山河あり

一人になるのはたやすいことだ

誰もそれを望まないが

それは望むとか望まないの問題ではない

デスクに一人で座り

ブラインドを分けて向かいのビルを覗いた

灯りの下で今も作業をしている人よ

あなたは

一人ではない


私は一人だ

そのことは事実

それを今さら言うのもなんだが

否定されないように言っておこう


河の見えるこの町で

山の見えるこの町で

私はその景色をなかなか見れないのだ

誰かのように

それを美しいと言うことはできない

それは無力と絶望を祝福することだ

そういう口は

画面の向うの死体を見たらむごいというのか


隣を見て

目の前を見ない

だから

一人だ

もし、一人でないならば夢でも見ているのだろう。


部屋は一人でない

それは出発を知らないから

どこにも戻れない事は

一人ではない


私は散歩をしなくなった

ここらは広すぎでとりとめがない

寂しいというよりは

ただどこにも行けないことを知らされるだけだから。

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