第34話 怒涛の失敗…?
◆作戦②〝運命の相手がやってくる〟――開始◆
ミリュー王都、往来――。
大通りは多くの住民や観光客で賑わっているが、細い路地に入れば人通りは格段に緩やかだ。
そんな場所で、クロシェットは奇妙な占い師に捕まっていた。
「んむぅ? ……はっ! わたくし、大変な
濃い緑色の装束に身を包み、ベレー帽の上からさらに
彼女はカルムが用意した台本にちらちらと視線を落としながら、目の前のクロシェットに熱弁を振るう。
「クロシェットさ――じゃなくて、通りすがりの見知らぬお姉さんに朗報です! 次に向こうの
「……あたし、急いでるの。ごめんね?」
「みぅっ!? そ、そんな……じゃあ、少しだけ! 見ていくだけでいいので!」
「ん……まあ、いいけど。何が起こるかは分かってるようなものだし」
メアにせがまれて嘆息を零すクロシェット。呆れたような発言の割にメアと視線を合わせるためしゃがんでくれている辺り、心優しい性格が滲み出ている。
どうせ、ここで
「…………」
そんなクロシェットの順当な想像を、しかしカルムは裏切った。一分、二分、三分経っても出ていかない。
(そろそろ焦れてきた頃合い……か?)
かちゃりと眼鏡に指を
「むぅ~! まだですか、カルムさん!」
先に
「遅いです、遅すぎます! どうしちゃったんですか!?」
「待てメア、僕にも考えがある。先ほど読んだ指南書『異性の気持ちを知るには』によれば、女性と交友を深めるためにはあえて焦らすという方法が効果的だと――」
「
ぷくぅと頬を膨らませるメア。
「……全く、もう」
彼女の言う通り、その日のクロシェットはまるで話を聞いてくれなかった。
◆作戦②――失敗(要因:恋愛指南本の不条理)◆
◆作戦③〝下心なしの荷物持ち〟――開始◆
毎日のように図書館裏の訓練施設に
カルムの推測によれば……もとい【
『――荷物持ちを申し出ればいいんです、カルムさん!』
この作戦の発案者はメアだった。
『わたくしは賢い大精霊なので、思い付いてしまいました! なんと! この作戦ではクロシェットさんのお
無邪気にして満面の笑み。……あるいは、その
(まあ……有効な作戦か否かは、実際にやってみなければ分からないだろう)
一つ頷いて、買い物中のクロシェットに歩を向ける。
「えっと……これと、それと……」
「持つぞ、クロシェット」
「へぁ!? …………って」
今度は最初からジト目が飛んできた。
「で、出たわね」
「? 荷物持ちを買って出るだけだ、何か問題があるか?」
「問題は――……ないけど。怪しいっていうか、
疑念に満ちた紅炎色の瞳がじっとカルムの顔を見つめる。
クロシェットはその後もしばし悩んでいたようだったが、やがて自身の両手が荷物で
「まあでも、疑ってばっかりっていうのもね」
言って、一番小さい手荷物を遠慮がちに渡してくるクロシェット。わずかに照れたような上目遣いで彼女は続ける。
「最初は『もしかしてあたしの家を特定して襲ってくるつもりなのかも』とか思っちゃったけど、さすがに失礼だったみたい。ごめんなさ――」
「…………」
「……、荷物返して」
「待てクロシェット、誤解だ。僕に君を襲うつもりはない。信じてくれ」
「ぅ……じゃ、じゃあ何よ。何するつもりだったっていうの?」
「チーム勧誘の手紙を大量に送り付けるつもりだった」
「い・ら・な・い! 迷惑に決まってるでしょ、変態ばかあほストーカーっ!」
せっかく託された荷物は、あっという間に奪い返されてしまった。
◆作戦③――失敗(要因:手紙の受け取り拒否)◆
……こうして、クロシェットの勧誘作戦は怒涛の失敗を重ねていった。
第四の作戦〝
けれど、
(ふむ……次はどのような作戦が良いだろうか)
カルムの短所はデリカシーがない点であり、長所はすこぶる前向きな点である。
故に、五度や六度の失敗で何かを諦めるなど絶対に有り得なかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~
次話は【1/4(土)20時】更新予定です!クロシェットを振り向かせよ!
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