第11話 ダブルホルン
F管は(私は聴き分けられないけど)深くて豊かな音ですが、演奏が難しい。
もともとの音が低く、細長い管のなかで音をコントロールしなければならないので、すぐに音がはずれてしまいます。とくに、高い音は、出しにくいうえに、はずしやすい。
B管は、音は少し深みに欠けるけれど、F管に比べると音のコントロールがしやすい。とくに、F管ではよほど巧くならないとうまく吹けない高音域のコントロールがしやすい。
その両方の長所を、なんとか一つの楽器に取り入れることができないか?
……ということで、一台のホルンの管を途中で分けて、一本をF管、一本をB管にして、F管とB管の違い(おもに長さの違い)が実現されたところでまた合流させる、という仕組みのホルンができました。
これをダブルホルンといいます。
現在、オーケストラや吹奏楽で使うホルンは、基本的にこのダブルホルンです。
演奏中にキーを動かすだけでF管とB管をすぐに切り替えられる仕組みになっています。だから、フレーズの途中までF管で吹いて、次の音符でB管に移る、ということも普通にできます。もちろん逆もできます。
オーケストラや吹奏楽で使うホルンの円のなかが異様にごちゃごちゃしていて立体的なのは、楽器二本分の管がこの部分に巻いているからです。迂回管もF管とB管で別々なので、迂回管がF管三本とB管三本の合計六本あり、なおさらごちゃごちゃしています。
むだに複雑に巻いているのではなく、ちゃんと意味があって複雑に巻いているのですね。
ダブルホルンでも、迂回管を開けたり閉じたりするキーをF管とB管のそれぞれにつけていると操作がやりにくくなるので、迂回管を開け閉めするキーはF管とB管で共通にしてあります。
ホルンは、右手は「右手の操作」に使うので、左手でキー操作をします。
左手の人差し指、中指、薬指で、迂回管を開閉するためのキーを動かします。
左手の親指はというと、F管とB管を切り替えるためのキー操作に使います。
ということは、ダブルホルンは、左手の親指と人差し指のあいだと、左手の小指とで支えなければいけない。
右手は楽器を支えるためにも使うのですが、「右手の操作」のために、常に指を動かせるようにしておかないと行けないので、がしっと楽器を支えるということはできません。
で。
ダブルホルンは重さが二キロ以上あります。
楽器を持つだけでたいへんですよ。もう。
ただ、すべてのホルンがダブルホルンに置き換わったわけではありません。
F管だけのホルン(F管シングルホルン)やB管だけのホルン(B管シングルホルン)もあります。
古典的な響きを重視するウィーンフィル(ウィーンフィルハーモニー管弦楽団)とかは、いまでもF管だけの特殊なホルンを使い続けています。
逆に、F管、B管に加えて、F管の半分の長さの「High-F管」またはその一音(二半音)下の「(High-)
また、一八世紀以前の演奏をその時代の楽器で再現するというコンセプトのオーケストラはもちろんバルブなしの旧式のホルンを使っています。ふだんはダブルホルンを使いながら、ベートーヴェンの曲や、モーツァルト以前の曲を演奏するときだけバルブなしの旧式のホルンを使うという例もあります。
こういう復古演奏では、バルブのない旧式のトランペットも見ることができます。その時代のトランペットはトロンボーンと外見が似ているのもよくわかります。
ちなみに、「奈良の鹿寄せ」も、広報を見ると、バルブなしの旧式のホルンで行っているようです。
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