第6話 番外編的にサックスの話
一九世紀には、新しい楽器がいろいろと生まれました。
その楽器発明者・改良者としていちばん有名なのがベルギー生まれの楽器製作者アドルフ・サックスでしょう。
一九世紀に発明された、あるいは、改良された管楽器のすべてがアドルフ・サックスによるものではありません。また、アドルフ・サックスがすべての完成形を作ったわけでもありません。それ以外の、あまり有名でない作者や名の残っていない作者の功績もあるのですが、サックスの管楽器改良プロジェクトは壮大なもので、サックスの名がいちばん大きく残っている、という印象があります。
サックスと言えば、まず思いつくのが、何と言っても「サックス」でしょう。
サクソフォーン(サクソフォン、サキソフォン)です。
「サックスさんが開発したフォーン」だから「サクソフォーン」だったのですが、その「フォーン」を略して、作者と同じく「サックス」と呼ばれるようになりました。
吹奏楽でもジャズでもアルトサックス、テナーサックス、バリトンサックスをよく使います。ソプラノサックスを使うこともあります。
バリトンサックスの下の音域を出すバスサックスなどもありますし、ソプラノサックスより高い音の出るものもありますが、使用頻度は高くありません。
ところで、サックスさんは、なぜサクソフォーン、略称「サックス」を作ったのか?
オーケストラの弦楽器は、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロまでは「ヴァイオリン属」と言って同じ種類の楽器で、大きさが違うだけ、とされています(コントラバスはいちおうヴァイオリン属からははずれます)。
ところが、オーケストラの木管楽器は、一九世紀には、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットということに固定されてきました。
これは、オーボエとファゴットがやや似ているほかは、ぜんぜん別系統の楽器です。
木管楽器でも、ヴァイオリン属の弦楽器と同じように、同じような質の音で合奏ができればいいのに、というのが、サクソフォーン開発の大きな動機でした。
これが、サックスさんの壮大なプロジェクトだったのですね。
このプロジェクトの理想はオーケストラには受け入れられませんでしたが、吹奏楽団ではサクソフォーンのセクションが設けられるのが普通になりました。
また、オーケストラ音楽にサクソフォーンが採用されることも、二〇世紀の音楽では多くなりました。
さらに、サックス(サクソフォーン)は、ジャズではたいへんメジャーな楽器になり、二〇世紀以来、ジャズの分野では多くのサックスプレーヤーが生まれました。ポピュラー音楽でもサックスは存在感の大きな楽器です。
ジャズやポピュラー音楽で「サックス」(サクソフォーン)がこんなに普及するのを、サックスさんが喜んだかどうかはわかりませんが。
でも、二〇世紀前期のフランスを代表する作曲家の一人モーリス・ラヴェルは、ジャズを自分の曲に取り入れようとするとともに、サクソフォーンも活用しています。
サクソフォーンは、あるいは「サックス」は、ジャンルを超えて、「二〇世紀音楽の二〇世紀らしさ」を特徴づける楽器になったのです。
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