裏口を叩け

その時俺は

ゆっくりお前に近づいた

そうでなければ

逃げてしまうお前をとらえる自信がなかったからだ


ドアの向うはもう夕暮れだ

そのことを知らないはずはない

戒めは過去に

希望は墓場に捧げたんじゃないのか

もう

老いて心を捨てた

優しくない君よ


今も聞こえないか

君の心は君にはもう従わない

走る列車より

ブレーキの利かない速さで

自分が過ぎ去るのを見送るだけだ


今日はもう来ない

明日も過ぎ去った昨日と同じだ


老いた君らに

恋はできない

今更、青い影を追ってもムダさ

いつまでも一人のキッチンで待つがいい


あれから俺はあの街をさまよっている

ひっきりなしに車の行き交う街路の傍らに

俺は立っている

その晩の宿を探して


S・Tよ

君は

あの日列車に乗って

無難な人生に旅立ったのだ

自分だけたった一人で


狼は野垂れ死ぬ

それが君の望んだ僕だったんだろう


お前をとらえたから

もう、ここからは

地獄までもう一息

あの夕陽が沈んだら

もう二度と陽は昇らない

この部屋で

絶えない恋の涯に行け


裏口を叩かれただろう

聞こえたのは

わかっているんだ

でももうそこに夢は無い

あるのは

絶体絶命の

希望が終わったことを教える

鐘の音だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る