第二世代。
2071年、日本では人という存在は子どもが持てない、作れない体になっていた。
それは、そういう風な体質……進化をしたからとか、そんな病気が流行したから……とかでもない。
人間が、子育てを終えたあとの世代、それより前の世代の日本人が人口を安定化させる政策をとったためだ。
簡単に例えると、繁殖しすぎた猫とか犬の生殖機能を取っ払って数を増やせないようにする。
そんな、馬鹿げた政策が2057年頃に開始されたからだ。
2030年頃、人間の番を増やすため、一つの政策が行われる。人口減少の一途を辿っていた日本が子どもを増やすために、後に遺伝子結婚とも言われる相性のよい男性と女性を許婚として母胎から誕生の後、あてがわれる政策。
もちろん、拒否権はあったが嫁に婿と、お互い探す手間が無くなるために意外と長く、安定して続いた。
もちろん反対行動など、議論もされる政策ではあったが強制的ではないため一つの生き方ととらえられるようになった。
しかし、だ。問題になり始めたのが23年ののち。あまりにも若者世代が増えすぎてしまい、また少子高齢化が過度に達してしまうと後の人口予想に多数結果がでてしまった。このままでは現実になると話題になって問題の解決に政府が取り掛かりはじめたのだ。
そして今、人口安定化政策と称される第一世代、第二世代の子ども達に別れ、現在に至る訳だ。
なにぶん、僕の、大鳥あとりの一日を見た人ならばもう既にお分かりだろう。
第一世代が第一子として出生した本来の性別のある人間。第二世代と呼ばれるのが第二子以降に産まれた生殖機能を取り払われた中性的な人間達の事だ。
まったく、気づけば自分は男女どちらでもない意図して作られた第三の性別だなんて、世知辛いもんだよ、ほんと。
入学式から一週間、初めてづくしから慣れてきて今日も正午になろうという時。
みんなが友達作りに励んでる中、一人出遅れた僕はそそくさと弁当箱の入った巾着を取り出す。
「いえーい、今日学校終わったらゲーセン行こうぜー!」
「おっ、いいなぁ!っとその前にお前の卵焼きもーらい!」
「おい、そりゃねーだろ!」
周りのわいわいとした活気、談笑の陽の気にあてられ、もう気分が悪くなってくる。
(なーにが、いえーい!だよ。気持ちわるっ、ぺっ)
どうせ僕は陰キャですよーだ。へんっ。
巾着をもって教室を後にし、周りの生徒らの雑多を抜けて、場所取りの吟味な視線を周囲に寄越した。
うーん、これはさっそく一人寂しい便所飯コースかなぁ〜。
しばらく廊下を歩いて途中の踊り場から階段が見えてくる。
(そうだ、屋上の方行けば人気がないかも)
階段をのっしのしと上り、次の階段先へもぽんぽん登る。屋上への簡素な扉を見つけると、立ち入り禁止の雰囲気でもなく、何も注意書きなどもなかったため、そっとドアノブに触れた。
ガチャリ。
フッとそよ風が頬をなで、ほのぼのとした陽気な太陽が照り付けてくる。
丁度よさそうな天気と空間。
いただき!と口端を上げて一歩を踏み入れると高らかなとろけるような声、っていうかほぼ猫なで声が側から聴こえてきた。
「うんみゃ〜!うみゃうみゃ!うみゃみゃー!」
……えっ?
僕の視線は隣……の下の方に胡座かいて弁当を広げてる女の子に目がいく。
それはそれは幸せそうに猫が生魚にかぶりつくような喜びに溢れた笑顔を見せていた。
「うみゃ〜、やっぱおかかご飯は最高や〜!」
はぐはぐぐ、と醤油と鰹節で茶色くなったご飯をかきこむ茶髪ボブカットの女子生徒を見て、食いもんも猫だな、と呆れてしまう。
犬歯ならぬ猫歯を光らせてご飯にありつくその女子にそっと近付いて、ひょこっと座り、隣りで食事姿を覗く。
「うみゃ、うみゃ、うmy……、にゃにゃ!だ、誰ですか!?」
猫っぽい喋り方から急に人語になったなと変なところに関心をもってしまったが、とりあえず咳払いして彼女に近付いた口実を垂れた。
「いや、ちょっと教室じゃ食べづらくてさ、屋上で食べようとしたら君がいて……。一緒に食べていい?」
あまり変なヤツとは関わりたくないが、戻るのも致し方ない。せっかくいい場所見つけたのだから、ここで食べよう。
「そ、それはいいですけど……。私、お邪魔じゃありませんか?」
「いやいや、僕がお邪魔じゃないかって申し訳ないぐらいだからさ、ね?」
「は、はい……じゃあ、どぞ」
ずずい、ずずりとスペースを開けてくれた彼女に「ありがと」と一言入れて床に腰を落とした。
下半身が落ち着いた所でさっそく巾着を開く。
弁当を開けて広げていると、隣の女の子の視線が気になって、
「どうかした?」
「い、いえ。もしかしたら、第二世代の方かなぁと」
「?あ……ああ、そうだよ?でも、どうして?」
一度なんの事を訊かれてるかと思ったが、世代の事か。
「あ、その、私も第二世代……なので」
「そ……っか、ふーん」
……しばらく沈黙が続き、柔らかな風が髪を靡かせる。
何を言えばいいかな……。
「その」
「あの」
僕が口を開いた時、彼女も言葉が重なり、お互いに面を合わせた。
「あー……、なんかごめん」
「…………ふふふ」
あれ?笑ってる?
「なんかおかしかったかな?」
すると手元に軽く握った右手を添えてクスクス笑っていた彼女は閉じていた両目を開いて僕を上目ごしに見つめる。
「いーえ、なにも?」
ぱっちり開いたその両の眼はとても綺麗な色をしていて、その瞳孔をずっと覗いていたいような、不思議な感覚だった。
「そ、そう……?」
ぷいっと目を逸らした僕は、少し耳元が熱くなる感覚に襲われながら、いそいそと弁当の中身を食べ始める。
「ほ、ほらどうしたのっ?時間無くなるよっ?」
「そーですね、早く食べちゃいましょ」
猫っぽいかと思いきやちょっと萌えるような少女。若干、青春のような空気が醸し出されているが、そんなもの僕には関係ない。
だって僕は恋ができないのだから。
「そういえば、あなたは名前はなんていうんですか?」
「ん?ああ、僕は大鳥あとり。これからまた会うかは分からないけど、その時はあとりって呼んで」
「ふむ、なるほどです。私は猫野玉です!よろしくです!」
「ね、猫……」
名字も猫かよ、ほんとに猫だな……。
「はっ、昼休みがあと十分しかない!早く食べましょう!…………うんみゃー!!」
再びおかかご飯、いやねこまんまをかきこみだした猫を呆れ気味に見つめて僕も昼飯を口に運んだ。
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