第2話 農場の防衛計画
さて、ここからが大変だ。農場へ辿り着くと、荒れていた農場が少しずつ修復されていた。ジョンショーン二世が放った攻撃魔法によって破壊された柵には、仮止めの木の柵が設置されていた。
「よう、フェーン。裁判お疲れ」
「ありがとう。いやー大変だったよ」
元気よく声をかけてくれたのは、ドワーフのダンケルクだ。上半身は屈強な筋肉を見せびらかす為のタンクトップに古びた青い作業用ズボンを履いている。
「あっ、これ。金貨一枚渡しておくよ」
「おぉ!有難い。休憩したら、本格的に修理をしておこう」
俺はダンケルクに修理費用として一時金を支払う。鼻がデカくたくましい顎髭を蓄えた彼の表情に笑みを浮かべる。
「ところで、今回の裁判であの貴族は謝ってくれたのか?ここまでの被害となると魔物農場するのに時間がかかりそうだが」
ダンケルクは怪訝な顔をしながら破壊された農場を指を指す。
農場の四分の一に、攻撃魔法で出来たクレーター跡が残っている。当然、周囲の芝生も枯れていて、モーモンや他の草食魔物も寄り付かない。
その隅に傷付いたモーモンの治療している医療魔法使いのモーリーが俺に気付いたのか、手を降っている。
「いや、終始不服そうな顔で息子の方も俺の事を睨んでたよ。あれだとまた一波乱ありそうだ」
俺が呆れた顔と手振りで表現すると、ダンケルクは苦笑する。
「そいつは災難だったな。そういや、さっき俺の村の呪いの解除が終わったよ。しばらくは魔物料理の出番はまだあるが、外の国から買った穀物と家畜が順調に育ったらどうなるのやら」
「そうか。俺たち農家は余計需要がなくなるのか」
「個人的には、フェーンが育てたモーモンを超える牛肉と牛乳はないと思うし、他の魔物料理も気に入っている。だが、俺の村でもあんたらをよく思ってない同志もいる。同志とあの貴族が徒党を組んだら不味いな」
「俺はまだこの農場がある限り、別の商売をすればいいかなと思うし、万が一またちょっかいかけてきたら俺は対策しておく。だが、他のドラゴン使いはどうなるのやら」
俺は最悪、フェアリードラゴンがいれば農園を失っても旅をしていければと思ってる。元々は勇者になって冒険したいのが夢で、今でも稽古をしている。だが、この農園の仕事はこの国を守れて魔物の研究が出来る。それで人助けになってお金が貰えるから続けているなら幸せなんだよな。
問題は、他のドラゴン使いだ。幸い、国境警備や魔物退治の仕事を持っている者もいるが、昨今の不要論のせいか給料や仕事が減らされているケースが出始めている。何人か優秀なドラゴン使いは他国の引き抜きや別の仕事で活躍してはいるが、このままだと防衛の面でもきつくなりそうだ。
「おまえさんは他人の心配よりも、自分の心配をするのが先決なんじゃないか? というか対策って具体的に何をするんだ?」
彼は俺の顔を見て首を傾げる。
「農場の敷地周辺に制御できる魔物を配置したり、植物系の魔物を使ったトラップをしかけるのさ。農場の敷地にわざわざやってくる奴なんて、泥棒するか危害を加えようとする奴しかいないさ」
「それはいいアイデアかもしれんが、それでトラブルにならないか? 俺はあの勇者が魔王を討伐する前からこの国に住んでいるが、少なくともこの国にいるドワーフにとっては魔物はまだ危険性が高いと考えている」
「大丈夫だ。勇者がもたらした魔物図鑑と俺の魔物の習性研究さえあれば、魔物はある程度コントロールできる」
俺は半信半疑のダンケルクを農場小屋の地下へと案内した。地下には、俺が飼育している三体のゴーレムが、ドライアドや人食い植物に水をやっている。
「これは、一体」
「俺がコツコツ集めている魔物たちだ。と言っても比較的飼育しやすくて餌代のコストが安いやつしか育てられないが、この農場を守るには十分の戦力だ」
「それでも凄いぞ、これは。野生のゴーレムなんて見るのも初めてだ。伝承だと魔族や魔法使いしか操れんらしいが」
「俺は勇者試験を受けた時に、一緒にパーティーを組んでいた魔法使いに術式を教えて貰ったんだ。だから多少の魔法なら使えるし、ゴーレムの簡単な命令の書き換えも出来る」
「なるほど、ゴーレムなら魔法で作られた魔物で命令の書き換えが出来るなら制御しやすいのか」
ダンケルクは納得してゴーレムの働きを見つめる。
「人食い植物は種類によるけど、人間の代わりに他の魔物か家畜の肉を与えれば人間を積極的に襲わない」
食用の人間を食べようとは思わない様に品種改良するのは苦労したが、トラップとして使えそうだと俺は思った。
「人食い植物なのに、人間を食べようとはしないってなんだかややこしいな。まぁ、防犯対策としてはバッチリだな。しかし⋯⋯」
ダンケルクは腕を組んで考え込む。
「それを逆に利用される可能性もあるんじゃないか?お前さんに招待されてついて行ったら人食い植物が攻撃したといった言い掛かりをつけて」
「俺と親しい友人、フェアリードラゴンたちがいる時には攻撃し無いようにしつけてある。そのへんは大丈夫だ。仮に暴走した時には、異国の王様から貰った強力なアイテムがある」
俺は、袋の中から手のひらサイズの額縁の肖像画を見せる。二十代前半の若々しい金髪の男性で、つい最近王になったばかりであることが分かる。
「なんだ?王様の肖像画か?」
「俺も仕組みはよく分からんが、カーガプルトン王国の王様は、魔物を一切寄せ付けない神の加護を受けているらしい」
以前、ダンケルクの所の村を襲撃したワーグの群にこの額縁の中にある王の肖像画を見せたら一目散に逃げた事があった。かなりの効果があったから色々な魔物に試してみたがどの魔物も怯えて近付こうともしなかった。
「あの時、あの凶暴なワーグの大群がお前とリデルがやってきただけで逃げ去ったのは、そういうからくりなのか。便利だな王様の肖像画」
俺が自信たっぷり答えると、ダンケルクは納得した顔をして表情が緩む。
「それなら、しばらくはお前さんの魔物の食材には困らなさそうだ。ま、困った時には俺に頼ってくれよ。あの時お前さんが来なかったらどうなってた事か」
「ありがとう。こっちこそ困った事があれば頼むよ」
俺とダンケルクは固い握手をして、地下から出る。
「あ、フェーン!東の島国の使者が来てるよ!」
モーモンの治療を終えた魔法使いのモーリーが手を降って俺に声をかける。
「げ⋯⋯。もう早く来たのか。モーリーありがとう!」
「あぁ、俺も手伝いに行くぞ。フェーン」
俺とダンケルクは急いで農場にある客室へと向かう。
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