騎士令嬢と戦闘狂女 ~最凶皇女を飼い慣らせ~

笹塔五郎

第1話 竜よりもずっと

 ――その少女との出会いは、鮮烈なものであった。

 黒を貴重としたドレスを身に纏い、剣を振るう姿はまさに戦うお姫様とも言うべきだろう。

 だが、彼女はそんな可愛らしい表現の似合う人ではない。

 返り血を浴びても嫌な顔を一つせず、むしろ楽しんでいるようにさえ見えた。

 ――この国の皇女が、まさに人を斬る瞬間である。

 そんな彼女の一太刀を防いで――騎士の少女は、皇女と対峙した。


「いきなり割って入るなんて無粋なことするわね。あなた、何者?」

「見ての通り、この国の騎士です。そして、あなたを飼い慣らすようにと命じられてここに来ました」


 騎士の少女がそう言うと、皇女は――それは嬉しそうな笑みを浮かべて、言い放つ。


「ふぅん? 飼い慣らすと言うのなら……力ずくでやってみなさい?」


 剣を弾くようにして、互いに距離を取る。

 そうして――二人の少女の出会いは、斬り合いから始まった。


  ***


 少女――サフィア・アルスティーラは貴族であり、同時に騎士でもある。

『リフェンデル帝国』の北東――『レンヴァル領』を治めるのはアルスティーラ家であり、サフィアはいわゆる辺境領主の娘だ。

 貴族の中には、その名を使って騎士になる者も多い。

 実力の伴わない者もいる――だが、サフィアは違う。

 騎士学校を首席で卒業し、剣術は圧倒的な才能を持ち、魔術に関しても精通している。

 長い金髪を後ろに束ね、可愛らしくも整った顔立ちをしている彼女は可憐で、その騎士の正装に身を包んでいなければ――否、そうだとしても戦えるのかと疑う者もいるだろう。

 実際に立ち会えば、まず彼女に勝てる者はほとんどいないのだが。

 騎士としての資格を有した後は、領地へと戻り騎士の活動に従事していた。

 これは貴族の令嬢としての立場だけでなく、騎士としての立場を持つことで、特に武力行使が必要な際に役に立つ。

 ただし、騎士になるということは――帝国騎士団の一員になるということ。

 それは、領地を守るためだけにその立場を使える、ということではないのだ。


「よく来てくれたね、サフィア・アルスティーラくん。楽にしてくれ」


 促され、サフィアは近くにあったソファに腰を掛ける。


「さて、遠路はるばる苦労を掛けるが……早速要件を伝えた方がいいかな?」


 サフィアの対面に女性――ロデリィ・アンバースは座ってそう問いかけてきた。

 少し赤みがかった髪に黒縁の眼鏡を掛けた彼女は帝国の第三騎士団の騎士団長――サフィアにとっては上司にあたる人物だ。


「任務ということであれば、手早く片付けて領地に戻ろうかと考えておりますが」

「君はそういう子だね。騎士であり、貴族でもある――優秀だが、少し領地に固執しているところがある」

「なるべく、家族の助けになりたいですから」

「素晴らしい心掛けだよ。だが、今回はその心掛けを帝国のために使ってほしいんだ」


 随分と仰々しい物言いをするロデリィに、思わずサフィアは眉をひそめる。


「それはどういう意味でしょうか?」

「言葉のままの意味だよ。これから君に頼みたいことは、帝国の命運を左右すると言ってもいい」

「……大袈裟ですね。『竜』でも現れましたか?」

「どうだろうね。あるいは――竜よりもずっと危険かもしれないよ?」


 回りくどい言い方をするが、果たしてロデリィはサフィアに何をさせようと言うのか。

 その答えは、彼女がある人物の名を発したことで理解できた――いや、させられたというべきか。


「アルシェラ・リフェンデル」

「――」


 サフィアは思わず、目を見開く。

 リフェンデル――それは帝国の名であり、その姓を持つのは皇族のみ。

 そして、アルシェラは誰もが知るこの国の皇女だ。


「……どうして彼女の名を?」

「君に任せたいことだからだよ。『戦闘狂女』と呼ばれる皇女を――飼い慣らしてほしいんだ」

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騎士令嬢と戦闘狂女 ~最凶皇女を飼い慣らせ~ 笹塔五郎 @sasacibe

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