第6話 隠された計画

翌朝、紗奈と黒瀬は「八重の湯」の一室に集まり、昨夜の出来事を整理していた。押さえ込まれた黒いコートの男は、警察の取り調べでも「別府全体のため」と繰り返すばかりで、それ以上の情報を話さなかった。


紗奈:

「“別府全体のため”ってどういう意味なんでしょう? 泥湯の泥を盗んで、一体何をしようとしてるのか……。」


黒瀬:

「普通に考えれば、商売だろう。あの泥を高値で売るか、他の旅館に卸して金儲けを企んでるとか。でも、あいつの態度を見ると、ただの金のためとは思えない。」


紗奈:

「“別府全体”って言葉が引っかかります。何かもっと大きな理由があるのかも……。」


黒瀬はテーブルに置かれた旧税関の地下で見つけた配管図を指差した。


黒瀬:

「この図面だよ。泥湯の泥がどこに流れていたのか、その先を探らないと真相には辿りつけない。高瀬刑事に調べてもらえるよう頼むべきだな。」


そこにタイミングよく高瀬刑事がやってきた。彼は昨夜の取り調べ結果を持ってきたが、あまり進展がなかったようだった。


高瀬刑事:

「黒いコートの男からはほとんど情報を引き出せなかった。だが、一つだけ気になることを言っていた。“温泉街を守るため、仕方がなかった”と。」


紗奈:

「温泉街を守る……?」


高瀬刑事:

「ああ。ただ、具体的な意味は言わなかった。それと、昨夜発見した配管には、何か特別な細工がされていたようだ。ポンプで吸い上げた泥を別府市街地のどこかに送っている形跡がある。」


黒瀬:

「つまり、泥の最終地点が分かれば、全ての謎が解けるってことだな。」


描写:

黒瀬が地図を広げて、別府市街地の配管図をじっと見つめる。泥が送られた可能性のあるエリアを線で結ぶと、その中心にはある施設が浮かび上がった。


紗奈:

「ここ……“別府再開発センター”? 確か、市の再開発計画を進めている場所ですよね。」


高瀬刑事:

「その通りだ。再開発計画は、古い温泉施設を取り壊して新しい商業施設や観光スポットを作るっていうものだが……泥湯がどう関係しているのかまでは分からない。」


黒瀬:

「いいや、もう大体の構図は見えてきた。おそらく、再開発計画を進める連中が泥湯の泥を利用して、何か利益を得ようとしてる。もしくは、別府の温泉街全体に影響を与えるような大規模な仕掛けを企んでるかもしれないな。」


紗奈:

「でも、どうして泥湯を狙ったんでしょう? 別府には他にも温泉があるのに……。」


黒瀬は少し考え込んだ後、紗奈に向き直った。


黒瀬:

「“泥湯”の泥には、他の温泉にはない成分が含まれてるんじゃないか? 例えば、医療や美容に使える特別な効果があるとか。」


その言葉に紗奈の記憶が蘇る。


紗奈:

「そういえば、以前、研究機関の人たちがうちの泥湯を調べていたことがありました。特定の成分が肌に良いとか、健康にいいとか……。」


黒瀬:

「その成分がカギだな。再開発センターに行けば、もっと詳しいことが分かるだろう。紗奈さん、行くぞ。」


シーン切り替え:再開発センター


紗奈と黒瀬は高瀬刑事とともに「別府再開発センター」に向かった。近代的な建物の中には、市の再開発計画に関する資料や模型が並べられている。そこには、泥湯の泥を使った新事業計画の痕跡が隠されていた。


センター内で見つけたプロジェクト資料には、次のような内容が記されていた。


資料内容:

「別府再開発計画 - 第4プロジェクト」

•泥湯の特別な成分を抽出し、美容商品として国内外に展開する計画。

•泥湯源泉の使用は、市内の他の施設にも拡大する予定。

•商業的価値を最大化するため、一部温泉街の施設を統合する案を検討中。


紗奈:

「……これって、うちの泥湯を勝手に利用して、新しい商売を始めようとしてたってことですか?」


黒瀬:

「そうだな。でも、もっと重要なのは、この計画が別府全体を巻き込んだ“利権”になってることだ。泥湯だけじゃなく、他の温泉も同じ目に遭うかもしれない。」


そのとき、背後から重い扉が閉まる音が響いた。紗奈たちが振り返ると、そこには再開発センターの責任者と名乗る男が立っていた。


責任者:

「随分と勝手に調べてくれるじゃないか。だが、ここから先は見逃すわけにはいかない。」


緊迫感が漂う中、紗奈たちはこの計画の真相にさらに踏み込むことになる――。

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