第2話 消えた泥の謎

泥湯が消えた騒ぎをどうにか収めるため、紗奈は旅館のスタッフたちに対応を指示しながら、一方で原因を探るべく動き出した。しかし、具体的な手がかりはまだ何も見つかっていない。


そんな中、黒瀬隆三が飄々と紗奈に近づいてくる。


黒瀬:

「さて、若女将さん。泥湯が透明になっちゃった原因、気になってしょうがないでしょ?」


紗奈:

「それはそうですけど……黒瀬さん、探偵ごっこはやめてください。本当に困ってるんですから。」


黒瀬:

「困ってるからこそ、俺みたいな“頼れる男”が必要なんじゃないの?」

(いたずらっぽい笑顔でノートを見せる)


紗奈:

「そのノート……何を書いてるんですか?」


黒瀬がノートを開いて見せると、そこには「泥の成分が変化した可能性」や「泥湯を狙った悪戯の線」など、素人っぽい推理がいくつも書き連ねられていた。


紗奈:

「……本当にこれで何か解決できると思ってるんですか?」


黒瀬:

「いいかい、若女将さん。謎を解くときに大事なのは、とにかく疑問を並べてみることさ。その中にヒントが隠れてるもんさ。」


紗奈はため息をつきつつも、黒瀬のノートにちらりと目を通す。


紗奈:

「じゃあ聞きますけど、“泥を誰かが盗んだ”なんて書いてますけど、それってどういう意味ですか?」


黒瀬:

「例えばさ、泥湯の泥って特別なんでしょ? 健康にいいとか、美容効果があるとか。もしかしたら、それを狙って持ち去ったヤツがいるんじゃない?」


紗奈:

「泥を持ち去る……? でもそんなこと、どうやって……。」


そのとき、従業員の佐藤が駆け込んできた。


佐藤:

「若女将、少し気になることが……。昨晩、泥湯のあたりで誰かが歩き回っている音を聞いたって、警備員が言ってました。」


紗奈は驚いて聞き返す。


紗奈:

「歩き回る音? それは泥湯に何かしてたってこと?」


佐藤:

「そこまでは分かりません。ただ、深夜には普段は聞かないような物音だったそうです。」


黒瀬は目を輝かせる。


黒瀬:

「ほら、若女将。やっぱり泥湯を狙った“何者か”がいるってことじゃないか。」


紗奈:

「でも、何のために……泥湯をどうするつもりなんでしょう?」


シーン切り替え:別府の市場


翌日、紗奈は黒瀬とともに近くの市場を訪れることになった。泥湯が消えた原因を探るため、近隣の旅館や温泉施設に情報を集めるのが目的だ。市場は観光客で賑わい、湯気の中で新鮮な魚介や地元の名産品が売られていた。


黒瀬:

「別府っていいよなぁ。湯けむりがあるだけで、なんか全てがミステリアスに見えてくる。ほら、あそこ。泥パックの露店まであるぞ。」

(泥パックを手に取る)


紗奈:

「……泥パック? あれってうちの泥湯の泥に似てますね……。」


紗奈は立ち止まり、露店の店主に声をかける。


紗奈:

「あの、この泥パックってどこから仕入れてるんですか?」


店主は少し困った顔をする。


店主:

「それが、昨日の夜に突然仕入れ先が変わったんです。いつもの業者じゃない人が、安く大量に持ってきたんですよ。」


紗奈と黒瀬は顔を見合わせる。


黒瀬:

「若女将。これ、もしかすると“盗まれた泥”の行方に繋がってるんじゃないか?」


紗奈:

「確かに……。でも、それならどうしてわざわざこんなところで売るんでしょう?」


黒瀬:

「考えられるのは、ただの金儲け。もしくは……もっと複雑な理由かもな。」


紗奈は複雑な気持ちで市場を見渡す。この静かで賑やかな温泉街の裏で、誰かが何かを企んでいる――そう感じずにはいられなかった。

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