No.02『所詮、現実は夢物語のようにはいかず』

 タケルは、それから、毎日働き、4日目の夜。

 突如、タケルの部屋に穴が開き、ド下劣畜生女が姿を現す。


「『少年、今日はどうした?確か、ワタシの記憶だと、ギルド登録に必要な金は、3万モガン。君は、律儀に働き、昨日で、3万稼いだ。ワタシからも、3万与えただろう。』

 『宿代で多少減ってはいるだろうが、今日、ギルドに登録出来たのではないか?』」


 タケルは、嫌なものを見る目をして答える。


「お前に文句言ったら、まーた薬漬けにしてきそうだから言わなかったんだがな。お前が用意した金なんて、めっちゃ怪しいじゃないか。」


 それを聞いた『モーガン』は「『そんなことか』」と、近くにあった椅子に座る。


「『それに関しては気にしなくていい。というか、モガンという単位から気が付かんのか?今、この世界は、ワタシが所有しており、この世界の通貨は、ワタシが作っている。だから、お前に渡した金は、偽金でもなんでもない。好きに使うがいいさ。』」


 その話の後、空間に穴が開く。

 その穴に、『モーガン』が入ろうとして、振り向く。


「『忘れていた。チートスキルの件はどうだ?なにか思いついたか?』」


 タケルは、それに首を振る。


「いや、まだだ。というか、まだ冒険してないんだ。何が有用なのか、分かってない。」


 それを聞いた『モーガン』は「『それもそうだな。』」と言って、穴の中に入る。


 ——————————


 タケルは、朝起きてすぐ、ギルドの受付に向かった。


「すみません、ギルド登録をしたいのですが。」


 緑の服を着た受付嬢が、タケルに笑顔を見せる。


「はい、登録の手続きですね。初めに、3万モガンいただきます。」


 受付嬢は、タケルから、3万モガンを得る。


「確かに。それでは、まずこちらの書類に、お名前と、ご職業を記入してください。」


 受付嬢から渡された、書類を見て、質問をする。


「あの、俺、今日から冒険者になるんで、職業とかないんですけれど…。」


「ああ、それでは、『冒険者見習い』ということになりますね。」


 タケルが、書類を記入して提出する。

 受付嬢は、書類を確認する。


「タケル=コウノ、冒険者見習い。はい確認しました。それでは、あちらの部屋で、ステータスを調べさせてもらいますね。」


 タケルは、受付嬢に示された部屋に入る。

 そこには、黄色い服をきた、元気な女性がいた。


「あ!ステータスの可視化ですか?それじゃあ、ギルド登録の書類を確認しますね。」


 タケルが、黄色の女性に書類を渡し、彼女はそれを確認する。


「ほうほう、タケルさんですね。それじゃあ、この魔道具に、触れてくれますかね?」


 女性は、二つの支えを得た球体を指す。

 タケルが、それに触れると、下にあるカードに光を指す。

 光が消えた後、文字と棒グラフが書かれたカードを確認する女性。


「ふむふむ、腕力、胆力、知力、精神力、俊敏さ。すべて普通…。ですね。」


 女性の答えに、気を落とすタケル。

 それを見て、女性は、慌てた様子で励まし始める。


「あ、えーと、ほら?苦手なものがないんですから、訓練次第でどんな職業にもなれるということですし。」


「ははは…。」


「それにしても。冒険者見習いなら、平均的な事は良くありますが。何一つ、得意、不得意が無いとは…。」


 女性の最後の言葉に、テンションを取り戻しかけた、タケルは再び気を落とす。


 ——————————


 ギルド登録が終わり、ギルドカードを得たタケルは、次に装備を買いに行った。

 しかし、鉄の剣1つ買うので、精一杯だった。


 その夜、再び顔を表す、ド外道鬼畜女。


「『今日は、ギルド登録お疲れ様。次は、クエストってやつだな。』」


「ああ、だが、今は初心者向けのクエストはないらしい。魔物が、落ち着いているおかげで、初心者に頼める採取などは、本人が行える。わざわざ、高い金払って、クエストの依頼する必要はないらしい。」


