第9話 バルブシステムが普及する

 バルブシステムが普及すると、トランペットやホルンにもバルブシステムを採用して、吹きやすくしよう、ということになりました。

 それで、今日のような、ピストン式、またはロータリー式のトランペットができたわけです。


 トロンボーンはもともとスライドで長さを変えられるので、バルブシステムは不要なように思えますが、トロンボーンにもバルブが採用されているものがあります。

 まず、スライドを廃止してそれをバルブで置き換えたトロンボーンというものも開発されました。ただ、これは、今日でもあまりメジャーではありません。

 それよりも、スライドと併用で、補助的にバルブを使うシステムが始まりました。


 通常のトロンボーン(テナートロンボーン)は、すべての音をスライドで出そうとすると手が長くないといけないので、わりと身体の大きい人でないと使いづらい、という問題があります。

 スライドにひもをつけておいて、思いっきり勢いをつけてスライドを前に飛ばして、ちょうどのところでひもを絞って止める、という技も、あることはあるんですが。

 教則本にもその方法が書いてあるのだけど、みんなやってるのかなぁ……。


 そういうことをしなくてよくて、しかも音域も拡げた「テナーバストロンボーン」というものが登場します。これは、一部を迂回管システムに頼っていて、スライドをあまり大きく引き出さなくても低い音を出せるようにしています。

 さらに、低音部を担当するバストロンボーンは迂回管が必須となっています。

 テナーバストロンボーンやバストロンボーンは、迂回管に切り替えるために、目立たないながらバルブシステムをもっています。


 で、ホルンにもバルブシステムが採用されます。


 もともと、ホルンには、「いちばん低い音としてどの音を出せるか」というところから見て、いくつもの種類がありました。

 「ド」(ハ長調のド)がいちばん低い音ならば、ド、ミ、ソの音は出しやすいけど、ファとかラとかは出しにくい。

 「ラ」(ハ長調のラ)がいちばん低い音ならば、ラ、ド#、ミは出しやすいけど、シャープのつかない「ド」は出しにくい(ド#を出しておいて、例の右手の操作でなんとかする)。

 それで、曲の途中で管を継ぎ足したり、とかしていたわけですが。

 バブルシステムをつけるときに、どの音を「いちばん低い音」にしているホルンを基本にするか、という問題が出て来ます。


 トランペットにも同じような問題がありましたが、だいたい(ハ長調でいう)シ♭が「(迂回管を使わずに出す)いちばん低い音」として作られるようになって、現在にいたっています。

 なお、オーケストラでは、「ド」や「レ」が「いちばん低い音」のトランペットも使うそうです。吹奏楽、ジャズ、ポピュラー音楽などでは「シ♭」のトランペットが主に使われます。


 なお、なぜ「シ♭」という中途半端な音を「いちばん低い音」にするのかというと。

 中途半端ではないから、ですね。

 ハ長調(ピアノで一度も黒鍵を押さずに演奏できる音階)を基準に考えるから「シ♭」は中途半端に思えるのですが、ハ長調に♭(フラット)が一つついた朝の「ヘ長調」では「シ♭」が普通に出て来ますし、さらに♭が一つ増えた調は「変ロ長調」で、その「シ♭」がハ長調の「ド」にあたる重要な役割を果たします。

 さらに、ハ長調でも、「シ」の音は次にすぐ上の「ド」へ続くことを予感させる性格があるので、「旋律せんりつ長音階」という音階では、上の「ド」に続かないときは「シ」ではなく「シ♭」を使うことがあります。またジャズ(ブルース)の「ブルーノート」という音階でもハ長調で「シ♭」を使います。

 わりとよく使う音なのです。

 ……とか書いてるけど、私は音感が絶対的に乏しいので、自分では聴き分けられなかったりするんですけど……。

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