第10話 泥湯封鎖計画

契約書を手にした紗奈と黒瀬は、八重の湯に戻り、次の手を考えていた。だが、藤崎たちは動きを止めるどころか、泥湯の完全封鎖を強行する準備を進めていた。藤崎が市議会を利用し、泥湯を「別府全体の資源」として管理する行政命令を発動することを知った紗奈たちは焦りを感じていた。


描写:

紗奈は旅館の応接室で、契約書を握りしめながら黒瀬や高瀬刑事と作戦を練っていた。窓の外では温泉街の湯気が静かに漂っているが、その光景は紗奈にとってどこか儚く感じられる。


紗奈:

「藤崎さんが本気で行政を動かすなら、この契約書だけじゃ不十分かもしれません。泥湯が“八重の湯”のものであることをもっと多くの人に理解してもらわないと。」


高瀬刑事:

「確かに、契約書は強力な証拠だが、世論の後押しがなければ行政を動かすのは難しい。藤崎は市議会の何人かを味方につけているらしい。」


黒瀬:

「だったら、俺たちもこっちの味方を増やせばいい。地元の人々や観光客を巻き込んで、藤崎の計画に反対する声を上げさせるんだ。」


紗奈は迷いながらも頷いた。


紗奈:

「温泉街の人たちに協力をお願いしてみます。でも、それだけじゃ足りない気がする……。」


そのとき、電話が鳴り、紗奈が受話器を取ると、旅館スタッフの佐藤が慌てた声で伝えてきた。


佐藤:

「若女将! 工事現場から連絡がありました。泥湯の源泉を繋いでいる配管が、今夜中に完全に封鎖されるそうです!」


紗奈:

「そんな……それが実行されたら、泥湯が戻ってくる可能性がなくなるってこと?」


佐藤:

「はい。もう業者が現場に入って準備を始めているみたいです。」


描写:

その知らせを聞いた紗奈の表情は、焦りと怒りに満ちていた。泥湯を失えば、八重の湯だけでなく、温泉街全体が再開発計画の犠牲になることは明らかだった。


黒瀬:

「泥湯を守るためには、今夜中に現場に行くしかないな。封鎖される前に配管を取り戻そう。」


高瀬刑事:

「だが、藤崎は手段を選ばない男だ。現場にはおそらく彼の部下もいるだろう。危険を覚悟して動く必要がある。」


紗奈は一瞬迷うが、すぐに覚悟を決める。


紗奈:

「泥湯は先代が命がけで守ってきた旅館の宝物です。絶対に諦めるわけにはいきません。私も一緒に行きます!」


切り替え:泥湯源泉の現場


夜の闇に包まれた源泉の工事現場は、薄暗い照明に照らされながら静かに作業が進められていた。数人の作業員が機械を操作しており、泥湯の配管が切断される寸前だった。


描写:

遠くから作業現場を見つめる紗奈たち。黒瀬は双眼鏡を覗き込みながら状況を確認する。


黒瀬:

「作業員だけじゃないな。あそこにいるのは……藤崎の部下か。あいつらが泥湯の封鎖を指示してる。」


紗奈:

「どうやって止めればいいんですか? 彼らは私たちの言うことなんて聞く気はないはず……。」


高瀬刑事:

「強行突破しかないだろう。俺が作業を中断させるから、その間に君たちは証拠を確保してくれ。」


アクションシーン:

高瀬刑事が現場に踏み込み、作業を中断させるよう強く命じる。一方で、紗奈と黒瀬は現場の奥にあるポンプ装置と配管を調べ始める。


紗奈:

「このポンプ……泥湯の泥を吸い上げて、別の場所に送っていたんですね。」


黒瀬:

「間違いない。この配管を元に戻せば、泥湯はまた八重の湯に流れ込むはずだ。」


そのとき、藤崎が現場に姿を現し、冷たい声で叫ぶ。


藤崎:

「そこで何をしている! これは市の許可を得た正式な作業だ!」


紗奈は振り返り、藤崎に向かって契約書を掲げた。


紗奈:

「この契約書を見てください! 泥湯は八重の湯が正当に管理している資源です。あなたたちがしていることは違法です!」


藤崎は一瞬動揺するが、すぐに冷静を取り戻す。


藤崎:

「そんな紙切れ一枚で計画が止まると思うのか?」


黒瀬:

「紙切れじゃないさ。これが真実の証拠だ。それに、俺たちはこれを公表する準備もできている。」


藤崎は険しい表情を浮かべたが、作業員たちは動揺し、作業を止め始めた。


描写:

泥湯の配管が切断される前に、紗奈たちはポンプ装置を停止させ、泥湯を守ることに成功する。藤崎はその場を立ち去るが、戦いはまだ終わっていない。


モノローグ(紗奈の心情):

「泥湯を守ることはできた。でも、藤崎さんたちの計画が完全に止まったわけじゃない。これからどうすればいいのか……。」


次の展開


泥湯を一時的に守ったものの、藤崎は計画を進めるべく新たな手段を模索する。紗奈たちは温泉街全体の協力を得て、再開発計画の不正を公に暴露するため、さらなる行動を起こす。

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