それでは皆さん、ご一緒に
観客たちは目撃する。
本来、戦いに臨むパーティが各々準備を整えているはずの場所には、特設のステージが設けられ、いくつもの商品がずらりと並べ立てられていた。
それらは、幻想闘祭で使われる装備や品々だった。
『超世界工房平賀は、製造、改造、買取、売却、文化元不問、
少年が入れ替わりにフレームインしてきたのは、バニーガールの衣装をまとった……いや、頭の耳に尻の尾は本物で自前なネイティブバニー少女、アリーシャ・レネレーゼだ。
彼女は並んだ商品を手に持つと、ドヤ顔で窓の近くへ持ってくる。
すると、ごついゴーグルを額に当てた褐色作業着の、ドワーフとエルフの特徴を併せ持つ人物がのそのそ出てきた。
『超世界工房平賀代表、ゲンヌダーロ・平賀と申します。今回ご紹介しますのは、この後の対戦で我々が使用する装備です。アリーシャ殿を除けば新参だらけの儂ら、何に注目してどう面白がればいいのかわからんでしょう? なので、あらかじめ楽しみ方の導線を作っておこうというわけですな。ついでに、当工房の
「ぶぁっはっはっはっはっはっ! こいつら、インタビュー来るのわかっとったからって、好き放題やりよる!」
『ななっ、なぁんとこのパーティ、今回のバトルの
スサノオ神が爆笑しニッシュが驚愕している間も、作業着が饒舌に語っていく。それに合わせて、窓に映る下から文字の書かれたアクリルボードが出され、説明に手製のテロップが添えられる。
バーストレンジの二人、新城とネリズエンが使う装備の来歴と効果の解説……製作者であるゲンヌダーロ直々の説明に、会場の各地で吐息がある。
それは、腕は確かだが性格に難有りのため、雑誌に載れども取引が少なく名もあまり広まっていない傑物を知る
『——と、このように。我々のパーティは戦士一人に魔道士二人、そして儂、能芸士の商人が一人という構成になっております。儂は鍛冶師もアリだったんですが、今回は何しろ火急、今から技術を積む時間が無いのなら、今まで積んでおいたものを使おうというリーダーの発案で……おっと。彼女の紹介がまだでしたな』
ゲンヌダーロは、おもむろに掴んだもの……先端に緑色の宝玉が付けられた金属製の杖を、窓に映る視点の更に手前側に向かって投げ渡す。
ほどなく、今しがた放られたそれを手に——手製テロップの表示係だったのだろう、魔人の少女が画面に現れた。
彼女は、今回のバトルに用いる装備をフルセットで身に着けている。
角の通し口がついた鍔広の三角帽に、ゆったりとした上質なローブ、主張するように掲げられた右手の人差し指には赤い宝石のついた銀の指輪、大きな杖を抱いている姿は一目でわかる古風で伝統的な魔道士のそれであり、同時に、あのファンフェスのレジェンドプレイヤーを強く
『ラグラグラミナ・ネリズエン。ご覧の通り、職業はかの【魔導神】ネキュローズが、世界救
済の功績で受けた加護を用いて、幻想闘祭に追加したスタイル——[魔道士/
問いかけの通り、現地の観客も配信を見る視聴者も、目に見えて反応し、コメントが増えた。
否応なき注目を集めながら、魔人の少女は……ただ、凛と立っている。
人々に息を呑ませる、菫の華が咲いている。
『——さて。お伝えして参りましたことを覆すようで恐縮ですが、道具はあくまでも道具。何ができるかは、何をするかとイコールでも、限界点でもない。大切なのは、どう用いるか——道具と己の可能性をいかに引き出し合い、高めるか。それが、本来交わらぬものを交わらせる超世界工房平賀の使命であり、儂が生涯をかけて追い求めるテーマでもございます』
それは誇りか、あるいは挑みか。
試合前、観客に向けて自分たちの装備、つまりは大方の手の内を晒した鍛冶屋は、唇を吊り上げた、皮肉げな笑いを浮かべる。
『これをご覧の貴方がた、既に知りましたね。では、この後にとくとお確かめあれ。儂らがこれを用い、どのように戦い、そして——どうせこうだろう、との想像をいかに超え、度肝を抜いて差し上げるのか。間抜け面が吹っ飛ぶほどに刺激を受けていただけましたら——当工房に是非ご依頼を。互いに収穫ある出逢い、お待ちしておりますよ』
