第15話 ミリューの王女とクロシェット
「お取込み中失礼します。……やはり、結界が壊れてしまったようですね」
「……!」
美しい
理由は、誰の目から見ても明らかだ。……リシェス姫のドレスが
「も、申し訳ありません、リシェス様」
片膝を地面に突いて、少女が深く頭を
「私の技能制御が未熟なことが原因です。お騒がせしただけに
「いいえ、クロシェット。謝る必要はありません」
が、リシェス姫は彼女の――〝クロシェット〟と呼んだ少女の謝罪を一蹴した。それから穏やかに歩を進めると、手袋を
リシェス姫は続けて言う。
「
「! そんな、こと――」
「――ない、とは言わせません。クロシェットが頷いてくれないと、このドレスの修繕費を請求しなければいけなくなってしまいますよ?」
「…………はい」
(……クロシェット、か)
脳内でその名を復唱するカルム。
目の前で展開されたやり取りを見る限り、クロシェットなる少女とリシェス姫の間には何かしらの関係性が存在するようだ。単に名前を知られている、というだけではない。姫の口調には一国民に対するそれ以上の〝親愛〟が感じられる。
(いや、というより……問題はこちらの方だな)
上品な金糸と翡翠の瞳を併せ持つミリューの華を横目に見遣る。
カルムはごく一般的な平民だ。冒険者として際立った功績を挙げたこともない。よってリシェス姫に
何しろ、彼女は――
「――カルム様。それから、お連れの方」
カルムの思考を
洗練された仕草でカルムに身体を向ける姫。続けて、清らかな声音が耳朶を打つ。
「自己紹介が遅れました。わたしは中央国家ミリューの王女、リシェス・オルリエールと申します。ここへ来たのは煙を見かけたから、なのですが……それ以前に」
微かに小首を傾げて金糸を揺らすリシェス姫。
「図書館を訪れたのは、実は貴方に会うためなのです」
「……僕に?」
「はい。冒険者カルム・リーヴル――昨夜、特級ダンジョン〈祓魔の大図書館〉に単独で挑み、一晩でこれを攻略したのは
「へ……な、な!?」
王女の問いに反応したのは、カルムではなくクロシェットの方だった。
だが、それも無理からぬ話だ。……特級ダンジョンの攻略。それは、冒険者の間では夢見るだけでも馬鹿らしいと一蹴されるような偉業である。
攻略難度〝
言ってしまえば、有り得ない絵空事の代名詞――だが、他でもないリシェス姫が保証しているのだから信じないわけにもいかない。
「と、特級ダンジョンの攻略……そんなの冒険者ランキング1
クロシェットの呟きが風に乗ってカルムの鼓膜に届く。
そんな中、リシェス姫は穏やかに続けた。
「詳しいお話を聞きたいのですが、王城までご同行いただいても?」
「……詳しい話なら、むしろ僕の方が聞きたいところだが」
「それも承知しています。きっと、お二人のお力になれると思いますよ」
言葉の途中でカルムから視線を切り、翡翠の瞳と柔らかな笑顔をメアに向けるリシェス姫。……なるほど、カルム以上に情報を持っているのは確からしい。
「行こう」
「ありがとうございます、カルム様。……それと」
カルムの返答に安堵の笑みを浮かべたリシェス姫は、そこでもう一度クロシェットの方へと向き直った。ふわりと長い金糸が揺れる。
「クロシェットも興味がありませんか? もし良かったら、貴女も――」
「――いえ。申し訳ありません、リシェス様」
だが。
彼女は頷くのではなく、今度こそ首を横に振った。気高い意思を秘める紅炎色の瞳でリシェス姫とカルムを交互に見て、それからきっぱりとこう告げる。
「私の家は……もう、とっくに
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次話は【12/16(月)20時】更新予定です!
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