第5話 こんにゃくは可愛いと思う

 「いらっしゃいませ」

 

 大きな声で店主は叫ぶ。額に汗を流し爽やかな笑顔を向けてくる。

 ラーメンが好きそうな店主だがここは、ラーメン屋ではない。

 

 じゃあ、ここはどこなのかって? それはこんにゃく食べ放題店に決まっているだろ。

 

 なんで俺はここに居るんだよ。それにこんにゃく食べ放題って聞いたことないぞ。最近食べ放題店が増えているのは知っているが、まさかこんにゃく食べ放題があるなんて。

 俺と水樹は奥側の席に座る。

 

 前に水樹が座り、横に置いてあるメニュー表を手に取る。

 

「ここってね、店主がこんにゃくを使って料理してくれるの!」

 

 まるで行きつけのお店のように語り始める水樹。

 

「このお店来たことがあるのか?」

 

「一回だけ、あるの」

 

 水樹はメニューを眺めながら言う。

 

 こんにゃく食べ放題ね。改めて考えるとやっぱりおかしくね? なんだよこんにゃく食べ放題って。

 斗真はそんなこと考えながら横に置いてある特別メニューに目が行く。

 

 これ、本当にこんにゃくで作られているのか?

 

 美味しそうなカツが貼られているメニュー表を取る。

 

 このカツがこんにゃく? 信じられないな。

 

 まぁ、これ頼んでみようかな。めっちゃ美味しそうだし。

 

「水樹は何頼むか決まったか?」

 

「うん」

 

「じゃ、頼もうぜ」

 

 俺たちは呼び鈴を鳴らし、店主に声をかける。

 

「はいよ」

 

 店主はメモとペンを持ち、俺たちを見つめる。

 

「えーと、このこんにゃくカツをお願いします」

 

「私は、このこんにゃく110コースをお願いします」

 

「かしこまり」

 

 店主はメモを書き厨房に入っていく。

 

 それより、なんだよこんにゃく110コースって何? しかも、こんにゃく110コースも絶対にないだろ。

 

「こんにゃくって太るとお――」

 

「はい?!」

 

「斗真って、こんにゃくって知ってるよね?!」

 

「知ってるよ」

 

「それなのに、こんにゃくが太ると思ってるの?」

 

 怒った表情を浮かべながら語り始める。

 

「まず、こんにゃくって可愛いじゃん?! つまり可愛いこんにゃくちゃんを食べるってことは、可愛くなるってことなの分かるかな?」

 なるほど、そうか、分からないな。

 

 そもそも、こんにゃくを可愛いと思ったことがない。

 

「こんにゃくって可愛いのか?!」

 

「はぁーこれだから、斗真は彼女ができないんだよ」

 

 失礼なやつめ! この話と俺が彼女できない話は関係ないだろ。

 

「こんにゃくって神様なんだよ」

 

 しんみりとした表情を浮かべ、人差し指でテーブルをトントンと優しく叩く。

 俺は眉をひそめながら水樹を眺める。

 

「こんにゃくが無かったら私は生きるのは厳しかったかな、だからこんにゃくは神様なの」

 

 これは、ツッコムべきか? いや、ツッコムのはやめた方がいいな。

 

 水樹は笑いなんて一切ない、真剣な眼差し真剣な表情で語っている。

 

「でも、こんにゃくって一応太ると思うけど?」

 

「あのね!? 可愛い子が居たらずっと見るでしょ? それと同じなの」

 

 何を言っているんだ? もしかして水樹はこんにゃくを人だと思っているのか?

 

 あまりの衝撃的真実に斗真は鳥肌が立つ。

 

「はいよ」

 

 天所は俺たちの前に立ち、テーブルに商品を置く。

 

「君たち、お似合いだね」

 

 店主はそう言い、厨房に戻って行く。

 

 お似合い? 何を言ってるんだ?

 

 水樹は何故か、頬を赤くしていた。

 

 お似合いって、えーえー。あのお似合いなのか?

 斗真も頬を赤くなる。

 

 そして、何故かその後二人は無言のまま、こんにゃく食べ放題を過ごした。

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