テーマ: とりとめもない話
こんばんは、遠獄マユリです。
みなさん今日もご視聴ありがとうございまーしゅ。
画面の向こうでアバターが笑う。
手を振ると知ってるアカウントがハートを投げてくる。
アカウント名を読み上げ、
いつもありがとうございましゅと答える。
Vをやり始めて割と長い。
つまり、割と高めの年齢だ。
最初はただの趣味で、
ゲームやりながら一人でゲーム実況を流していた。
始めた理由は就職のために上京して、
喋る相手もおらず、ただ会社と家を往復する毎日に
限界が来たからだった。
酒も飲まないしタバコも吸わないし、
共通の話題もなく、友達の作り方がわからなかった。
ネトゲに行かなかったのは単純に金も時間もなく、
一人でコンシューマーをやりこむしかなかったからだ。
実家から持ってきた古いゲームを延々と周回していたら
ボツボツ固定の視聴者が出てきて、
1人2人とコメントをくれるようになった。
そうなると嬉しいもので、文字を読みながら会話をし、
だらだらと会話をしてキリの良いところまで遊び、
おやすみーと言って終わる。
チャンネル登録者はさして増えず、
毎回ログインしてくる固定の視聴者と
ゆるくコミュニケーションを取り、
このゲームやってみてというリクエストに応えるために
中古のゲームを探し、初見殺しなら唸り声を上げた。
コメントも草を生やして笑っていた。
今ほどスマホもネットも普及しておらず、
随分と呑気な時代だった。
画面越しに会話をすると少し気持ちが軽くなった。
仕事はそうブラックでもなかったが、
都会で遊ぶには薄給で、
休みの日はゲームをやるくらいしか時間の潰し方が
なかった。
多分、一人で画面に向かっていたらおかしくなっていたと思う。
リアルでは相変わらず一人で、
洒落た個人店に行く勇気もなく、
田舎にいた頃と変わらないスーパーとコンビニ、
頑張ってもチェーン店くらいにしか入れなかった。
画面の向こう側だけが人との繋がりだった。
何年も同じことを繰り返していて、
同じ顔ぶれの中の一人が今日卒業式だったと
教えてくれた時、卒業おめでとーと言いながら、
ふと自分が幾つになっているのかを考えた。
もうすぐ魔法使いになれそうなくらいの年齢だった。
ずっと、仕事とゲームだけをして過ごしていた。
あれ、これヤバくね?
ふと我に返った。
このぬるま湯はまずいと考え、
しかし、ここ以外の居場所も思いつかず、
ゲームをやりながら愚痴を言ってしまっていた。
“コレを仕事にすれば良いんじゃね?”
というコメントが返ってきた。
は?と思った。
視聴回数三桁、
だらだらとゲームしながら喋るだけで
仕事になるわけないじゃんと答えていた。
そうしたら画面にURLが貼り付けられ、
美少女になるんだよ。と唆された。
その時は、は?と思った。
貼り付けてもらったURLに飛び、
3DCGと合成音でカクカク会話する女の子がおり、
え、今こんなの出来てんの?と驚いた。
熱く語る常連のコメントを読み込んで、
今はまだ参入者少ないから、
今初めて続けてたら古参になれるよ?
みんな女の子に飢えてんだよ。
サクラになってやるから
美少女になって視聴回数稼げよ。
甘い誘惑に負けた。
そうして自分は遠獄マユリというアバターになった。
当時はVチューバーという概念すらなかった気がする。
最初は何やってるんだろうという照れもあったが、
全く別の自分になるという感覚はわくわくした。
悪ノリに悪ノリを重ねて時間が過ぎ、
じわじわと視聴者やリピーターが増え、
そして古参と呼ばれる存在になった。
収入は本業の仕事を超え、
しかし使い道がないもまま貯まっていき、
確定申告のやり方を覚え、
副業禁止の職場にバレて辞職することとなり、
再就職先も見つからないまま配信を続け、
機材が増え、アバターは進化し、
ついにはマンションを一括で買ってしまった。
年々ネットの治安は悪くなる一方だが、
炎上も経験せず、一定の収益を上げ続けていられるのも
視聴者の皆さんのおかげだ。
荒らしはたまにくるが、
常連と話しているといつの間にかいなくなる。
今でも毎日丁寧に挨拶し、
新規にも古参にもこまめにレスを返し、
とりとめもない話をしながらゲームで遊び、
今日もありがとうございましたーで締めくくる。
電源を落とすとため息が出る。
困ってない。生活には全く困ってない。
むしろ余裕がある方だ。
マンションを買ってなお貯金は8桁超えている。
何も困っていない。
しかし、上京してから既に20年。
未だにリアルで友達が出来ない。
金があるのに気後れして高そうな店に入れない。
相変わらずスーパー、コンビニ、
チェーン店を周回している。
Vチューバーという仕事に理解がないため
親からは勘当を言い渡され、
地元にもずっと戻っていない。
自分はこのまま歳を取っていくんだろうか。
孤独死という言葉が頭を掠めるが、
何をすれば良いのかわからない。
リアルで会話したのがいつだったかも覚えてない。
なんだろう、自分は何がしたいんだろう。
金もあるし、趣味のゲームもしてる、話相手もいる。
無理な配信スケジュールは組んでない。
ご飯を食べて散歩もしてる、
なのにどうしてこんなに疲れてるんだろう。
モヤモヤを抱えながら、布団に入った。
久しぶりに小さい頃飼っていた猫の夢を見た。
ふわふわぬくぬくしていて撫でると暖かかった。
目が覚めても手が暖かい感触が残っていた。
あー、自分寂しいんだ。
ようやくモヤの正体がわかって少し泣いた。
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