「『ほーう。』」


 それを聞いた、『モーガン』は、目を細める。


「(うっ、こいつ。なんか嫌な事考えてるだろ。)」


「『ねぇー、タケルくぅーん。』」


 甘えるような声を出し、今まで見たことがないような満面の笑みを浮かべる『モーガン』


「『実はぁ、ちょーっと、この辺りを見ていたらぁ。この宿を出て、右にある3つ目の建物の裏で、奴隷商人が、金髪のハーフエルフを売ってたんだよねぇ。確か、宣伝文句は、『優秀な隠密スキル持ちで、見た目も良い!!』だったかねぇ。』」


 嫌な顔をするタケルに、顔を近づけていた『モーガン』が、突然真顔になる。


「『君、それを買え。』」


「はぁ?突然何言ってんだよ。アンタ。」


「『いやぁ、君、金なくなっただろ?で、初心者用のクエストも無い。また、コツコツ働くのもいいけど、待ってるのが面倒くさくなった!せっかく優秀な仲間が買えるなら、頭数増やして、高ランククエストしに行けばいいじゃないか!』」


「いや、でも奴隷なんて、非人道的な…。仲間募集とかすれば、良いじゃないか!」


 タケルの言葉に、眼鏡を外してタケルをさし、目を細める『モーガン』。


「『少年…。それは、なんてジョークだ?仲間募集をかけたところで、ステータスオール普通の平凡で戦ったことの無い、何をやらせればいいか分からない、冒険者見習い1人の仲間になる奴がいると思うか?』」


「うっ…。」


「『ということだ、幸い君は、まだチートスキルを貰ってない。仲間を最初から手に入るチート!って思っとけ。ほら、5万2千モガン。』」


 『モーガン』から、金貨の入った袋が渡されるタケル。

 彼は、『モーガン』を睨む。


「おい待て、なんでそんなに具体的な金額を。」


「『はい、立つ!はい、走る!時は金なり!』」


「なんでそんなに、急かすんだよ!!」


 ――――――――――


 タケルは、奴隷商人の元へ着いた。


「すみません、ここに隠密スキル持ちの金髪ハーフエルフの奴隷がいると聞いたのですが…。」


 奴隷商人は、首を振る。


「ああ、すまないが予約が…。おや?黒髪に、黒目の男…。」


 商人は、タケルをまじまじと見る。


「すまないがお客さん、名前を教えてくれないか?」


「タケルです。」


 タケルは、商人にギルドカードを見せる。


「なるほど、君がモーガンという女の言っていた、男か。」


「モーガンを知ってるんですか⁉」


「ああ、タケルという男が金髪のハーフエルフを買うから、取っておいてくれと言われていた。」


 商人は、背後にある簡易的な建物から、金髪を長くした、美形のハーフエルフを連れてきた。


「こいつが、そのハーフエルフ。『エルス』だ。じゃあ、この契約書に署名してくれ。」


 タケルが、契約書を見て、言う。


「この、『命の鎖』って何ですか?」


「ああ、それにチェックを入れれば、私が奴隷に、主人が死んだときに奴隷側も死ぬ呪いをかける。殺人能力が高い奴隷を買う時に、主人の身の安全を守るために使う契約だな。だが、逆に自滅願望のある奴隷に使うと、逆に殺されかねないから、チェック欄を設けている。」


「そんな、非人道的な…。」


 タケルは、それにチェックを入れることはしなかった。


「『命の鎖』は無し…か。それじゃあ、この首輪を絶対に外すなよ。この首輪は、奴隷が主人に歯向かおうとしたときに、奴隷の首が閉まるようにできている。主人以外に外せないようになっているから、決して首輪を触りながら、外れることを望んだらダメだぞ。」