背の低い司会者は、決して腰まで低くなく。カメラを睨み付けるような眼差しで、最後までおじぎの一つもしない。
窓を覆い隠すように、再び黒い板が出てくる。
が、そこには今度は、文字がある。
【提供 バーストレンジ】。
『この番組は 皆で楽しいお祭りを目指すパーティ バーストレンジがお送りいたしました』
令嬢の美しき声を最後に、スサノオ神が窓を閉じ、周囲を一瞥する。
反応はまさしく、色々であった。
一ノ瀬パーティの、常勝の王道を往く四人の気負わぬ不動の様を見た後と。
青島パーティの、型破りで食い破る自由気ままな牙の振る舞いを見た後と。
新城パーティの、観客を体験へと寄せるエンターテインメントを見た後は。
観客たちはまったく別の方向で試合を期待し、高揚に包まれている。
中でも、スサノオ神が見事だと思ったのは——バーストレンジのやりかただ。
(……はは。いいねえ、二人の魔王)
最後の打ち合わせや、特訓期間の短縮を代償にして臨んだ寸劇で、彼らは確かに手に入れた……ビギナーでルーキーなパーティが本来持ちえないアドバンテージ……周りから応援される、ホームの空気感を。
(対戦の時は聞こえないにしても、取り分け君には必要だったものだよな。サウザンドキル)
こういう集中方法もある。戦いの雑念を取り除くために、空気を温めておく必要もある。
——幻想闘祭は。
自分だけではなく、関わる者を楽しませるゲームであると、宣言しておくことが。
(観客を巻き込む戦い方を覚えたのか。それとも、メンバーが提案したかな? ……どちらにせよ、汝はもう、勝つことだけが至上の、以前の自分ではないと示したわけだ。今回は、同じようにはならないぞ、と)
『個性溢れる三者三様、どのような勝負が展開されるのか、私は今回もわかりません! ああ、これぞファンタフェスタッ!』
MCの煽りに会場が加熱される。そこかしこで声が上がる。今回は、どんな名勝負が見られるか。どんな白熱で、手に汗握られるのか。
スサノオ神も、心中から同意する。
『これが最後の準備時間! 会場の皆も画面の前の視聴者も、手洗い飲み物ポップコーン、準備はぜーんぶ済ましとけっ! どんな試合かわかりゃあしないが決定事項がただ一つ、こんなの、一瞬でも見逃したらぜーったい後悔するぞーーーーっ!』
試合開始まで、もう間もなく。
その果てに何が待つのか、神すらも知らない。
神が一番、楽しみに見守っている。
■
そして、その時がやってきた。
三つの控室に、通知音声が流れる。
『対戦開始まで、三分。御用意・御覚悟を済ませた後、分霊への換装及び、エンブレムの奉納を行ってください』
三パーティ十二個のエンブレムが桐箱へ納められ、代表者は簡略化された祝詞を上げ、今から行われる戦いを神に捧げること、清廉に闘うことを誓う。
開始一分前。装備を纏った分霊の参加者たちが、淡い光に包まれる。
ここが最後の猶予、確認のタイミングだ。 今回ステージ選択は無作為、プレイヤー初期地点もバラバラに配置される。初動を見誤ればその時点で勝負が決まる場合もある。
即ち、仲間と合流を果たすまで、多くの敵が何処に潜むかわからない不明の中を、たった一人で生き抜かねばならない
孤独な戦地に挑む四人三組、長たるリーダーたちが、メンバーに声をかける。
青島淡はこう言った。
「あぁどうか——海の真ん中みたいな、全力が使えるステージ引けますように!」
一ノ瀬古都子はこう言った。
「何処であろうと、いつも通りに。私のこと、駒と思って使い倒してくださいね」
そして、新城千尋はこう言った。
「記念すべき俺たちのデビュー戦だ。味方も敵も全員使って、楽しみ尽くそうな」
転送が始まる。
対戦が始まる。
観客は高揚に騒ぎ——参加者と同時に見た。知った。
解説の妖精が、高らかに叫んだ。
『フィールドは【近代市街地:ビル街】! 幻想の祭儀が此度、文明の森にて乱舞するッ! それでは皆さんご唱和ください、あ、3、2、1——』
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