第2話 縁談が舞い込んできました
ビュッファン侯爵家といえば、この国でもかなりの有力貴族だ。早くに先代侯爵を亡くされた事で、18歳の若さで当主についたという現侯爵。
非常に優秀で、王太子殿下の右腕としても期待されている人物。社交界に一度も参加したことがない私ですら、名前を知っているくらいだ。そんな方の執事が、我が家に一体何の用で来たのだろう。
「突然押しかけて申し訳ございません。詳しくは、当主から話させていただきます。少々お待ちください」
何を思ったのか、そのまま部屋から出て行った執事。しばらくすると、立派な服を着た男性を連れて戻ってきた。
「皆様、お待たせして申し訳ございません。アレグサンダー・ビュッファンと申します。今日は折り入ってお願いに参りました」
美しい金色の髪をした男性が、こちらに向かってほほ笑んでいる。この人が、ビュッファン侯爵様なのね…なんて綺麗な男性なのかしら?
我が家から見たら雲の上の存在でもある、ビュッファン侯爵様が、一体どんな用件で我が家にやっていらしたというの?
お父様も同じ事を思ったのか
「ビュッファン侯爵殿、あなた様の様なご身分の高いお方が、一体どんなご用件で我が家に?」
恐る恐る侯爵様に尋ねていた。
「実は私も、そろそろ結婚相手を探しているのですが、中々良いお相手が見つからなくて…それで、ファレソン伯爵家のご令嬢、アンネリア嬢を、私の妻にと考えておりまして」
「私が、侯爵様の妻にですか?」
あり得ないわ、私があろう事か、ビュッファン侯爵様の妻だなんて…これは何かの間違いではないかしら?
「あの…ビュッファン侯爵殿、我が家は今、没落寸前です。そんな我が家の娘、アンネリアを妻にしたいだなんて、正直信じられません。それにあなた様ほどお美して優秀な方でしたら、いくらでも結婚相手は見つかるでしょう」
お父様の言う通りだ。このお方なら、きっとどんな女性でも簡単に妻にできるだろう。
「確かに僕は、色々な貴族令嬢からアプローチされてきました。ですが、僕が出す条件を伝えると、皆逃げていくのです。正直僕は、結婚しなくてもよいと考えているのですが、周りがうるさくて…僕ももう、22歳ですしね。早く手を打っておきたいのですよ」
「ビュッファン侯爵様、その条件とは一体…」
「はい、僕には最愛の女性がいるのですが、彼女が平民と言う事で、結婚する事が出来ないのです。でも、僕は彼女以外を愛する事はない。だから、お飾りの妻が欲しくて」
「お飾りの妻ですか?」
「そうです。もちろん、ただでとはいいません。アッグレム伯爵家から借りているお金を、我が家が肩代わりしましょう。さらに、ファレソン伯爵家が立て直しを図るための費用も工面しましょう。その代わり、僕には一切かかわらない事、僕の愛する女性、キャサリンには逆らわない事などを約束して欲しいのです」
「要するに、あなた様が愛する女性と幸せに暮らすために、アンネリアにお飾りの妻になれという事ですか?アンネリアは一生、夫に愛されず、1人寂しく暮らせと?」
「一生1人で暮せとは言いません。僕の可愛いキャサリンに子供が出来たら、その時は離縁して差し上げますよ。子供さえできれば、その子を跡継ぎとしてキャサリンと育てるつもりですので」
「なるほど、あなた様とそのキャサリン嬢という方の幸せの為に、アンネリアの人生を犠牲にしろという事ですね。お話しは理解できました。申し訳ございませんが、お引き取り下さい」
お父様が静かに呟いた。
「ファレソン伯爵、正気ですか?あなたが今置かれている状況を、ご理解できていないのですか?娘を差し出せば、ファレソン伯爵家は没落の危機を脱する事が出来るのですよ。それに僕は、アンネリア嬢を愛する事はありませんが、侯爵夫人として、それなりの暮らしを保証するつもりです。もちろん、お金も渡すつもりです」
「確かにあなた様の提案は魅力的です。ですが…アンネリアの気持ちはどうなるのですか?夫から愛されず、1人寂しく暮らすだなんて…娘を売るくらいなら、私は平民になった方がマシだ」
「そうですわ、ビュッファン侯爵様、どうかお引き取り下さい。私たちは、娘を売ってまで貴族として生きるつもりはございません」
お父様とお母様が、ビュッファン侯爵様を睨んでいる。
私の為に、両親が高貴な身分の方に歯向かっているのだ。それがどれほど勇気がいる事か…
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