第2話 家族の病気が映し出す現実
我が家の一日は、病気との戦いから始まり、病気とともに終わる。父は腎臓病で週に数回の透析治療を受け、母は糖尿病の症状と向き合いながらインスリン注射を欠かさない。僕自身も通院が必要な状況だ。家族全員がそれぞれの病を抱え、日常が医療に縛られている。
父が透析から帰ってくる日は、家の空気が少し重くなる。透析は体に大きな負担がかかるらしく、帰宅後の父は疲れ切って言葉少なにソファに腰を下ろす。僕は特に話しかけることもできず、ただ水を差し出すくらいしかできない。
母もまた、朝から忙しなく動き回っている。血糖値を測り、注射を打ち、家事をこなす。彼女の体は、そんな日々の負担に耐え切れないのではないかと思うことがある。それでも母は家族のために動き続ける。「お金がない」と愚痴をこぼしながらも、誰かのために手を止めることはない。
僕はというと、家族に対して自分がどれだけ頼りない存在かを痛感するばかりだ。医療費がかさむ中で、自分自身も治療を受けなければならない。学校に通っていた頃も、何かを成し遂げることで家族に恩返しをしたいと思っていたが、いまだに何も実現できていない。
家族の病気は、目に見えない形で僕を縛りつける。何かを始めたいと思っても、「どうせ無理だ」「自分一人では何も変えられない」という考えが頭をよぎる。けれど、父や母の姿を見ていると、何もしない自分が情けなく感じてしまう。
ふと、母がキッチンから声をかけてきた。
「今日はどうだった?ちゃんと調子は良かった?」
心配そうにこちらを見る母の目を見て、僕は「うん、大丈夫」と返事をする。それが嘘だとわかっているのは、僕と母だけだ。体の不調や心の疲れなんて言っている場合じゃない。母がこんなに頑張っているのに、僕だけが弱音を吐いてはいけないのだ。
夜、父の薬を準備している母の背中を見ながら、僕はまた考える。
「家族を支えたいと思いながら、結局何もできていない。」
この思いはいつまで続くのだろう。果たして自分にできることなんてあるのだろうか。
家族の病気が映し出すのは、自分の無力さ、そして家庭全体が背負う現実の重さだった。それでも、どこかで「まだ何かできるはずだ」と思いたい自分がいる。病気とお金の問題は簡単には解決しない。でも、解決を諦めたくない自分が、まだ心の奥にいることを信じたかった。
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