が、チリの杖から放たれ、トロールを包む。
「フハハハハハ、貴様も我が下僕にしてやろうかぁ!!」
「お~い、某閣下みたいになってるぞ。年齢に一万が付きそうになってるぞ。」
タケルのツッコミに、チリが振り向く。
「なめるでない!吾輩は、まだぴちぴちの百歳じゃ。一万など。そんな大先輩の方と並べるでない!はずかしい。」
「なんで、微妙に謙遜するんだ…。」
紫の玉が、トロールを開放する。
トロールの体には傷1つ付いていないが、魂を抜かれたかのように、倒れる。
「おおう!」
驚くタケルに、チリは胸を張る。
「フハハハハハ。どうじゃ!これが吾輩の力じゃ。さて、吾輩の力を知ったところで。」
チリが手をタケルに向ける。
「これからよろしく頼むぞ。タケル。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます