第9話 斗真は怪我をする
放課後の教室では斗真と直美二人で話し合いを行っていた。
「今日は、どのようにして二人きりの時間を作るか」
直美はペンで紙に案を書いていく。
「もう、やめないか?」
「何が?」
紙に視線を向けたまま言う。
「リア充計画」
「なんで?」
「だって」
言うべきか? 言っても良いのか? 絶対に傷つくのに言っても良いのか? いや、言うべきだ。
「昨日図書館で拓馬を見かけたんだ」
「うん」
直美はまだ紙に視線を向けたまま頷く。
「多分、いや絶対に拓馬は彼女がいるぞ」
「うん、それで」
それで? 知っていたのか? それなら話は変わってくる。
直美は知っていて告白しようとしているのか? それじゃあ、俺たちのが協力しているのって倫理観的に反していないか? 急に気分が悪くなる。
「知ってたのか?」
「知ってるよ! それよりさ、いつ告白した方がいいと思う?」
直美は顔を上げ俺の顔を見つめる。
なぁ、俺らがしているのって最低なことだぞ。もし、直美がそんな考えを浮かんでいるなら俺は直美と縁を切る。
「つまり、もし告白に成功したらそのまま付き合うのか?」
「うん、だって好きだもん」
「それって」
「最低とか言うんでしょ? 倫理観的にどうなの? とか言うんでしょ? 逆に誰が倫理観って誰が決めたの?」
直美は悲しい目で俺を見つめる。
「普通に考えて駄目だろ、それに彼女が居るのを分かって告白するのは普通じゃないぞ」
「普通って何? 誰が普通を決めたの?」
「そんな屁理屈がまかり取ると思っているのか?」
斗真は怒っている声で言う。
「はいはい、どうせ私が悪いよ」
直美はペンを置き、ただ斗真の顔を見つめる。
「悪いとか良いとかの話じゃない、これは――」
「うるさい、斗真に分かる訳ないじゃん」
直美は悲し声で叫ぶ。ただ自分が正しいと言い聞かせながら。
「分かる、分からないの話じゃない、普通に諦めるべきだろ」
「諦める? 諦めるのが普通なの?」
「一回落ち着いてくれよ」
「落ち着いてるよ」
「落ち着いてない、今の君は普通じゃない」
「もう、いいよ、私一人で頑張るから」
直美は鞄を持ち立ち上がる。
斗真は直美の手を掴む。
このまま逃がしたらよくない結末が待っている。だからここで説得するしかない。
「離してよ」
その時、誰かが教室に向かって歩いて来る。
「何してるんだ?」
その声は昨日聞いた、拓馬の声だった。
拓馬の声に直美は驚く。
「おい、直美の手を放せよ」
拓馬は直美の前に立ち、俺の手を振り払う。
拓馬は怒りを顔で表していた。傍から見たら俺が悪いやつに見えるな。
「今、直美に何しようとしていたんだよ」
拓馬は斗真に胸倉を掴む。
おいおい、暴力反対だぞ。拓馬の表情からして相当怒っているな。どうやって話した方がいいか。
素直に話したら直美の気持ちがバレてしまう。どうしようかな。考えているとさらに拓馬は怒り始める。
「おい、もしかして手を出そうとしていたのか?」
「そんなことしないよ」
「はぁ? じゃあ、なんで直美の手を掴んでたいんだよ」
「あれは、そのーたまたまっていうか」
まだ、話が終わっていなかったからって言ったら、どんな話なんだよ? とか言われるから言えない。だから言い訳をするしかないな。
斗真は頭の中で考える、今できる最善の策を。
「お前、本当に何もしてないのか?」
拓馬は眉をひそめながら言う。
「本当に何もしてませんよ」
「何もしてないのに、直美を呼ぶのか?」
完全に疑われているな。はぁ、どうすべきか。
直美はこの状況をただ眺めることしか出来なかった。
直美は完全に固まっているな。拓馬の後ろに立っている直美の顔を見る。
直美はずっと下を向いている。
この状況を救えるのは直美だけだぞ? 俺がいくら言い訳をしようが拓馬は信用しないだろう。
「本当に何もしてないんで、帰って良いですよ?」
「は? 喧嘩売ってるのか?」
喧嘩なら最初から売ってるよ。
斗真もこの状況に苛立ちを感じていた。なんで俺がこんなめんどうな状況に巻き込まれているんだよ。
「もう、帰ろう」
直美が溶けそうな声で言う。
もう、帰ろう? この状況でよく呑気なこと言えるな。
斗真はもう怒っていた。自分が協力していた相手は倫理観がずれている人間で、この状況になっても自分を優先する直美に怒っていた。
「この状況で帰れると思うか?」
斗真は怒った声で言う。
「は? お前が言えたことか?」
拓馬は強く斗真の胸倉を掴む。
てか、待てよ。
拓馬って今日彼女と遊びに行くんじゃなかったのか? ふと昨日のことを思い出す。
「お前って今日デートじゃないのか?」
「はぁ? なんだよ急に」
「いや、昨日仲良さそうに彼女と話してたやん」
「俺には彼女なんていないぞ?」
男はとぼけるように言う。
こいつマジかよ。ありえない発言に斗真は驚く。
昨日、拓馬と仲良そうにしていた彼女を思い出す。あんなに楽しそうにしていたのに行かないのかこいつ。
てか、本当に好きならここで彼女いることをちゃんと言えよ。
こんな奴に彼女が居て、俺に彼女が居ないのはおかしいだろ。世界の理不尽さを感じなら斗真は言う。
「彼女が居るのに、居ないって言うのはおかしくないか?」
「だから、いねーよ」
「昨日図書館で買い物行くって約束してただろ、3カ月記念で」
「だから、いねーって」
拓馬は叫ぶ。まるで秘密がバレるように。
何でこんなに怒っているんだ?
「いや、嘘つく必要性ないだろ」
「はー、別れた」
「は?」
拓馬は胸倉から手を放し直美に近寄る。
「別れたよ、あいつしつこくて嫌になった」
こいつマジかよ。いやいや、3カ月記念で気持ちとか普通に喜ぶだろ。好きな人と一緒に過ごした期間が延びることって嬉しいだろ。
「お前、本当に別れたのか? あんなに楽しそうに会話してたのに?」
「はぁー人間誰だって飽きるんだよ」
拓馬は怒った顔で言う。
直美はさらに固まる、チャンスだと感じているのか、こんな酷いやつだと思わなくて悲しんでいるのか。ただ直美は固まっていた。
「たく、もう帰るぞ直美」
拓馬は直美の手を握り、教室を出ようとする。
ダメだ、このまま逃がしたら、この二人は確実に付き合う。今の直美は弱くなっている。そんな時好きな男に助けてもらったら更に好きになってしまう。
クズな男なのに好きという感情の前ではクズは無力だ。恋は魔法だから。
「直美ー」
斗真は外にまで聞こえる声で叫ぶ。
直美は拓馬の手を握ろうとする。
「俺の手を取れ」
斗真は直美に向かって手を伸ばす。自分でも何を言ってるのか分からないけど、こんなクズについて行くくらいなら俺が直美を幸せにする。
「俺が、お前の恋の悩みを叶えてやる」
その時、直美の目が微かに動く。
「だから、俺の手を取れ直美」
斗真は強く言う。隣に居る、拓馬より必ず幸せになると訴えるように。
「お前――」
その時、斗真は人生で初めて頬を殴られる。
拓馬は自分の思い通りに行かない状況に苛立ちを感じていた。その怒りが溢れてしまい斗真を殴る。
斗真は殴られた衝撃で机に頭を打ち、倒れる。
「きゃーーー」
直美の叫ぶ声が学校全体に響く。
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