第4話 茨の愛

[side: カイル・フォン・エリシア]


 セリスが9歳の時、ホオズキ邸にいる時に毒殺されかけた。暗殺者を送られた。そんなことが度々あった。王族の暗部だけではなく、闇ギルドを使って調べさせた。


 その結果、クレマチス公爵がセリス嬢を排除してクレマチス嬢を私と結婚させて権力を増そうとしているのではないかという事がわかった。


 すぐにクレマチス公爵を追求したかったが、決定的な証拠がなかった。さらに良くなかったのがクレマチス公爵を除くにはあまりにもエリシア王国にとって存在が大きすぎた。クレマチス公爵を失脚させるには、誰もが納得する理由が必要だった。


 ホオズキ侯爵家薬草や薬の名家の令嬢セリスと私が結婚することでクレマチス公爵家の権力がこれ以上強くならないようにするのが目的の政略結婚だった。今は私にとってセリスは唯一無二の女の子になって政略結婚と言いたくない。セリスといるのは居心地が良くて楽しかった。


 セリスが私と婚約したせいで命を狙われるようになってしまった。セリスが命を狙われる状況を黙って見ている事ができなかった。なんとか、なんとかして守らないと…。でもこの方法だと…。


「最近、カイルは何か悩んでいませんか?」


 心配そうに私を見る彼女、とても愛らしい。気づかれないようにしているのにセリスに気づかれるとはせっかくのセリスとのおお茶会なのに悪いことをしてしまった。


「何か私にできることがあるなら言って下さい。協力します。」


 そう言って私を見るセリスは本当に可愛いと思う。今、思いついている謀略はセリスに負担が大きいそれでも許してくれるだろうか?


「セリスにとってとても苦しいことになるけどそれでもいいのかい?」


「はい、私に任せて下さい。」


 頼られて嬉しそうなセリスを見て、心苦しいけれど謀略を実行しようと思う。


「私はセリスのことが本当に愛おしい。それだけは今後も変わらないよ。」


 いきなりそんなことを言った私に不思議そうな顔を向けるセリスも可愛い。

 この後、恙無くセリスとの楽しくお茶会を楽しむことができた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 




「カイル〜♡、今日でやっと私たち夫婦になるね〜♡」



 クレマチス嬢が気持ち悪くなる甘い声で私に声をかけてくる。でもここで嫌な顔をして私がクレマチス嬢に気がないことを気づかれる訳にはいかない。私の本当の想い人、セリスのためにも。


「そうだな。やっとレナと結ばれることができて嬉しいよ」


 クレマチス嬢と話す時に自然に最愛に向ける微笑みができるようになった。始めは「殿下の笑顔が胡散臭いです」と自然にできているかとグレオ筆頭護衛騎士に聞いたところ答えられていた。それが「誠に恋しているように見えました」と言われるまでに成長した。


 用心深いクレマチス公爵を油断させるためとはいえ、自分より年下の令嬢の人生を弄ぶような行いは心苦しいものがある。


 セリスのため私は心を鬼にした。仕方がないのだ

。それもあともう少し、セリスとの婚約を一時的に破棄してクレマチス嬢と婚約を結べば流石にいくら用心深いクレマチス公爵といえども尻尾を見せてくれるはずだ。



「殿下、ホオズキ家のセリス様がお越しになられました。」


「カイル殿下、ご招待いただきありがとうございます。」



 考え事をしている間にセリス嬢が到着したようだ。入室を頷いて促すと妖精のように美しい彼女が本心ではなかったけれど「名前を呼ばないでくれ」と言ったのにカイル殿下と呼んでくれる。


 牽制のつもりか腕に胸を押さえつけてくるクレマチス嬢さえいなければ素直に返答することもできるのに。クレマチス公爵、さっさと尻尾を出してくれ。


「名前を呼ばないでくれと言ったはずだ。ホオズキ嬢。今日あなたを招待したのはあなたとの婚約を破棄するためだ」



「そうですか……。理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」



 冷静だね、セリスは。ちょっとは悲しんでくれてもいいだよ。こんなに好きなのに好きなことを言えないし、セリスは私のことをなんとも思ってくれないんだね。ちょっと、いや結構、悲しいよ。


「言われぬと分からぬか!お前はレナに毒を盛ること数知れず、ついには賊を雇って襲わせた。こんな罪人を婚約者にできるわけがないだろう!今までは証拠がなかった。だがな、賊が持っていた依頼書にはホオズキ嬢、あなた名前とホオズキ家の家紋が入っていたのだ。残念ながら言い逃れができないのですよ。」


 私の横で「怖かったです〜♡」と嘘泣きをするクレマチス嬢がうざい。気が散ってしまったせいで最後、丁寧語になってしまったじゃないか。好きな人にキツく言い続けることができなかった。


 もう私は嫌われているだろうに、キツく言って嫌われることを怖がる自分に嫌になる。もう嫌われているって。あぁ自分で言い聞かせときながら落ち込む。


 さぁ、カイル最後まで言い切るのです。セリスに話させると心変わりして「やっぱり婚約破棄はなし」って言ってしまいそうだから彼女が何か言おうとしていたけれど被せるようにして遮った。



「ですが、この書類が偽造されたものでないという証拠がないのもまた事実。なのでホオズキ嬢、あなたを王城の懲罰室に幽閉させていただきます。抵抗しないでくださいね。乱暴なことはしたくありませんから。」



 近衛騎士がセリスに魔封じの手枷をつけ、彼女を連れていく。彼女が悲しみと怒りが浮かんだ潤んだ綺麗な瞳で私を見てくる。


 ――ごめんね、セリス、君を守るためにはこうするしか無かったんだ…。


 懲罰室は古くから高貴な身分の大罪人が脱出することができないように外からも内からも一度入ると出ることができないシェルターになっている。今のセリスを守る上で一番安全な場所だった。



 祈るような気持ちでセリスが部屋から連れて行かれるのを見送った。どうか、置かれている手紙を見て嫌わないでほしい。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 




 クレマチス公爵はまだ、油断をしてくれない。


「カイル〜♡、ホオズキ嬢は今どうしているのか会いたいです〜♡」


「レナ、ホオズキ嬢は君を暗殺しようとしたんだ。そんな彼女にレナを会わせられるわけがないじゃないか。わかってくれるかい?」


 もう何回このやりとりを繰り返しただろう。セリスを懲罰室に入れて三日後から五日連続。セリスの様子をを見て嘲笑いたいだけなのが嫌でも良く分かる。そんなクレマチス嬢の前にセリスを連れてこれるわけがない。





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