テーマ: 仲間




仲間さーんこれもお願いできますか?


「はーいわかりました!」



返事ははっきりと元気よく。



仲間、これも頼むわ。



「いつまでですか?明日でも間に合います?」



案件を複数抱えるときは締め切りを確認する。



仲間くんこれありがとう、助かったよ。



「はい、お役に立てて良かったです」



明るく、にこにこ笑って、

また仕事を任せても良い、

信頼できる奴という印象と空気を作る。



自分頑張ってる、とても頑張ってる。




え、あいつ今度の飲み会来んの?休んで良い?



お昼を食べようと思い休憩室に入ろうとしたが、

直前に固まってしまう。



誰のことだ?



そんなこと言っちゃ駄目っすよー。


気安い声は同じ課の同僚の声だ。

え?これ来週の飲み会の話?



あいついい奴じゃないすか。なんで嫌うんです?


いい奴過ぎて違和感あるんだよ。

いかにも作ってます!裏の顔は違います系の。


そっかー。



そこまで聞いて回れ右した。




背中に言葉が突き刺さる。



あいつの笑顔、嘘くさくて緊張するんだよ。

飲み会パスな。




その通りだ。

自分は笑顔を作ってる。



だって素でいると不機嫌そうと言われる。

普通に対応するとそんなに嫌なら断れと言われる。

仕事に集中してると怖いって言われる。




沢山失敗した。

仕事も何回も変わった。




だから今度は失敗したくない。

だから沢山練習した。

笑顔、受け答えのロールプレイ、声の大きさ。

チェック項目を作り網羅した。



でもやっぱり駄目なんだなあ。


ちょっと涙が出てくる。


お父さんお母さんごめんなさい。


社会人になり、父と初めて酒を飲んだとき

親の都合で転校ばかりさせて悪かったよ、と告げられた。


俺も母さんも転勤族だし、うちの苗字仲間だろう?

転校ばかりさせることになっちまうし、

いつも新しい場所で友達作るの大変だろうと思って、

名前はカズトです!

仲間の一人にいれてください!って

自己紹介ネタにできて友達作りやすくなる名前が良いと思ったんだ。




自分はあまり気にしてなかった。

父が仕込んだネタは鉄板で、

父の狙い通り転校先で打ち解けるのに役立った。

いじめられることもなかった。



挨拶程度の薄い人間関係でも気にしてなかった。




だから父がそんなに気にしてるなんて知らなかったし、

そんなこと気にしなくていいよ!

とその場は笑い話で終わった。

自分はまだ学生だった。




つまづいたのは社会人になってからだ。




学生時代にどこで遊んでたか、遊んでない。

流行っていたものは何か、やったことない。

ご当地あるあるネタ、知らない。

おすすめのお土産もわからない。



短い期間で転々としていたせいか、

学校の外で遊ぶ友達があまりできなかった。

地域ごとに流行りが違って馴染めなかった。

ご当地ネタ知らない。

住んでた地域の名店も知らない。



会話が出来ず、固まる時間が増えた。



これじゃ駄目だと沢山勉強してみたが、

勉強では駄目らしい。

鼻で笑われ、

本当の情報は本に載ってないもんだよ。

く、ち、こ、み!


そう言われて呆然とした。

そんなのどうすれば良いんだよ。



益々口が重くなり、怖いと言われ始めた。


今回も沢山練習したのになぁ。




お父さんお母さんごめんなさい。



また無職になりそうです。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る