第13話 聞き取り調査の結果~アレグサンダー視点~
「メイド長の気持ちは分かった。君には随分と苦労を掛けた様で、すまなかったな。近いうちにキャサリンは、この家から追い出すよ。それから、今日からキャサリンには一切の権限を与えない。キャサリンが何をいっても、聞く必要はない。キャサリンがもし何か酷い事をして来たら、僕に全て報告してくれ。それからアンネリア嬢の件だが、すぐに僕が手配した部屋に移させるんだ。料理長、アンネリア嬢にあのような料理を出すとは…と言いたいが、それもすべて、キャサリンの指示なのだろう?」
「はい、そうでございます。正直私は、アンネリア様にあの様な食事を出すのは心苦しくて。あんな粗末な食事を、喜んで食べて下さるアンネリア様を見ていたら、私は…」
ポロポロと涙を流す料理長。
「アンネリア嬢は、君たちから見てどんな女性だ?」
「とても働き者な女性です。優しさはもちろん、友人を守るためならキャサリン様にも意見できる、強さも持ち合わせています。いつも笑顔で、傍にいるだけで元気を頂けるような、そんな方でございます」
「アンネリア様はあんなお粗末な料理も“美味しい、いつもありがとう”と言って食べて下さいます。キャサリン様は、いつも文句ばかりで…て、申し訳ございません」
「いや…いい。ようするに、キャサリンはどうしようもない女と言う訳だな…僕はなんて女を好きになってしまったのだ…皆、すまなかった。僕が愚かなばかりに、皆にも苦労を掛けてしまった…」
「私共の事は気になさらないで下さい。私どもは、旦那様がやっと目が覚めて下さった事が嬉しいのです。以前までの旦那様は、私共が何を言っても、聞き入れて下さらなかったので…」
そう言って皆が苦笑いしていた。よく考えてみれば、今までも使用人たちからキャサリンについて、何度も相談されていたが、キャサリンはそんな女性ではないと突っぱねていたのだ。あの頃の僕は、周りの意見を全く聞かない、どうしようもない男だった。まさか僕は、一番嫌いなタイプの女を愛し、その女の好き勝手させていただなんて…
その上、何の罪もない令嬢を買収したうえ、酷い扱いを受けている事にも気づきもせずに、ずっとメイド以下の生活を強いてきたのだ。アンネリア嬢に、何と謝ればよいのだろう…
「キャサリンは今すぐ追い出す。適当な金を準備すれば、問題ないだろう」
これ以上、あの女の好き勝手にはさせない。
そう思ったのだが…
「お言葉ですが旦那様。キャサリン様は、私が見てきた中でも、軍を抜いてプライドの高い女性です。正直、あそこまで傲慢で我が儘な令嬢は、貴族令嬢の中でもなかなか見かけないレベルです。そんな女性を急に追い出したら、きっと逆上して、何をしでかすか分かりませんわ。せめて彼女に王都にある、ある程度の敷地のある屋敷と、一生遊んで暮らせるだけのお金を渡し、誠意を見せた方がよろしいかと」
「確かにキャサリン様の性格を考えると、急に出て行けというと、怒り狂うでしょうね。周到な準備をして、穏便かつスムーズに追い出す方向で行きましょう。万が一急に追い出すなんてことをしたら、もしかしたらアンネリア様に危害が及ぶかもしれません」
「アンネリア嬢にだと!」
「キャサリン様は、アンネリア様の事を快く思っておりませんので…彼女を追い出すために、あのような酷い仕打ちを…ただ、当のアンネリア様は、あまり気にしていらっしゃらない様ですが…」
アンネリア嬢に危害が及ぶだと。これ以上彼女が酷い目に遭ったら…
ふとアンネリア嬢の笑顔が脳裏に浮かんだ。彼女はどんな酷い目に遭っても、決して笑顔を絶やさない。まるで太陽の様な女性だ。彼女の笑顔を、誰にも奪われてなるものか。これからは、彼女が望む生活を送らせてあげたい…
「とにかくこれ以上、アンネリア嬢にメイド以下の生活を送らせる訳にはいかない。そもそも彼女は、僕の妻だぞ。侯爵夫人が、この様な酷い扱いを受けているだなんて、言語道断だ。すぐに元々僕が準備した部屋に移動させよう。それから好きな物を好きなだけ買い与えないと。メイドは当初の予定通り、5人付けて。それから、後何をすれば彼女は喜ぶのだろう」
「落ち着いて下さい、旦那様。今あなた様がアンネリア様を優遇したとキャサリン様に知られたら、それこそ逆上し、アンネリア様に何をしでかすか分かりません。アンネリア様には、しばらく今まで通りの生活を…」
「メイド長、何を言っているのだ?これ以上アンネリア嬢に、酷い仕打ちをしろと言うのか?彼女は侯爵夫人だぞ。これ以上キャサリンに遠慮する必要はない!」
「お言葉ですが、あなた様はキャサリン様の恐ろしさを知らないから、そんな事が言えるのです。とにかく、キャサリン様を刺激しない様に、上手く屋敷から追い出しましょう」
メイド長から強い口調で言われた。ここまでメイド長が言うという事は、よほどの事なのだろう。とはいえ、キャサリンをうまく屋敷から追い出すためには、どうしたらよいのだろう。
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