第7話 対峙する真実
再開発センターの会議室に紗奈、黒瀬、高瀬刑事が通されると、責任者の藤崎浩一(50代)が静かに座っていた。重厚なテーブルを挟んで、藤崎の落ち着き払った態度が逆に不気味だった。
藤崎:
「どうぞお座りください。状況を聞かせていただきましょうか。泥湯の件で何かご不満でも?」
紗奈:
「ご不満どころじゃありません! 泥湯が消えたのは、あなたたちが関わっているからですよね? これは一体どういうことですか?」
藤崎は微笑みながら、淡々と答える。
藤崎:
「ご不満は分かります。ただ、“八重の湯”だけの問題として捉えるのは少々視野が狭いのではないでしょうか?」
紗奈は言葉を詰まらせた。
黒瀬:
「つまり、藤崎さん。あんたは別府全体の利益のために、勝手に泥湯を使ったって言いたいわけか?」
藤崎は黒瀬の言葉に動じることなく、静かにうなずいた。
藤崎:
「その通りです。別府はこの国が誇る温泉地。しかし、近年観光客の減少や温泉施設の老朽化が問題になっています。我々の計画は、その未来を守るためのものです。」
紗奈:
「だからって、私たちの旅館を犠牲にしていい理由にはなりません! 泥湯は“八重の湯”の大切な資源です!」
藤崎の表情が一瞬険しくなる。
藤崎:
「それは理解しています。しかし、泥湯には特別な成分が含まれていることが判明しました。その成分は美容効果が高く、世界的にも商業価値があります。それを活用すれば、別府全体の観光業が復興できるのです。」
高瀬刑事:
「だからといって、違法に泥を吸い上げ、他所に持ち出すのは許されない。」
藤崎は溜息をつきながら、机に手を置いた。
藤崎:
「違法と言われれば、耳が痛いですね。ただ、このプロジェクトが成功すれば、別府に何百億円もの経済効果をもたらします。少々の犠牲は、仕方のないことです。」
紗奈:
「犠牲……そんなの、勝手な言い分です!」
黒瀬:
「なるほどね。要するに、あんたたちは泥湯を“八重の湯”のものじゃなくて、別府全体の資産だと考えてるわけだ。」
藤崎:
「そう解釈していただいて構いません。そして、この計画に反対するなら、八重の湯も例外ではいられなくなる。」
紗奈は藤崎の言葉に呆然としながらも、反論しようと声を上げる。
紗奈:
「でも、私たちの泥湯はただの観光資源じゃありません! 先代からずっと受け継がれてきた、大切な財産なんです! それを壊されるなんて、絶対に許せません!」
藤崎は紗奈の目を見つめながら静かに立ち上がる。
藤崎:
「その気持ちは尊重します。しかし、個人の感情が大きな計画を止める理由にはなりません。八重の湯が守りたいものと、私たちが守ろうとしているもの――どちらがより大きな利益を生むか、冷静に考えてください。」
そのとき、黒瀬が机を軽く叩き、藤崎に詰め寄った。
黒瀬:
「利益だ利益だって言うけどな、藤崎さん。あんたたちが進めてるこの再開発計画、本当に全ての人のためになるのか?」
藤崎は微かに笑みを浮かべる。
藤崎:
「もちろんです。すべては別府の未来のために。」
黒瀬:
「いや、違うな。これは別府の未来のためなんかじゃない。“一部の人間”の利益のためだろう。俺たちが調べた資料には、泥湯を使った美容商品の独占権が、ある企業に渡る予定だって書いてあった。」
藤崎の表情が僅かに歪む。
紗奈:
「……つまり、別府全体のためなんて嘘で、本当は自分たちだけが儲けようとしてたってこと?」
藤崎は言葉を詰まらせたが、次の瞬間、扉の外で物音がした。高瀬刑事が立ち上がり、扉を開けると、そこには昨夜逮捕された黒いコートの男が警察官の隙をついて逃げようとしていた。
高瀬刑事:
「止まれ! これ以上動くと罪が重くなるぞ!」
男は一瞬だけ立ち止まり、藤崎に向かって怒鳴った。
黒いコートの男:
「藤崎さん! あなたは“守る”って言ったじゃないですか! 温泉街を壊さないって……! でも結局、私たちは利用されただけだ!」
藤崎は何も答えず、険しい表情を浮かべるだけだった。
描写:
紗奈は藤崎を睨みつけながら、声を強めた。
紗奈:
「泥湯を盗むだけじゃなく、嘘で人を操るなんて……そんな計画、絶対に許せません!」
藤崎:
「許すかどうかは、あなたが決めることではない。」
静寂が流れる中、紗奈の中に怒りと決意が渦巻いていた。藤崎たちが進める再開発計画を止め、泥湯を取り戻すために、彼女は黒瀬や高瀬刑事とともに行動を起こす覚悟を決める――。
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