ふたたびファンタフェスタ



   ■



「——ひとりでやるファンフェスに、どうしても引け目があった。誰かと一緒に、自分の居場所を作りたかったんだ。……神様の社へ捨てられた子供で、血の繋がった相手がどこにも見当たらないってこと、普段は思い出しもしないのに……本当はずっと、寂しくて。受け入れられたくて、たまらなかったんだな」


 幾度、手に取ろうとして、諦めただろう。

 ファンフェスが楽しそうだって、そう思うのと同じくらいに。

 ファンフェスは楽しくないと、そう思わせてしまった相手がちらついて。


「怖くてさ。また、繰り返しになるのが。……自分の独りよがりを押し付けて、あんな目で見られることが。だから」

「それでも」

 躊躇だからを、突破それでもが打ち消した。

 ミナが、俺に、こう言った。


「やっぱり、好きなんですよね。ファンフェス」

「——ははっ」


 弱い所を突く。まったくもう、こういう場面でいっつも鋭い。


「だね。ミナだけを表舞台に送ればいいって思惑だったけど……でも、あわよくば神様の目を盗んで、こっそり本当にパーティ戦やれればなって期待もあったんだよ。誰かさんのせいで」


 それと言うのも、あの日。

【魔王】になりかけのミナとやった闘い……あれが、面白すぎたのが悪い。


 久々の対戦に、心をガッチリ掴まれた。

『あ。駄目だ、ファンフェスやるの楽しい』という気付きと、それ以上の好奇心が、止まっていた時計を再び動かしてしまったのだ。


「もう一度、ファンフェスを……この子とやれたら、俺もどんなに楽しいだろう、って思っちゃった。……しかし、後出しで悪いね。魔王体質抑えるのに使った加護が、こんな重苦しい由来だったなんて、今更言って。プレッシャー感じてる?」

「正直。でも、なんだか快いんです。……こういう気持ちを、誰かと一緒に背負えるなんて。ボク、ずっと考えたこと、なかったから」

「ねえ、おにいちゃん」


 それは、彼女の口から出るには、ひどく例外的な、落ち着いた声。

 紅い瞳と目が合った。

 耳がこちらに向いている。


「いっこ、聞いていい?」

「どうぞ」

「もう、あの頃のおにいちゃんはいないんだよね。アリーシャが見惚れてた、アリーシャを何度も何度も倒してくれた、おっかないくらい絶対勝っちゃうプレイヤーは」

「そうだね」

「今のおにいちゃんは。サウザンドキルじゃなくなって、弱くなった」

「うん。でも、大丈夫。皆がいる」


 兎の耳が、へにゃりと寝た。それからアリーシャは、深呼吸をした。


「ふしぎ。なんかね、全然悔しくないの。それより、今のおにいちゃんと、もう一度組んだパーティで戦ったらどうなるのか……どんな試合ができるのか、楽しみでたまんない。あの日、一緒に【英雄】と戦う日の前の興奮より、もっと、ずっと」

「それはよかった。……ああ、それから」


 色々と立て込んでいて、お互い、あの時の事には触れられないで。

 放っておかれたままだった言葉を、ようやく伝える。


「あの感想戦で、かばってくれて、ありがとう。今度はきっと、一緒に勝とう。約束だ」


 差し出した小指に、ぎゅっと口を結んだアリーシャが小指を出す。すると、


「ぼ。ぼぼボクもボクも……! 抜け駆け、じゃなくて、置いてけぼりはナシ、です……!」

「となると、儂も傍観ではいけませんな。荒れた指で失礼」


 ミナとおやっさんも手を伸ばし、小指を出してくる。

 四人の小指が前から下から上から絡む、なんともデタラメで不格好な……賑やかな指切り。


「では——ほ。本格始動なボクたちのパーティ、バーストレンジ……秋の大祭に向けての最初の課題クエストは“千尋くんを助ける”ことで!」

「当然、新城殿には一番頑張っていただきます。強豪パーティ二つを向こうに回して、初心者二人が何をどうすれば役に立てるか、教えてもらわねばなりませんから」

「きゅふ。それなら心配なんにもないね。おにいちゃんってば、そういう状況からこそ勝つやりかたを考え続けてきたんだから。——あの頃やってたことは、間違いだったかもしれないけど。培った機転、思考の跳びかたは正しく使い直せるんだって、見せつけちゃおーねっ☆」


 ……いや、参った。こんな、本末転倒な話があるだろうか。

 まだ、何も始められちゃいないのに。パーティでの対戦も、一度も行えていないのに。

 もう既に——泣きそうなくらい嬉しくって、ここが居場所だと思えてしまっている。


「——任せられたし、任せるよ! それじゃ一丁、やってやろう!」


 四つの指が繋がり、上に向かって振られて切れる。

 そんな俺たちの様子を、隅っこで見ていたばあちゃんが、うんうん、と頷きながら口を開く。


「ああ。人間って、やっぱりいねえ」



   ■



 準備期間は、あっという間に過ぎた。

 約束を交わした場所に再び集った三パーティ、この内望む結果を手にできるのは、一つのパーティ、四人だけ。


 自分のために誰かを蹴落とす。それはあらゆる勝負事の覆せない鉄則で、どれだけ取り繕っても結局、マイナスの押し付け合いでしかないという真理なのかもしれない。

 それでも言おう。祈るように。


「お集りの皆様方。今日は、全力で楽しもう」


 三つの扉を、三つのパーティが越えて行く。

 さあ、それじゃあ——容赦がなくて罠がある、情け無用で選択無限、頭が芯までヒリついて、骨の髄まで凍り付く、もう嫌だと悲鳴を上げたくなるくらい、おそろしくっておもしろい——神に捧げる、幻想の闘い祭り。



 ファンタフェスタを、始めよう。




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第3章、これにて終了。

「始めよう」の言葉通り、いよいよ始まります、ファンタフェスタのチーム・三つ巴戦!

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