武神の巫女
一陽吉
第1話 桜色のマフラー
「おら!」
彼女の気合いとともに青白い闘気をまとった右拳が鬼の顔面をとらえた。
牛のように
重量感たっぷりだが、深夜、各種球技の競技場がある運動公園内では他に誰もおらず気にとめる者など一人もいない。
「こんなもんじゃねえんだろう? かかって来いよ」
右手で合図し、挑発する彼女。
黒髪をポニーテールにして濃紺のセーラー服を着る長身の女子高生だが、
本来、彼女は普通の家庭に生まれた普通の学生なのだが、武神が力を与え、戦える
『お、おで、まだ暴れたい。人間の悪い気持ち、もっと食べたい。そのために、おまえ、いらない!』
鬼は勢いよく立ち上がると、彼女に向かって次々と拳を振り回した。
その一つ一つが必殺技かのように鋭く重いが、彼女はそれらを右へ左へとわずかな動作で
「そんなんじゃ、俺に当てれねえ、ぜ!」
隙をついて鬼の懐に入ると、彼女は軽く跳んで腹部に左拳を打ち込んだ。
『ぐむ……』
右拳のときと同じく闘気をまとった一撃は、痛覚のない鬼に痛みを錯覚させ、再び尻もちをついて倒れさせた。
『お、おのれ──?』
立ち上がろうとする鬼だが、受けた損傷は許容値を超え、身体が行動することを拒絶していた。
「このへんがお前の限界か? まあ、生まれたてみてえだし、しゃあねえか。いたぶるのは趣味じゃねえんだ。いま仕留めてやるぜ」
そう言って彼女は大きく息をして闘気を練ると、鬼に向かって右の手の平を突き出し、気弾を放った。
動けない鬼はまともに気弾を受けると、ぱあんと青白い光の粒になって弾け、消えていった。
「ふう。終わったぜ、先生」
戦いを終えると、彼女は振り向いてこちらへやってきた。
「ああ、ご苦労様」
彼女の
私は三十路の男性退魔士だが小説家でもあるため、彼女は私を先生と呼んでいる。
もっとも、現在の私はどちらも力不足のため、彼女の力を借りて退魔業をこなし、話のネタにさせてもらっているのだが。
「あの鬼、
「そうだね。被害者が二名だったから、体力的に力をつけられなかったんだろう。その代わり、攻撃力に割り振っていたようだけど」
「それでもあんなもんか。先生、今度はもっと強い奴を頼むぜ」
「善処するよ。それと、マフラーありがとう。とても温かったよ」
期待する彼女に答えると、私は首に巻いた桜色のマフラーに手をあてた。
冬空の下で、じっとしていては寒いだろうと彼女が貸してくれたのだ。
「だろう? ばあちゃんが編んでくれたマフラーだからな」
そう言って笑顔をみせる彼女。
私も笑みをかえす。
──あの日。
街の中で風にのって流されてきたこのマフラーを手にしたときから全てが始まった。
彼女と戦っていくこと。
そして、彼女への恋心が。
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