 商人が、エルスを押す。


「金も貰ったし、契約成立だ。ほら、お前、タケルさんに挨拶しろ。」


 エルスは、黄色い目で、タケルを睨む。


「これからよろしくお願いします。ご主人様。」


 ——————————


 タケルは路地から出ると、エルスの首輪を外した。


「は?」


 エルスは自分の首を触り、タケルの方を不思議そうに見る。


「何をやっているんですか、ご主人様。隠密スキルには、暗殺スキルも兼ね備えてます。首輪をつけておかなければ、私に殺されますよ?」


 タケルは、エルスに笑顔を見せる。


「俺が欲しいのは、奴隷じゃなくて、一緒に冒険してくれる仲間だからね。俺の事呼ぶ時も『タケル』でいいから。」


 エルスは、タケルの言葉を聞いて、満面の笑顔を見せる。


「ありがとうございます。タケルさん。」


 ——————————


 夜、タケルが眠っている所に、小刀を持つ女性が現れる。


「さすがの無知ブリには、驚いた。奴隷を初めて買ったとはいえ、仲間といえば愛してもらえるとでも思っていたのか。」


 エルスは、小刀を振り上げる。


「それじゃあ、あの世で大切な仲間を手に入れなさい!おバカさん!!」


 エルスが、小刀を振り下ろす。その瞬間、『モーガン』の手刀によって気絶させられる。


 ——————————


「『起きたまえ、少年。早く起きないと、顔面が…、ぷぷっ。』」


 『モーガン』の声に、目を覚ます、タケル。


「『お?起きたか。』」


「今、何を隠した?」


「『いや、これに関しては、いいじゃないか。ところでこれを見たまえ。』」


 『モーガン』は、床に倒れているエルスを指さす。


「あれは⁉」


「『馬鹿だね、君は。相当な馬鹿だね。ちょっとギルドカード見せて見ろ、知力マイナスだろ君は。』」


「おい、そこまで言うか?どういうことだよ。」


「『買ってきたばかりの奴隷に、首輪を付けないなんて、馬鹿だろ。つい先ほど、この奴隷は君を殺そうとしていたのだぞ。』」


「そ、そんな。でも首輪なんて…。」


「首輪がだめなら、こんな物でも使うか?」


 『モーガン』は、空間に出た穴から謎の箱を取り出す。


「今更だけど、その穴何?」


「『異世界にあるワタシの部屋に通ずる穴だ。便利だぞこれ。』」


 彼女は、冷気を放つ箱から試験管を1つ取り出す。


「なんだそれ?」


「『いわゆる『惚れ薬』だね。これを飲ませれば、心の奥底から、発情させられるからな。その間に、あんなことやらこんなことやら、して好感度を上げていくという作戦だ。』」


「媚薬じゃねぇか!それもそれで、非人道的だろ。」


「『はぁ、それじゃあ何か?のろのろコツコツと好感度を上げてくのか?別にワタシは構わんが、この奴隷が起きれば、また殺されるぞ?言っておくが、勇者補正で蘇生なんてものはないからな?』」


「じゃあ、どうすれば…。」


「『首輪を付けておくしかないねぇ。好感度が上がるまで、殺されないようにしつつ、いずれ外せばいいだろう。』」


「くそ、そうするしかないのか…。」


 落ち込むタケルに、首輪を渡す『モーガン』。


「『奴隷として扱わなければ、仲間として扱えるなんて夢物語なんて起きるわけないだろ?』」


 タケルは、ため息をつきながらエルスに首輪を付ける。


「『じゃあ、ワタシはこれで失礼するよ。』」


 『モーガン』は、冷気を出している箱に惚れ薬を戻す。


「そういえば、今回は白衣から出さないんだな。」


「『まぁ、そっちの方がかっこいいんだけどさぁ。この薬、30分以上常温保存すると爆発するんだよね。』」


「え?」


「『いやぁ、あの時は大変だったよ。自然に効力が抜けてかないから、増幅する己の欲を必死に抑えて、時より発散して、効力を消す薬を、現実世界で一年ぐらいか?そのぐらいかけてやっと完成させたんだよねぇ。』」


 顔を赤らめ下を向くタケルを見て、にやりと笑う『モーガン』。


「『おやおや?もしかして、えっちぃな想像しちゃったのか?少年。やはり、あの薬をあの娘に飲ませて君の欲のはけ口に使えるように。』」


「やめてくれ。」


「『あ、はい。分かりました。』」


 いつも以上に冷たい口調のタケルを見て、『モーガン』は穴へと消えていった。


 ——————————


 次の日、ベッドから起きたエルスは自分の首を確かめる。


「起きたか、エルス。」


 タケルが、笑顔で話しかける。

 エルスは、膝を抱えながらタケルを睨む。


「首輪を付けているということは、私がご主人様を殺そうとしたのはバレているんですよね。」


「そうだね。」


「ということは、私は処分ですよね。分かってますから無理な笑顔をしなくて良いです。」


「まさか、そんなことしないよ。言ったじゃないか、俺達は仲間だ。」


「は?私は、貴方を殺そうとしたんですよ?」


「ま、まぁだから、しばらく首輪は、つけさせてもらうけれど。」


「そうですか。」


 タケルの言葉に、エルスは偽りの笑顔を見せる。

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