第28話 全く信用されていない~アレグサンダー視点~

「ファレソン伯爵、夫人、あなた様達のお気持ちもよくわかります。こんな愚かな男に、大切なアンネリア嬢を預けるのは不安でしょう。ですが、どうかもう一度だけチャンスを頂きたいのです」


「侯爵様のお気持ちは分かりました。ですが、アンネリアはずっと家の為に生きてきたため、貴族令嬢としての教育を満足に受けさせることが出来ませんでした。その上、あの子は今まで令息とあまり交流を持ってこなかったせいか、男性に興味がないと言いますか、鈍いと言いますか…侯爵様のお気持ちにきちんと答えられるかどうか…」


「貴族としての教育なら、問題ないかと思います。一度一緒に食事をしたとき、とても動作が奇麗でしたし。それにアンネリア嬢は頑張り屋なので、その気になればすぐにマナーなどは覚えられるでしょう。そもそもアンネリア嬢には、僕の傍にいてくれたらいいと思っておりますので。彼女が嫌がるのでしたら、無理に夜会などに参加させるつもりはございません。


 アンネリア嬢が僕に何らかの感情を抱いているとは、さすがに思っておりません。少しずつ、僕を意識してくれたら。その為に、やれることをやるまでです。その為にも、どうかこのまま、婚姻を継続させていただければと考えております」


 我が儘で傲慢な平民にうつつを抜かした愚かな僕が、何を抜け抜けと!と思われているだろう。それでも僕は、アンネリア嬢と離れたくはないのだ。握る拳にも力が入る。


「まさかビュッファン侯爵様が、娘をその様に思って下さっていただなんて、とても光栄な事でございます。ですが、我が娘はとても侯爵夫人だなんて務まりません。特にあなた様は非常に優秀で、王太子殿下の右腕とも称されているお方。もっとしっかりと教育された令嬢と再婚された方がよろしいのではありませんか?あなた様ならきっと、再婚は可能でしょう」


 この国では一度離縁をすると、再婚は厳しいが、多分の僕なら可能だろう、そう伯爵は考えたのだろう。確かに僕なら、ある程度の貴族令嬢と再婚する事出来るかもしれない。でも僕は、他の令嬢と再婚する事なんて、考えられない。


「もしアンネリア嬢と離縁したら、ずっと独身を貫くつもりです。好きでもない令嬢と結婚なんて、考えられないので…」


「お言葉ですが侯爵様。あなた様は、姉を利用してまで平民の女性を愛していたのですよね?それなのに、2ヶ月足らずで今度は姉を好きになったとおっしゃいました。要するに、移り気が激しいという事でしょう?また別の女性にうつつをぬかして、姉をいつか捨てるのでしょう?姉はあなたのおもちゃでも何でもないのです!これ以上姉をあなたの都合で振り回さないで下さい!」


 今までずっと沈黙を守って来たアラン殿が、目に涙をいっぱい溜めて僕を睨みながら叫んだのだ。


「こら、アラン、なんて事を。申し訳ございません、侯爵様。この子は姉をとても大切に思っておりまして…私の教育不足です。本当に申し訳ございません」


 ファレソン伯爵が必死に頭を下げていた。ただ、きっと彼らも、アラン殿と同じ気持ちなのだろう。確かに僕は傍から見れば、移り気の激しい男に見える。いつかまた、アンネリア嬢以外の令嬢にうつつを抜かすと考えられても、不思議ではない。


 自分の浅はかな行いのせいで、伯爵家の方たちからの信用も失ってしまったのだ。いや、元々あんな非道な契約を持ち出した時点で、伯爵家の方たちから良い印象を受けられていない。


 実際に、借金以外の援助は断られているし、借金のお金も返すと言われているくらいだ。正直僕とは、今後関わりたくはないのだろう…


「お話し中申し訳ございません。お屋敷に到着してアンネリア様をお部屋にお運びいたしました。どうぞ皆様も、こちらへ」


 いつの間にか侯爵家に到着していた様で、中々降りてこない僕たちを心配した使用人が、声をかけて来たのだ。


「ファレソン伯爵、夫人、アラン殿、どうぞこちらへ」


 気を取り直して、彼らを屋敷に案内する。


「これが侯爵家…すごいな…」


 さっきまで睨んでいたアラン殿も、侯爵家の屋敷に入った途端、ポツリと呟いたのだ。何だかんだ言って、彼はまだ12歳の子供なのだ。そんな彼に輸血をさせ、朝まで付き合わせてしまうだなんて、本当に申し訳ない。


「アンネリア様のお部屋はこちらでございます」


 元々僕が準備した部屋に案内された。


「この部屋が、アンネリアの部屋なのですか?こんな立派な部屋を、アンネリアは…」


「はい、私が元々アンネリア嬢の為に準備した部屋です。ですが、彼女がこの部屋を使うのは、今日が初めてです。ずっとキャサリンに酷い扱いを受けておりましたので、狭い部屋に閉じ込められていたのです。使用人たちも、キャサリンには逆らえず、僕の指示ではなく、あの女の指示を聞いておりましたので…」


 そうさせたのは、僕だがな。


 ちなみにアンネリア嬢が横たわるベッドの横には、貴族病院から運ばれてきた最新の機器たちが並んでいる。さらに家の専属医師に加え、貴族病院から派遣された医師3人と看護師も待機させている。


 これで万が一、アンネリア嬢の容態が急変しても、すぐに対応できるはずだ。

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