第2話 伝説の神社のおみくじ
私と彼女を濃い
「あれがそうみてえだな、先生」
「ああ、そのようだね」
彼女が言うとおり、それは目標にしていたもので間違いなかった。
I県I郡I町にあると言われる伝説の神社。
幅、奥行き、高さが、だいたい二メートルくらいある物置小屋ほどの大きさをしていて、誰もが神社と言われて疑うことのないつくりだった。
しかし、この神社において一番の特徴は外観ではなく、遭遇率にある。
国道からそれて山奥へ向かっていくと観光地になっている滝があるのだが、その周辺で、ごく
その場に建っているいるわけではなく、何かしらの条件を満たせば霧とともに異空間らしきところから現れ、特殊なおみくじを引くことができると言われている。
今回、退魔業の依頼で近くまで来たことと、私の第六感。
そして、武神の巫女たる彼女の肯定があって訪れたのだが、それは見事に的中した。
「でも、先生。おみくじって、どう引くんだ? じゃらんじゃらんも賽銭箱も何にもねえぜ」
たしかに、鈴もなく賽銭を受け入れる物もないし、おみくじだけを引くにしても、それができそうな物は見当たらなかった。
「そのときによって方法が変わるのかもしれない」
私が聞いた話では普通に参拝し、わきにある木箱からおみくじを引いたということだったが、その可能性はある。
──すると、周囲の霧が一瞬、ざわついた。
その気配に彼女の目つきも変わった。
これは、くる……。
「先生、後ろ」
「うん」
私たちの背後、五メートルほどのところに
狼の頭をした、身長が神社の高さくらいあるその獣人は、人間でいえば中肉中背の体型をしていて、鋭い牙と爪が見えることから切り裂くことを狙った速さのある攻撃が予想できた。
だが一方で気になる部分も見えた。
「先生、あいつの胸んところに大凶ってあるけど、まさかあれがおみくじなのか?」
彼女の言うとおり、獣人の胸元にゴシック体で大凶と書かれてあり、それだけ見れば獣人の形をしたおみくじと言えるが、何か冗談のような感じでもある。
「分からない。だが、それならこの姿で現れる理由がないように思える」
すると獣人はボクシングのジャブみたいに右拳を数回振ると、左手でこいこいと合図をした。
「戦えってのか? いいぜ、やってやろうじゃねえか!」
右拳で強く左手を打って、やる気をみせる彼女。
合意と受け取った獣人もすっと構えた。
まるで試合が始まる格闘技選手のようだ。
戦いをまえに、私も護符を出そうとコートのポケットに手を入れようとしたが──。
「おら!」
それより早く、ジャンパー姿の彼女は闘気をまとった右拳を獣人の腹部に打ち込んでいた。
えええ!? という声が聞こえてきそうな表情で獣人が驚くと、そのまま青白い粒を
「なんだ、あっけねえな」
拍子抜け、といったかんじの彼女だが、そうではない。
彼女が速すぎたのだ。
すると、私と彼女の前に折りたたまれた紙が降ってきて、それぞれ手に取った。
同時に、周囲の霧がはれ、神社もその姿を消して、曇り空の下、降り積もった雪がある元々の広場が現れた。
夕方のままで雰囲気が変わってないから、時間は経っていないようだ。
「先生、どうやらこれが本当のおみくじみたいだな」
「そうだね。おそらく
「ちぇ、試されるのは好きじゃねえんだけどな。まあいいや。おみくじ、見てみようぜ」
「ああ」
私が答えると、二人そろって紙を広げてみた。
「……」
「私は、大吉だね」
良い結果ではあるが、話のネタにできるほど変わったものではない。
「先生……」
「どうした?」
「俺、陽吉だ」
「陽吉?」
彼女が見せるおみくじには、大吉でも中吉でもなく、筆書きではっきり陽吉と書かれてあった。
「なんだよこれ。俺、どうなっちまうんだよ」
困惑する彼女。
たしかに、おみくじで吉の字があるとはいえ、人の名まえみたいなものが出れば判断に困る。
だが──。
「大丈夫だよ。その下に、太陽の加護を受け希望の光とともに明るい未来へ進めるとある。簡単に言えばこれは、太陽
「そうか先生。これ大吉か! やったラッキー♪」
私の言葉に納得した彼女は嬉しそうに笑顔をみせた。
いつもは仕事でいるが、デートのように彼女とこれて良かった。
大吉と出たことだし、こうやって二人きりになれる時が多くあることを願う。
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