第14話 【炎魔法】使いの少女
(……いた)
煙で狭められたカルムの視界に、一つの人影が映り込んだ。
爆炎の中心地。間違いなく、その人物こそが防壁を突き破った張本人だろう。
そこにいたのはカルムと同じか、あるいは少し年下に見える少女だった。
質の良さそうな白いシャツに赤のコルセット、肩には薄桃色の短いコートを重ね着している。赤を基調とするチェック柄のスカート、長めのニーソックスに包まれた足。
そして、それらはいずれも大量の
「……けほ、ごほっ」
煙の中でぺたんと座り込んで、苦しそうに咳をしている少女。
その姿は、間違いなく〝薄汚れて〟いる――が、カルムが受け取った印象は、何故かそれとは正反対のものだった。不屈の闘志、あるいは強烈な意思。昨夜、ダンジョンの奥地でメアに感じた
思わず息を呑んで
「すまない、邪魔をするぞ――」
言葉を選びながらもカルムが足を踏み出した、その時だった。
「え!?」
呼び掛けられたことで初めて第三者の存在に気付いたのか、杖(魔法系技能を補助する武器だ)にもたれた少女が虚を突かれたような声を上げた。地面に腰を突いたままきょろきょろと首を巡らせて、やがて彼女はカルムとメアを視認する。
――そして、
「う、そ……あたし、また……?」
みるみるうちに顔を
(む……?)
その反応にカルムは微かに首を捻る。
普通なら――否、この状況が既に普通ではないのだが、それでも一般的に考えれば助けを求めるなり安堵するなり、あるいはカルムを
「っ……」
しかし想定外はなおも続いた。
真っ黒の煤を頭から被った状態で、さらに腰を抜かしていた体勢から懸命に立ち上がり、ふらふらになってカルムたちの前まで歩み寄ってくる少女。
息を切らした彼女は、それでも立派な杖を傍らに置き、両手でカルムに掴み掛かった。
「あ、あなた、大丈夫……!? 怪我、怪我してない!?」
「怪我……? 僕が、か?」
「ごめんなさい……謝って許されることじゃないけど、本当にごめんなさい。平地なら暴走しないはずなのに、今日に限ってなんで……っ!」
カルムの腕を、頬を、薄い胸板をペタペタと触診しながらそんな言葉を
手当ての矛先は、もちろんメアも対象外ではない。
「ひぅっ! あ、あの、ちょ、わぷ、うにゃ……く、くすぐったいです~っ!」
身体を
(ふむ……)
くすぐりという未知の快感にノックアウトされるメアを横目に見ながら、そして心配性な少女に再び手を取られながら、カルムはそっと思考に耽る。
――どうやら、彼女は
平地なら暴走しないはずという発言、そしてカルムとメアの怪我を気遣う言動。詳細はともかく、何か想定外の事故で防壁が吹っ飛んでしまったのだろう。
「まあいい。……とりあえず、手は離してもらって結構だ」
「え? ……ぁ。そ、そうよね。ごめんなさい、こんなに汚れてるのに……」
「? いや、それは全く気にしていないが」
ぱっと手を離して
単なる慰めやフォローの類ではなく、服や身体が汚れたところでカルムは何も気にしない。
「重ねて主張しておくが――僕は、いや、僕たちはどちらも怪我などしていない。図書館の前で炎を見かけ、爆発の後でここへ踏み入っただけだ」
「そ、そうなの? ……良かった。それなら、とりあえずは一安心ね」
右手をそっと胸に当て、少女が安堵の息を吐く。……よほど心配していたのだろう。
「…………」
「一つ、訊いてもいいか。君は――……、む?」
そこでカルムが言葉を止めたのは、背後から人の気配を感じたからだ。【
例の爆炎は大きかったため、通りすがりの誰かが覗きにきても不思議はないが……。
「……ほう」
振り返った瞬間、カルムは予想外の光景に小さく目を見開く。
――そこに立っていたのは、決して通りすがりの一般人などではなかった。
薄っすらと輝きを放つ黄金のストレートヘア。
王家の象徴とされる宝石が
淡い色合いを複雑に重ね合わせた上品なドレス。
見る者の視線を一瞬にして釘付けにする美貌と、優しく穏やかで
中央国家ミリューの民なら知らぬはずもない、リシェス・オルリエール王女殿下――言ってしまえば、この国の姫君である。
「お取込み中失礼します。……やはり、結界が壊れてしまったようですね」
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次話は【12/15(日)20時】更新予定です!
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