第30話 「誘いたい相手が1人いるんだ」
「そ! 私たちのチームに、カルムくんの力を貸してほしいな~って! どうかにゃ、絶対的美少女☆アンにゃからの真剣なお誘いだぞ~?」
「「「はぁ!?!?!?!?!?」」」
……それは、端的に言えば天変地異のような事態だった。
冒険者ランキング国内1位・アン隊は、もう長らく四人体制を維持している。数々の強者が移籍を希望してきたが、それら全てがあっさり断られているのだ。故に、アン隊はこれからもずっと四人組のままなのだと誰もが思っていた。
(ふむ……)
ひとまず思考を巡らせる。
カルムからすれば、この提案は非常に都合がいい。アン隊は誰もが知るミリュー最高峰であり、秘宝の獲得を複数回果たした実績もある凄腕の冒険者チームだ。カルムが評するまでもなく、実力は全くもって申し分ない。
「しかし、君たちのチームには加入の条件があると聞いたが……」
「あ、そこまで知ってくれてるんだ。でもでも、安心していいぞ~? カルムくんは適してる。……っていうか、そうじゃなきゃ誘ってない」
言って。
「――ちゅうもぉおおおくっ!」
人差し指で力強く天井を指すアン。先ほどよりもさらに増したギャラリーを背に、彼女は真っ直ぐな視線でカルムを見つめる。
「私たちのポリシーは〝絶対帰還〟! 秘宝が目の前にあっても、あと一撃で超強い魔物が倒せそうでも、何がなんでも! 仲間が危険な場面なら、すぐにでも
「ほう。……それは、なぜだ?」
「だって私は〝手の届く一番星〟だもん☆ ……死んじゃったら、もう届かなくなっちゃうでしょ? そんなの寂しいじゃん、辛いじゃん。だから私は叫ぶんだ――私は、絶対に帰ってくるから。ギルドで待ってるから。いつでも会えるから。だからみんな、安心してダンジョンに行ってきていいよって!」
「…………」
「そういうチームが必要だ、って思ったから――実は、私も含めて。ダンジョンで仲間を全員失ったことがある人しか、誘ってないんだ」
最後は
ギルドはいつしか熱狂に包まれていた。……まあ、それはそうだろう。やはりアンという少女のカリスマ性には目を
もしも、カルム・リーヴルがカルム・リーヴルでなかったら――。
アンの熱弁の最中にギルドの別区画から聞こえてきた声が気になり、【知識】系統第四次技能【
(む……?)
けれど残念ながらカルムはカルムだったため、アンからの勧誘や周りのざわめきに掻き消されることなく、遠方の嘲笑を正確に聞き取っていた。
加えて、その近くに特徴的な夕陽色の髪が見えたことにもまた、かなり早い段階で気付いていた。
――会話の内容は聞くに
『ハッ……おい、見ろよ。あの疫病神、また来てやがるぜ?』
『元貴族だか何だか知らねぇけど、救いようがねえな』
『知ってるか? あいつ、これまでに五つもチームをクビになってるんだってさ』
『
(……ほう)
聞くに堪えない会話をどうにかその辺りまで聞き続けたカルムは、小さく首を横に振った。今、非常に重要な情報を聞いた気がする。うかうかしている場合ではない。
だからこそ。
「一つ訊かせてくれ、アンにゃ。
「へ? うん、そうだけど……」
「そうか。……では、すまない。実は――もう、誘いたい相手が一人いるんだ」
「「「な!?!?!???!?」」」
その場に集まっていたおよそ全員の予想を裏切って。
ポカンと会話を見守っていたメアの手を取ったカルムは、足早にその場を後にした。
♭♭ ――《side:アン》――
「……あれま、フラれちゃった」
冒険者ギルド
眼鏡の少年にチームへの勧誘を断られたアンは、がっくりと肩を落としていた。
「せっかく急いできたのに、一歩遅かったかぁ。判断力◎、行動力◎……ますますカルムくんの評価が上がっちゃうな~」
独り言を呟くと同時、周りからの注目に気付いて『何でもない!』と
それにしても。
(……《謎解き担当》役職、かぁ)
リシェス姫から聞かされた情報を振り返りながら、去っていく少年の背をぼんやり眺める。特級ダンジョン〈
(もしかしたら、何年かぶりに
国内最強の称号を冠する冒険者は、人知れず期待に頬を緩めるのだった。
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次話は【12/31(火)20時】更新予定です!今年ももう終わりですね!
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