第27話 ファレソン伯爵に僕の気持ちを伝えました~アレグサンダー視点~

「確かに今の我が家では、アンネリアに満足な治療を受けさせることは厳しいです。しかし、借金をすれば、何とか…」


「伯爵、せっかく借金も無くなったのに、また借金をするつもりですか?そんな事、アンネリア嬢が望むと思っておられるのですか?アンネリア嬢は、家族の為に僕の様な外道に嫁ぐような優しい子です。もし自分のせいで、あなた方が再び借金をしたと知ったら、きっとアンネリア嬢が悲しみます。それに、どうか僕に、アンネリア嬢に償いをするチャンスを頂けないでしょうか?全身全霊をかけて、アンネリア嬢のお世話をいたします。どうかお願いします」


 僕にアンネリア嬢のお世話をするチャンスを与えて下さい。そんな思いで、必死に頭を下げた。


「もし侯爵家できちんと治療を受けられているかご心配なら、いつでも侯爵家に尋ねて来てくださって構いません。ですので、どうかお願いいたします。僕に最後のチャンスを!」


 必死に頭を下げる僕に、困惑気味の伯爵と夫人。お互い顔を見合わせている。



「侯爵様、本当にアンネリアに会いに行ってもよいのですか?」


 婦人が恐る恐る僕に問いかけてきた。


「ええ、もちろんです。夫人が望むのでしたら、侯爵家に泊まって頂いても構いません。ですので、どうかお願いいたします」


「侯爵様のお気持ちは分かりました。それでは、アンネリアが目覚めるまで、どうかよろしくお願いいたします」


 アンネリアが目覚めるまで…その言葉が気になるが、とりあえずアンネリア嬢を連れて帰る許可は頂けたようだ。


「ありがとうございます、ファレソン伯爵、夫人。それでは、すぐにアンネリア嬢を連れて侯爵家に戻ります。既に使用人たちが、アンネリア嬢の部屋を整えているはずですから。宜しければ、侯爵や夫人、アラン殿も我が家にいらしてください」


「よろしいのですか?」


「ええ、もちろんです。ガウン、すぐに手続きを済ませてくれ。アンネリア嬢を今すぐ連れて帰りたい」


「承知いたしました。私は病院での手続きを済ませてから侯爵家に向かいますので。皆様はどうかお先に侯爵家へ向かってください」


「旦那様、既に馬車の準備は出来ております。どうぞこちらです」


 別の執事が、僕たちを馬車へと案内してくれた。アンネリア嬢も一足先に、ベッドが付いた馬車に乗り込んで出発した様だ。


「侯爵様、あの…その血は、アンネリアの血ですか?」


 ふと一緒に馬車に乗っていた伯爵に、話し掛けられたのだ。そういえば僕、着替えも湯あみもしていなかったのだった。服にはかなりの血が付いていた。改めて自分の服を見て、血の気が引いていくのを感じた。


「はい、アンネリア嬢を抱きかかえた時についた血です。夫人、アラン殿、アンネリア嬢に輸血をしてくれたと聞きました。あなた達のお陰で、アンネリア嬢は命を取り留めたのです。本当に、ありがとうございました」


 改めて、夫人のアラン殿に頭を下げた。


「侯爵様、どうか頭を上げて下さい。私もアランも、家族として当たり前の事をしたまでですから。それよりも、どうしてアンネリアは、その…あなた様の愛する女性に刺されたのでしょうか?申し訳ございません。おっしゃりたくないのでしたら、お話しになられなくても…」


「いえ、大丈夫ですよ。実は僕の愛したキャサリンは、非常に我が儘で傲慢な女性だったのです。その事が最近分かって…正直僕は、我が儘で傲慢な女性が大嫌いなのです。まさか自分が愛した女性が、最も嫌いなタイプだっただなんて…


 それに引き換え、アンネリア嬢は、貴族令嬢と言うのに、キャサリンから理不尽な事をされても、文句を言うどころか、笑顔で対応していて。その上、メイドたちがキャサリンに理不尽に暴言を吐かれていると、体を張って止める強さを持っている。人間だけでなく動物たちにすら愛情深いアンネリア嬢に、僕は次第に惹かれて行ったのです。


 それで、キャサリンを追い出して、アンネリア嬢と…という、なんとも身勝手な感情を抱くようになって…


 使用人たちが上手くキャサリンを追い出す方法を考えてくれたのですが、僕がそれを台無しにしてしまったうえ、キャサリンを怒らせてしまって…その結果、キャサリンの怒りが、アンネリア嬢に向いてしまったのです。


 全て僕が愚かだったために、アンネリア嬢を傷つけてしまったのです。本当に申し訳ございませんでした」


 僕は伯爵家の皆に、正直に話しをした。これが僕に出来る、ファレソン伯爵家の方たちへの精一杯の誠意だ。


「その様な事があったのですね。あの、今侯爵様は、アンネリアに惹かれているとおっしゃいましたが、それは本当ですか?」


「はい、本当です。もし許されるのでしたら、僕はアンネリア嬢と共に未来を歩んでいきたいと考えております。正式に侯爵夫人として、僕の傍にいてくれたら、そう考えております」


 僕の言葉を聞いた伯爵と夫人が、信じられないと言った表情を浮かべている。

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