第44話 乗馬に挑戦です

「それじゃあ、早速君が乗りやすい馬を準備しよう」


「ここに沢山の馬がいますわ。この中から選べばよいのではないですか?」


 ここには立派な馬たちが、10頭以上いるのだ。こんなにたくさんいるのだから、わざわざ手配する必要はない。


「ここにいる馬たちは、どちらかというと気性が激しくてね。もちろん、大人しいのもいるが、アンネリア嬢が乗る馬だ。極力大人しくて従順な馬がいいだろう。とにかく僕に任せてくれ」


 胸を叩いている旦那様。確かに私は乗馬については全くのド素人だ。旦那様に任せた方がいいのだが、 何分この人は、すぐに無駄遣いをする。今回だって…て、私がぐちぐち言える権利もないわね。


「分かりましたわ。それではよろしくお願いします。では、私は続きを…」


「そうそう、アンネリア嬢と一緒にお茶がしたくて、早く帰ってきたのだよ。王都で人気のお菓子も手配したよ。さあ、中庭に行こう…と言いたいところだけれど、まずは着替えからだね。すぐにアンネリア嬢の着替えをさせてやってくれ」


「かしこまりました。さあ、アンネリア様、こちらです」


 私の手を引き、歩き出したリアナ。


 “もう、アンネリアは!だから言ったでしょう。あなたはもう侯爵夫人なのだから、メイドの仕事なんてしてはいけないと”


「あら、どうしていけないの?旦那様は別に、メイドの仕事をしてはいけないとおっしゃられていなかったわよ」


 “アンネリアは鈍いわね…旦那様は遠回しにあなたから掃除の仕事を取り上げたのが分からないの?いくら旦那様が寛大だからって、さすがによくないわ!”


 リアナがなぜ怒っているのかよくわからない。もしかして、旦那様にバレたことがいけなかったのかしら?


「分かったわ。それじゃあ次からは、旦那様にバレない様に上手に掃除をするわね」


 笑顔でそう答えたのだが…


 なぜかリアナがため息をついて頭を抱えている。一体どうしたのかしら?


 気を取り直して着替えを済ませた後、旦那様と一緒にお茶を楽しんだのだった。


 翌日

 午前中のレッスンを終え、昼食を頂いた後は、早速掃除!そう思ったのだが…


「アンネリア嬢、馬を手配したよ。早速今日から、乗馬を始めよう」


 なぜか午後一番で旦那様が帰ってきた。どうやら馬を手配してくれた様だ。また無駄遣いをして…


 そう言いたいが、嬉しそうな顔の旦那様にそんな事を言える訳がなく…


 着替えを済ませ、旦那様と一緒に、馬小屋へとやって来た。


 するとそこにいたのは、真っ白な美しい馬だ。こんな美しい子は、初めて見たわ。スッと手を伸ばすと、すり寄って来たのだ。なんて人懐っこくてかわいい子なのかしら?こんなかわいい子を、私がもらってもいいの?


「アンネリア嬢、気に入ってくれたかい?この馬は大人しくて従順で、初めてでも乗りやすいと思うよ。さあ、早速練習を始めよう」


 旦那様と一緒に、侯爵家の敷地内にある牧場へと向かう。そして旦那様の手を借りながら、ゆっくりと馬にまたがった。


「大丈夫かい?まずは僕が馬を引くから、アンネリア嬢はそのまま乗っていたらいいよ」


 自ら馬を引く旦那様。さすがに旦那様に引いてもらうのは気が引ける。


 ただ、旦那様はものすごく嬉しそうなのだ。仕方ない、このまま引いてもらおう。


 それにしても、馬に乗るってこんなに気持ちがいいのね。それにいつもよりも高い位置から見る景色も新鮮だ。


 今は牧場をグルグル回っているだけだが、いつか大草原を爽快にこの子と一緒に走れたら、きっともっと気持ちよいのだろうな。ついそんな妄想をしてしまう。


「随分とアンネリア嬢も慣れて来たね。それじゃあ、今度は操縦の仕方をやってみようか」


 何を思ったのか、旦那様が私の後ろに乗り込んできたのだ。そしてギュッと抱きしめられる。


 その瞬間、なぜか心臓の音が急にうるさくなったのだ。抱きかかえられた事は何度もある。その時は何とも思わなかったのに…私ったら、急にどうしたのかしら?


「いいかい?アンネリア嬢、手綱はこうやって持つのだよ。そして脇をしっかりしめて、腕は曲げるんだ。こうやってね」


 旦那様が丁寧に教えてくれる。とても分かりやすいのだが、なぜか落ち着かない。そんな私を他所に、旦那様の説明は続く。


 とにかく今は、乗馬に集中しないと!そんな思いで、旦那様に教えてもらいながら、必死に手綱を操った。とはいえ、旦那様も一緒に手綱を操ってくれているので、ほぼ私は握っているだけなのだが。


 それでも


「そうそう、その調子だ。アンネリア嬢は筋があるね」


 そう言って褒めてくれるのだ。この人、人を褒めるのが上手ね。なんだか楽しくなってきたわ。ただ、段々お尻が痛くなってきた。


「アンネリア嬢、今日はこの辺にしておこう。あまり無理をすると、体を痛めてしまうからね」


 この人、私の心が読めるのかしら?私のお尻が痛くなってきたタイミングでやめるだなんて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る