第4話 ビュッファン侯爵家に向かいます

「それではお父様、お母様、アラン、行って参ります」


「アンネリア、君を売る形になってしまって、本当にすまなかった。もし辛い事があったら、いつでも戻って来なさい」


「アンネリア…私たちのせいで、本当にごめんなさい。どうか無理をしないでね」


「姉上、僕、もっともっと勉強して、必ず伯爵家を立て直すから。姉上が戻って来た時に、姉上がのんびり暮らせるように。だから…だから…」


「ありがとう、アラン。あなたならきっと、立派な伯爵になれるわ。お父様、お母様、アラン、そんな深刻そうな顔をしないで。ビュッファン侯爵様も屋敷内でゆっくり過ごしたらよいとおっしゃって下さっているし。それにどんな理由であれ、ビュッファン侯爵家で過ごせるのですもの。楽しまないとね」


 せっかく大貴族、ビュッファン侯爵家で過ごさせてもらえるのだ。あわよくば、メイドのお仕事を覚えて、万が一の時に仕事に行けるようにしておくのもよいだろう。そんな事を考えている。


「アンネリアは強いな。私達も、悲しんでばかりもいられない。ビュッファン侯爵殿が、借金を肩代わりしてくれた上、伯爵家を建て直すためのお金まで援助してくださったのだ。アンネリアの為にも、しっかり伯爵家を立て直さないとな」


「その意気ですわ、お父様。それでは、行って参ります」


 家族に笑顔で手を振り、馬車に乗り込んだ。馬車に乗るのは、いつぶりかしら?それも私1人で乗るだなんて。


 ちなみにこの馬車も、侯爵様が準備してくださったのだ。何から何まで、本当に申し訳ない。しばらく進むと、よくお母様と買い物に来る市場が見えて来た。


 きっとここに来ることは、しばらくないだろう。そう思うと、何とも言えない気持ちが込みあげてくる。


 ダメよ、悲しい事を考えたら。スッと涙を拭いた。


 私は確かに、かたち上は侯爵様の妻だ。でも、本当の奥さんは、侯爵様が愛した女性。その為私は、彼女を支える使用人という気持ちで、嫁ぐつもりでいる。


 ただでさえ侯爵様には、我が家に多大なる援助をして頂いているのだ。これ以上、侯爵様にご迷惑をかける訳にはいかない。しっかり働いて、恩返しをしようと考えているのだ。



 しばらく進むと、立派なお屋敷が見えて来た。どうやらあそこが、侯爵家の様だ。あんな立派なお屋敷に、今日から暮らすのね。なんだか緊張するわ。


 馬車が立派なお屋敷の中に入っていき、入り口付近で停まった。ゆっくりと馬車から降りる。ここが侯爵家なのだろうが、誰もいない。ここに来るときに門番がいたから、あの人に聞こうかいら?そう思ったが、門番も特に動く気配もない。とりあえず、中に入ってもいいのかしら?


「あの…本日から嫁いで参りました、アンネリア・ファレソンと申します。誰かいらっしゃいませんか?」


 大きな声で声をかける。すると…


「あなたがアレグサンダーの契約者ね」


 沢山の使用人を引き連れてやってきた女性。燃える様な真っ赤な顔をした、美しい女性だ。腕を組みながら、私を上から下まで見渡す。


 もしかして、この方が侯爵様の愛する方かしら?きっとそうね。


「はい、今日からお世話になる、アンネリア・ファレソンと申します。どうぞよろしくお願いします」


 改めて女性に頭を下げた。


「どんな女が来るのかと思ったら、小娘じゃない。アレグサンダーも、いくらお飾りの妻が欲しいからって、こんな貧相な小娘を選ぶだなんて…いい、この家の主人は私よ。あなたはただの居候。その事は絶対に忘れないで頂戴ね。それじゃあ、早速働いてもらうわ。そこのあなた、この女の部屋に案内してあげなさい」


「ですが…奥様、このお方は伯爵令嬢で…」


「あなた、私の言う事が聞けないというの?それなら、さっさと荷物をまとめて出て行きなさい」


「申し訳ございません、どうぞ、こちらです」


 すごい剣幕で怒る女性に、完全に恐縮している使用人たち。あまりの迫力に、私も固まってしまう。それでも使用人たちに連れられ、ある部屋へと案内された。


「こちらがあなた様のお部屋です。どうか好きな様にお使いください」


 案内された部屋は、6畳程度の部屋で、ベッドと机、イスが置いてあった。さらに


「この服に着替えて、すぐに来てください。それでは私はこれで」


 手渡されたのは、メイド服だ。なんだ、最初から私をメイドとして働かせるつもりだったのね。話が早くてよかったわ、どのみち私は、働きたいと思っていたのだ。


 それにしても、立派なメイド服ね。こんな立派な服を、私が着てもいいのかしら?そんな事を考えながら、着替えを済ませ、急いで先ほどの場所に向かったのだった。

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