第3話 闇に動く影
市場での発見を受けて、紗奈と黒瀬は泥パックを売っていた店主の話をさらに深掘りするため、仕入れ先について詳しく聞き出していた。
紗奈:
「その業者というのは、どこから来た人なんでしょうか?」
店主:
「いや、それが分からなくてね。普段は地元の業者から仕入れてるんだけど、昨日は急に別の人が現れてさ。どこから来たのかは教えてくれなかったけど、“新しい商品です”なんて言ってたよ。」
黒瀬:
「その人、何か特徴はありましたか? 例えば背の高さとか、服装とか。」
店主:
「うーん、帽子を深くかぶってて顔はよく見えなかったけど……確か黒いコートを着てたな。それと、話し方が妙に冷たかったのを覚えてる。」
情報を得たものの、それ以上の手がかりは掴めなかった。紗奈と黒瀬は市場を後にし、旅館に戻る途中、温泉街の細い路地を歩いていた。
紗奈:
「黒いコートの業者なんて、ますます怪しいですね。でも、本当にうちの泥湯の泥が盗まれたっていう確証はまだありません……。」
黒瀬:
「まぁ、現時点ではそうだけど、妙にタイミングが一致してるのが気になる。泥湯が消えた夜に誰かが動いてて、市場に突然泥パックが大量に出回る……偶然とは思えない。」
そのとき、紗奈が歩きながら考え込んでいると、背後で微かな足音が聞こえた。彼女は反射的に振り返るが、そこには誰もいない。
紗奈:
「……今、誰かついてきてませんか?」
黒瀬:
「ん? 気のせいじゃないか?」
(言いながら辺りを見回す)
しかし、黒瀬の表情も次第に緊張感を帯びていく。路地の曲がり角の先、何者かが紗奈たちを見張っているような気配があった。
描写:
路地裏は薄暗く、昼間だというのに影が深い。立ち込める湯気の中から、時折微かな物音が聞こえる。それは足音とも風の音とも取れる曖昧な音だ。
紗奈:
「やっぱり誰かいる……!」
黒瀬:
「……おもしろいじゃないか。追いかけてみよう。」
(急に楽しそうに笑みを浮かべる)
紗奈が止める間もなく、黒瀬は路地を駆け出した。仕方なく紗奈も後を追う。曲がり角をいくつか進むと、湯けむりの向こうに黒いコートを着た人影が一瞬だけ見えた。
紗奈:
「あれが……泥を盗んだ犯人?」
黒瀬:
「さぁね。でも、あの動き方はただの通行人じゃなさそうだ。」
二人が人影を追いかけようとしたそのとき、不意に温泉街の喧騒が途切れ、耳をつんざくような警報音が鳴り響いた。それは近くの工事現場から発せられた警報だった。
紗奈:
「警報……? 工事現場で何かあったんですか?」
黒瀬:
「行ってみよう。あっちの現場も何か絡んでるかもしれない。」
工事現場に駆けつけると、作業員たちが慌ただしく動き回っていた。どうやら掘削中のパイプが破損したらしい。だが、そのパイプを見た紗奈の目が大きく見開かれる。
紗奈:
「これ……うちの泥湯の源泉パイプじゃないですか!?」
作業員の一人が困惑した顔で答える。
作業員:
「確かに、温泉街全体に繋がるパイプの一部だと思います。でも、ここを掘る許可は……今朝急に変更されて……」
黒瀬は作業員の言葉を遮るようにパイプを調べ始めた。
黒瀬:
「なるほど。泥湯が消えたのは、ただの盗難じゃなくて、ここで何か細工された可能性もあるな。」
紗奈は不安を隠せない。泥湯消失の謎は単なる泥棒事件ではなく、温泉街全体に関わるもっと大きな問題へと発展しようとしている――。
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