第8話 旅館同士の協力

藤崎たちの再開発計画を阻止するには、温泉街全体の協力が不可欠だと考えた紗奈は、ライバル旅館「湯乃花亭」の支配人・和泉拓也を訪ねることにした。これまで競争関係にあった二人だが、藤崎の陰謀が温泉街全体を脅かすと知り、共闘を模索する。


描写:

「湯乃花亭」は「八重の湯」とは対照的に、現代的で洗練された旅館だ。和泉のオフィスもモダンな内装が施されている。紗奈が訪れると、和泉は不機嫌そうな表情で迎えた。


和泉:

「これは珍しいお客さんだな。若女将が何の用です?」


紗奈:

「……和泉さん、聞いてますよね? 泥湯の件。それだけじゃありません。藤崎さんたちが進めている再開発計画、温泉街全体に影響を与えるんです。」


和泉は冷笑を浮かべる。


和泉:

「それで? あなたは私に何をしろと? この再開発計画が成功すれば、“湯乃花亭”には観光客が増えるかもしれない。正直、あなたの泥湯なんてどうでもいい。」


紗奈:

「違います! 泥湯だけの問題じゃないんです。もし藤崎さんたちが計画を進めれば、この街の温泉文化そのものが壊されるんです。あなたの旅館だって、いずれ犠牲になるかもしれない。」


和泉は一瞬考え込むように視線をそらしたが、すぐにまた冷たい表情に戻った。


和泉:

「犠牲? 私の旅館は“八重の湯”のような古い伝統には縛られていませんからね。効率的に利益を上げる術を知ってる。それに比べて、あなたのところは守るものばかりだ。」


紗奈は少し息を整え、真剣な目で和泉を見つめた。


紗奈:

「和泉さん、この街を愛していないんですか? 私たちはライバルかもしれないけど、それ以前に同じ温泉街を守る仲間じゃないですか。先代も、あなたのお父様も、そうだったはずです。」


和泉の表情が少し揺れる。彼はデスクに置かれた古い写真に目を落とした。それは父親が紗奈の先代とともに撮った写真だった。二人の背後には、湯気に包まれた温泉街が映っている。


和泉:

「……あの時代の話を持ち出されても困る。もう昔には戻れないんだ。」


紗奈:

「でも、昔を守ることはできます。それが私たち旅館主の責任じゃないですか?」


しばらくの沈黙の後、和泉は深いため息をつき、椅子から立ち上がった。


和泉:

「分かったよ。協力しよう。ただし、俺が手を貸すのは、温泉街のためだ。あなたのためじゃない。」


紗奈:

「ありがとうございます。絶対に後悔させません!」


描写:

その後、和泉の呼びかけで他の旅館主たちも集まり、緊急会合が開かれる。紗奈は藤崎たちの再開発計画が温泉街全体を危機に追いやることを説明し、協力を呼びかける。最初は疑念を抱いていた旅館主たちも、和泉の説得により賛同していく。


モノローグ(紗奈の心情):

「競争相手だった人たちと力を合わせるなんて、これまで考えもしなかった。でも、この街を守るためなら、もう私一人で背負う必要はない。みんなで戦うんだ。」


次の展開:


温泉街全体が一致団結して藤崎たちの計画に立ち向かう一方で、藤崎はさらなる圧力をかけるべく、行政やメディアを動かそうとする。紗奈たちは、泥湯の正当性を証明するために新たな証拠を探し始める。温泉街の住民たちの絆が深まる中、物語はクライマックスに向けて加速する。

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