第2話
「俺のせいだよな。俺は花純と別れたこと後悔してるよ」
樹様の告白に、心が揺れ動く。
「ここでそんな話をしたら誰かに聞かれてしまいます。私たちが付き合っていたことはお姉様には秘密なのですから」
樹様がまだ私に行為を寄せているなんてことがお姉様の耳に入ってしまったら…
考えただけでも恐ろしい。
「正直、今でもやり直せると思ってる。いっその事二人で駆け落ちしようよ」
「樹様…、」
そんなことしたって意味ない。
最後まで逃げきれるはずないんだから。
きっと、どんな手を使ってでも私たちを見つけ出す。
お姉様はそういう人だ。
「樹様なんて言わないで、前みたいに樹って呼んでよ」
私だって、呼べることならそう呼びたい。
また二人で手を繋いで歩きたい。
「すみません、」
だけど、その願いはもう叶わない。
ただ謝ることしか出来なかった。
樹様の懇願に応えたい気持ちを抑え込むのは辛かった。
彼の真剣な眼差しが、私の心を揺さぶる。
「俺はまだ花澄の事が」
樹様の声が震えているのを感じた。
彼の言葉が続く前に、冷たい声が二人の間に割り込んだ。
「あら、2人でコソコソ何のお話をしているのかしら」
お姉様が現れ、その冷たい視線が私たちを貫いた。
「…お姉様、」
私は一瞬で緊張し、心臓が早鐘のように打ち始めた。
「まさか浮気でもしてるんじゃないでしょうね」
お姉様の声が、私達の間に冷たい風を吹き込む。
「あのな、そもそも」
樹様が何を言おうとしてるのか分かる。
だから、樹様の言葉を遮った。
「いえ、そんなはずはありません。私と樹様では不釣り合いですから」
冷静を装いながらも、心の中では恐怖と悲しみが渦巻いている。
「花澄…」
樹様の声が、私の心に痛みを与える。
「ふっ、よく分かってるじゃないの。完璧な私と足でまといの貴方ではどちらが樹とお似合いなのか、考えなくても分かるわよね?」
分かってる。
分かってるから、樹様の幸せを願って別れることにした。
「おい、そんな言い方は」
私を庇えば庇うほど樹様の立場は悪くなるのに。
「はい。十分承知しております」
樹様を守るためにも、自分を守るためにも、そう答えるしかない。
「ならいいわ。ついてきて。父が呼んでいるわ」
「はい」
私達が付き合っていた事がバレたら…なんて言ってるけど本当は違う。
樹様が知らないだけで、お姉様はとっくの昔に気づいている。
私と樹様が付き合っているのを知ったお姉様が、無理やり私達を引き裂いたのだ。
お父様の力を使って。
付き合ってるなんて言ったところで無意味だから。私は抵抗しなかった。
それに、もしも別れなかったら…樹様に何するか分からないと脅されもした。
多分お姉様は樹様のことを愛していない。
ただ、私から愛する人を奪いたかっただけ。
そうして樹様はお姉様の婚約者になった。
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