第9話 失われた契約書の手がかり
温泉街の旅館主たちが協力する体制を整えたものの、藤崎たちの再開発計画を止めるには、計画の不正を証明する決定的な証拠が必要だった。紗奈と黒瀬は、八重の湯に残された古い資料を調べるため、旅館の倉庫に向かった。
描写:
八重の湯の倉庫は、木箱や古い帳簿、先代が使っていた備品などで埋め尽くされている。埃っぽい空気が漂い、懐中電灯の光が漂う湯気のように広がる。
紗奈:
「ここに何か、泥湯に関する契約書や記録が残っているはず……。先代はすべて大事に保管してたから。」
黒瀬:
「これだけの量を全部調べるのは骨が折れるな。でも、探偵の勘があるから大丈夫だ。そう、例えばあの箱なんて怪しそうだ。」
黒瀬が指差したのは、木箱の山の中に妙に古びたひとつの箱。紗奈は半信半疑でその箱を引き出し、中を開ける。
紗奈:
「あ……これ、泥湯の源泉を掘ったときの記録です!」
箱の中には、手書きの古い地図や契約書、写真が収められていた。地図には「泥湯源泉」と記された場所が示されており、現在の配管図と比較するとわずかに異なることが分かる。
黒瀬:
「この地図……泥湯は最初から“八重の湯”が独自に掘り当てたものって証明できるぞ。これが藤崎たちの主張を覆す材料になるかもしれない。」
さらに契約書を調べていると、一枚の古い書類が目に留まる。そこにはこう書かれていた。
契約書抜粋:
「泥湯源泉に関する管理権は“八重の湯”に属し、他者がこれを使用する場合、事前の許可を得ることを義務付ける。」
紗奈:
「これです! この契約書があれば、泥湯が“八重の湯”のものだって主張できます!」
黒瀬:
「完璧だな。これを持って、藤崎たちの再開発計画の正当性を叩き潰せる。」
そのとき、倉庫の扉が突然開き、冷たい風が吹き込んできた。振り返ると、そこには黒いコートの男が立っていた。
黒いコートの男:
「それを渡してもらおうか。」
紗奈:
「……あなた! 泥湯を盗んだのも、この計画を進めているのもあなたなんですね!」
男は答えず、静かに近づいてくる。黒瀬は紗奈の前に立ち塞がり、手に持っていた懐中電灯を構えた。
黒瀬:
「さぁて、これ以上動くと大声で叫ぶぞ。今ここに来られたらあんたもただじゃ済まないだろ?」
男は一瞬躊躇するが、次の瞬間、床に散らばった物を蹴り上げて視界を遮った。その隙に男は再び扉の外へと逃げ去った。
紗奈:
「追いかけましょう!」
黒瀬:
「いや、今はこの契約書を守るのが先だ。追いかけても証拠がなくなったら元も子もない。」
紗奈は悔しそうな表情を浮かべながらも、契約書を握りしめた。
モノローグ(紗奈の心情):
「これが、八重の湯を、泥湯を守るための唯一の鍵。絶対に無駄にはできない……!」
次の展開
紗奈と黒瀬は契約書を高瀬刑事に渡し、藤崎たちを追い詰める準備を整える。一方で、藤崎は泥湯の封鎖を強行し、計画を実行しようとする。紗奈たちは温泉街全体を巻き込んだ最後の戦いに挑むことになる――。
このシーンは、泥湯の正当性を証明する証拠を見つけると同時に、黒いコートの男が紗奈たちの動きを妨害する緊張感のある場面を描いています。物語のクライマックスに向けて、紗奈の決意と戦いが加速していきます。
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