家族とお金、そして僕の居場所
星咲 紗和(ほしざき さわ)
第1話 母の愚痴、僕の無力感
「お金がない」
母のその言葉を、今日もまた聞いた。朝ごはんの食卓で、昼間の電話で、夜の台所で――彼女の口から同じセリフが繰り返される。それはもう、家の空気に溶け込んでいるかのようだ。僕はその言葉を聞くたび、心の奥に小さなトゲが刺さるような感覚を覚える。
母は糖尿病を患っていて、毎日インスリン注射を打っている。それでも症状は改善せず、病院通いが続く。父は腎臓病で透析を受け、家族全員が医療費の負担を抱えている。僕自身も通院中で、何かの拍子に倒れたりすることがある。そんな状況だから、母が「お金がない」と口にするのも無理はないのだと思う。
でも、それを聞くたびに、自分が何もできないことが悔しい。家にいる僕が、何か一つでも変えられる力があれば――母があんなに不安そうに愚痴をこぼすこともないのだろうか。けれど現実は、僕も何かを助ける余裕など持てず、ただその言葉を受け止めることしかできない。
母が食器を片付ける姿を横目で見ながら、僕は思う。自分がいくら考えたって、家の状況が劇的に良くなることなんてない。それでも、どうにかしたい。家族の不安を取り除きたい。
「大丈夫だよ、何とかなるよ」
そんな言葉を母に向けて言おうと思うけれど、喉の奥で詰まって出てこない。何とかなる保証なんて、どこにもないからだ。それでも、言葉にしなければいけないのか。いや、言葉だけではなく、本当に何か行動を起こさなければならないのではないか。頭の中で考えが堂々巡りする。
結局その日も、何もできないまま時間が過ぎていった。母の愚痴を聞き流している自分が嫌でたまらなかった。だけどその時は、何をすればいいのかも分からなかった。
夜になり、部屋の電気を消して布団に横たわる。暗闇の中で、心の中に響く言葉はただ一つだ。
「自分に、何ができるだろう?」
答えはまだ見えない。けれど、その問いが僕の心に小さな火を灯したように感じた。
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