第21話 《謎解き担当》と精霊の目覚め

「今、何が起こったのですか?」


「ふむ……そうだな」


 頭の中を整理するべく、カルムはかちゃりと眼鏡を押し上げた。


「裏への入り口を探せと言われたので、まずは辺りを観察した。この部屋にあるのは扉だけだ。そして、扉には〝二重円〟の紋様が刻まれている」


 ――そう。


 カルムが目を付けたのは毒牙の大蛇カース・サーペントむダンジョン最奥の部屋へと続く扉だ。その中央には緻密ちみつな真円が二重に彫り込まれている。


「この二重円は、ダンジョン始点の戸棚にも描かれていた――あの時は〝戸棚の奥に階段があること〟を示すサインなのだと思ったが、時系列を考えれば実情は全くの逆。戸棚を動かし、例の紋様が現れたことで階段もまた現れた」


「! つまり、この図形は内部に描かれた何かを実際に出現させる魔法陣のようなものだと。……ですが、カルム様。戸棚と違って、扉の二重円には〝中身〟がありません」


「その通りだ。故に、この先へ進むにはが必要だった」


 言って。


「ぁ……」


 カルムが広げてみせたのは、つい先ほどまで円形の窪みに押し付けていたダンジョンの地図だ――秘宝〈足跡を記憶する筆オートライター〉の効果により、冒険者の足取りを正確に写し取る探索図マップ。そこには、見事な〝階段〟が描かれている。


 呆然と目を見開くダフネに向けて、カルムは解説を続行した。


「〈天雷の小路〉は入り口から終点まで右、左、右、左、と互い違いに折れ曲がるような構造だ。これはまさしく階段の形に他ならない――つまり、最奥ここまで辿り着いた冒険者の手には確実に〝階段〟を示す図形が握られていることになる。裏ダンジョンへの侵入ギミックとするには打ってつけだろう」


「……よく、あの速さで思い付きましたね?」


「? いいや、実はもう少し前から予想していた。……道中、ダフネに守られていたおかげで暇を持て余していたからな。【追憶リマインド】で意味深な点を振り返りつつ、色々と考察を巡らせていた。何も一瞬で解いたというわけではない」


「【追憶リマインド】……? 聞き覚えのない技能ですが、それも【知識】系統ですか?」


「ああ、第五次解放だ」


「――――――ごっ」


 カルムの返答に今度こそ絶句するダフネ。……第五次解放、と言えば、その時代で数人しか遣い手が現れない各系統の神髄しんずいだ。通常なら第三次解放到達レベル3で一人前、第四次解放到達レベル4でチームの柱。これが【知識】系統でさえなければ、カルム・リーヴルはとっくに最強クラスの冒険者になっている。


 ……いや。


 この手の謎解きギミックに限って言うならば、あるいは――。


「ふっふっふ……」


 カルムが不思議な感覚に支配される中、ダフネの隣に立っていた高貴なる王女、もといスクレがいかにも嬉しそうな笑みを零した。そうして彼女は、人差し指をそっと自身の唇に触れさせながらパチリと可憐なウインクをしてみせる。


 ボブカットの金糸がさらりと揺れた。


「今のうちに予言しておくよ。ここまではダフネの独壇場だったけど――ここからは、メガネくんがあっという間に攻略しちゃうから!」



 ♭♭ ――《side:????》――


『きゅー……きゅー……、きゅあ?』


 オルリエール王城地下ダンジョン〈天雷の小路〉。


 その〝真の姿〟への挑戦権を獲得した人間が現れた瞬間、は目を覚ました。


 彼女、と言っても人間ではない――ただし、魔物でも有り得ない。


 マスコットじみた二頭身の白い身体に、ぺたりと地面へ垂れる薄紫の長い耳。うさぎを思わせるモコモコとした毛並みを覆うのは、耳の色に似た紫電である。半透明で幻想的な容姿は、その生き物が〝お伽噺とぎばなしの中の存在〟であることを如実に示唆していた。


 続けて声、あるいは鳴き声、あるいは〝音〟が紡がれる。


『ティフォンに、お客さん? ……吃驚きゅう。これは、しばらくぶりの事態かも、かも?』


 ――裏ダンジョン〈天雷の小路〉の最奥。


 共に目覚めた無数のギミックを眺めながら、歓喜した彼女はふるりと身体を震わせた。


歓迎きゅきゅ。……ティフォンが、いっぱい遊んであげる』





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~

次話は【12/22(日)20時】更新予定です!

よろしければ☆レビューや応援、コメントなどいただけますとめちゃくちゃ嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る