第45話 なんだか変だわ

「アンネリア嬢、疲れただろう?馬は使用人に預けて、休憩をしよう」


 そう言われたが…


「この子は私が小屋まで連れて行って、ブラッシングをいたしますわ。だってこの子、私を乗せてくれたのですもの。もっともっと仲良くなりたいですし」


 なれない私を乗せてくれたのだ。せめて感謝の気持ちを込めて、ブラッシングくらいはしたい。


「君ならそう言うと思ったよ。それじゃあ、一緒に行こうか」


「私1人で大丈夫…」


「そうそう、この馬の名前を決めないとね。アンネリア嬢が決めてあげてくれるかい?」


 ここの子の名前か。う~ん。真っ白くて美しい子だから


「ブランシュにしますわ。今日はありがとう、ブランシュ」


「ブランシュ、良い名前だね」


 旦那様も気に入ってくれた様だ。


 小屋に着くと、早速ブラッシングと新鮮な牧草や野菜を準備した。


「ブランシュ、気持ちいい?たくさん食べて、ゆっくり休んでね」


 なぜか旦那様も、ブラッシングを手伝ってくれている。全てが終わり、小屋から出ると、既に日が沈みかかっていた。


 真っ赤に染まっている景色が、とっても綺麗だ。


「旦那様、見て下さい。夕日がとても綺麗ですわ」


「本当だね、正直僕は、今まで夕日なんて興味がなかったが、アンネリア嬢と見る夕日は、とても綺麗だよ。本当に美しい…」


 よくわからないが、旦那様も気に入ってくれた様だ。ふと旦那様の方をみると、こっちを見つめていた。


 どうして私の方を見ているのかしら?恥ずかしいわ…


 ふっと視線をそらし、再び夕焼けを見つめる。


 今日の私、一体どうしたのかしら?何だか変だわ…


「日も暮れて来たし、そろそろ屋敷に戻って夕食を頂こう。今日は沢山動いたから、お腹もすいているだろう」


 確かにお腹ペコペコだ。気を取り直して、一旦着替えを済ませ、旦那様と一緒に夕食を頂いた。そして食後は、旦那様と一緒に領地のお勉強をする。


 何だかんだ言って、旦那様と過ごすことも多い。最初は恐れ多かったが、随分と旦那様にも慣れてきた。


「アンネリア嬢、僕の顔に何か付いているかい?」


 しまった、つい旦那様のお顔を見つめてしまったわ。


「何でもありませんわ。お勉強の続きをしましょう」


 急いで目線をそらした。いけないわ、私ったら、余計な事を考えてしまったわ。今は勉強に集中しないと。


 そう思っていたのだが、なぜか旦那様が私のおでこに手を当てたのだ。一体何をなさっているの?


「旦那様?」


「少し熱いね。大変だ、熱があるのかもしれない。すぐに医者を」


 私を抱きかかえると、そのまま歩き出したのだ。熱なんてないわ。この人、何を勘違いしているのかしら?


「旦那様、熱なんてありませんので、下ろしてください」


 降ろしてもらおうとしたのだが、びくとも動かない。


「暴れると危ないよ。とにかく医者に診てもらおう。大丈夫だよ、痛い事はしないから」


 いつの間にか私の部屋に到着していた様で、ベッドに降ろされた。そして、なぜか私の頭を撫でている旦那様。完全に子ども扱いをされている。それがなんだか、腹立たしい。


「私はもう子供では…」


「奥様、熱があるとお伺いいたしました。すぐに診察を行いますね」


 やって来たお医者様に診てもらうが、やはり特に異常はない様だ。


「もしかしたら、疲れが出たのかもしれませんね。昨日昼からずっと、家事をなされていたとお伺いいたしました。奥様は一度大けがをなされたことで、体力や免疫力が落ちているのかもしれません。どうかあまり無理をなさらずに、ゆっくりとお過ごしください」


「そうか、やはりメイドと同じように家事をしたことが、よくなったのだね。アンネリア嬢、君は侯爵夫人だ。もし万が一何かあったら大変だ。もう家事はしないで欲しい」


「お待ちください、旦那様。私は本当に何とも…」


「医者がそう言っているのだから、素直に聞いた方がいい。君たち、僕がいない間、アンネリア嬢が無理をしない様に、しっかり見張っていてくれ」


「「承知いたしました」」


 近くに控えていたリアナとマーサに指示を出す旦那様。だから、本当に違うのに…


「アンネリア嬢、今日の勉強はこれくらいにして、ゆっくり休んでくれ」


 旦那様がまた私の頭を撫でて、去っていく。


 だから、違うんだってば!そう叫びたいが、足の長い旦那様は、あっと言う間に部屋から出て行ってしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る