第4話 旧税関の鍵

工事現場の源泉パイプが破損していたことを受け、紗奈と黒瀬は状況の整理をするために「八重の湯」に戻ってきた。しかし、泥湯消失の原因として、パイプの破損だけでは説明がつかない。紗奈は旅館の事務室で泥湯に関する過去の記録を調べ始めた。


紗奈:

「泥湯の設備には問題がないのに泥だけがなくなるなんて……やっぱり誰かが意図的に仕掛けたとしか思えない。」


黒瀬は旅館の窓辺に腰を下ろしながら、ぼんやりと煙草の箱を弄んでいる(実際には火をつけない)。


黒瀬:

「そうだな。工事現場のパイプが絡んでるのは間違いないけど、あれだけじゃ泥が消える理由にはならない。むしろ、誰かが源泉を操作してるんじゃないかと思うけどな。」


紗奈はふと手に取った古いファイルに目を止める。そこには、「泥湯開発当初の資料」と書かれていた。ページをめくると、手書きの古い図面が目に入る。


紗奈:

「これ……うちの泥湯の源泉ルート? でも、ここに記されてる位置が少しおかしい……。」


黒瀬:

「どれどれ?」

(図面を覗き込みながら)

「おかしいっていうか、これ、今のルートと違う場所を示してるな。」


紗奈は驚いて図面を指差す。


紗奈:

「この古い図面だと、源泉の元になる場所は……旧税関の地下にあるってことになる。」


黒瀬:

「旧税関か……あそこは今じゃ観光地になってるけど、昔は物流の拠点だった場所だろ? 地下に何か隠されてるって考えると、いかにも怪しいな。」


紗奈と黒瀬は、早速旧税関に向かうことにした。観光客で賑わう建物の中を進み、見学コースから外れたスタッフ用の階段を降りると、ひんやりとした地下の空気が漂ってきた。電灯の薄暗い明かりが、レンガ造りの壁に影を落としている。


描写:

地下の通路は思った以上に広く、迷路のように続いている。湿気とともにかすかな硫黄の匂いが漂い、足音が響くたびに何かが動く気配がするようだった。


紗奈:

「ここ、本当に観光地の地下なんですか? なんだか不気味ですね……。」


黒瀬:

「こういうところに限って、面白いものが隠されてるもんさ。」

(懐中電灯を持ちながら前を進む)


奥に進むと、大きな鉄扉が現れる。扉には錆びついた南京錠がかかっていたが、その鍵穴には最近誰かが触った形跡が残っていた。


黒瀬:

「ほら見ろ。この錆びた鍵穴、最近動かされた跡がある。」


紗奈:

「誰かがここを開けて中に入ったってこと……?」


黒瀬:

「その誰かが泥湯の秘密を知ってる可能性が高いな。ちょっと手を貸してくれ。」

(南京錠を外そうとする)


二人が南京錠をこじ開けた瞬間、扉の奥から冷たい風とともに湯気が立ち込めた。その湯気は紗奈が毎日感じている温泉のものと同じだった。


紗奈:

「この奥に……泥湯の秘密があるんですね。」


黒瀬:

「きっとそうだ。さぁ、突き止めよう。」


鉄扉を開けると、その先には古びた貯水槽が広がっていた。そこには大量の泥が貯められており、地元の温泉街を支える源泉システムの一部が隠されていた。


しかし、その泥の中に何か奇妙な器具が設置されているのを見つけた瞬間、紗奈と黒瀬は思わず立ち止まった。それは小型のポンプ装置で、泥をどこかに送り出しているようだった。


黒瀬:

「……やっぱりな。誰かが泥を吸い上げて別の場所に送ってやがる。」


紗奈:

「つまり、泥湯を消したのはやっぱり人為的なもの……?」


そのとき、奥の暗がりから突然物音が聞こえた。誰かがいる――二人はその方向に視線を向ける。そこで現れたのは、黒いコートを着た男だった。


男の声:

「……これ以上先には進ませないよ。」


次の瞬間、地下通路の電灯が一斉に消え、闇が二人を包み込んだ。

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