第3話 続・音が飛び飛びにしか出せないという問題
なぜ金管楽器は「横に穴をあけて、その穴を開閉することで管の長さを変える」という方法が使えないのか?
金管楽器にとって、「ベル(朝顔)から音が出る」ということが重要だからです。
途中に穴をあけて管の長さを調整することにすると、途中から音が出てしまうので、音がベルを通らないことになり、音色が変わってしまう。
だから、穴開けシステムは使えなかったのです。
トロンボーンは、スライドを抜き差しすることで管の長さを調整できますから、トロンボーンについては問題がない。
近代オーケストラができあがっていく時期には、トランペットとホルンが、この制約をもろに受けることになりました(この時期にはチューバやユーフォニアムはまだ存在しません)。
ちなみに、金管楽器で音を自由に変えられるトロンボーンは、じつはモーツァルト時代まではオーケストラに入っていません。
で。
この息の強さを調整することで自然に出る音というのは、「ドミソの和音」に近い音が多いので、「ドミソの和音」を多用していた時代には、このような楽器でも対応できました。
ヨハン・ゼバスチャン・バッハ、ヘンデル、ハイドン、モーツァルトくらいまでがこの時代(いわゆる「古典派」時代)ということになります。
モーツァルトは、金管楽器は出せる音に大きな制約がある、ティンパニも音が固定、とかいう条件で、すごく彩りのある音楽を書いていますから、やっぱり天才だったんだな、と思います。
ところが、次の時代のベートーヴェンになると、かなり複雑な音楽を書くようになったので、問題が発生します。
有名なのが交響曲第三番「英雄」の「メロディー行方不明」……だと言われています。
トランペットが高らかにメロディーを吹き鳴らすのですが、そのメロディーのなかに「当時のトランペットでは出せない音」があるために、吹けるところまではトランペットで吹いて、途中でそのメロディーを別の楽器に移すのです。
しかし、何せトランペットは音が華やかなうえに音量が大きいので目立つのに対して、そのトランペットの音を受け継ぐ別の楽器は音が地味なので、メロディーが途中で行方不明になってしまう感じがする……のだそうです。
「だと言われています」とか「のだそうです」とかいうのは、現在のオーケストラではその部分をちゃんと最後までトランペットで吹くことにしているので(つまりベートーヴェンの楽譜に手を入れていることになります)、いまのオーケストラの演奏を聴くかぎり、わからないんですね。楽譜どおり演奏している指揮者もいるようなのですが、私は聴いたことがありません。
あと、同じベートーヴェンの交響曲第七番の第四楽章の最後、いちばん盛り上がる部分ですが、ホルンが途中までメロディーを吹いて、途中から単純な音の繰り返しになり、メロディーはほかの楽器が補います。その次に同じメロディーを弦楽器が合奏するときには一貫してメロディーを弾くので、対照が目立ちます。
ここについては、二〇世紀の大指揮者フルトヴェングラーは、性能の上がったホルンでメロディーを最後まで吹かせていましたが、現在の指揮者はだいたい楽譜どおりにやっているようです。
この時代も、ホルンはぜんぜん管の長さを変えられなかったのではありませんでした。
どうしていたかというと、何種類か「継ぎ足し管」を用意しておいて、演奏中に継ぎ足して管の長さを変えていたのです。
といっても、金管楽器は、口をつけるところにはマウスピースが必ず必要ですし、先にはベルが必要なので、途中に継ぎ足すんですよね。だから、演奏中に、管の一部を抜いて、本体とのあいだに、継ぎ足し管をつける。また途中で元に戻すこともありますし、継ぎ足し管を抜いて、別の長さの継ぎ足し管をつける、というようなこともやっていたようです。
こんな作業が必要なので、すぐに管の継ぎ足しはできません。継ぎ足しが必要なところには作曲の段階で長い休みを指定するしかありませんでした。
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