第6話 真犯人とは?
父親がW不倫をしているということを知ってか知らずが、母親も不倫をしていた。
こちらは、それこそ、まるで当時よくあった、午後1時くらいからの、
「昼メロ」
と呼ばれるような話が中心だった。
平成の途中くらいの、
「テレビ番組の編成が、大幅に変わった」
といわれる時期に、変革された番組体制というのは、ゴールデンタイムに限らず、昼の番組も、大きかった。
むしろ、昼の番組こそ、変革が大きかったのかも知れない。
というのも、それまでの昼間は、
「専業主婦が見る番組」
というのが多かった。
正午くらいからは、会社でも昼休みということもあり、ワイドショー関係が多く、バラエティが中心だった。
そして、昼休みが終わっての、最初のアフタヌーンとして、そこから1時間は、
「専業主婦の番組」
ということで、
「昼メロ」
というのが多かった。
毎日、平日に放送するので、時間としては、当時のドラマといえば、
「1時間番組」
というのが多い中で、
「30分」
であったり、
「15分」
というのが多かった。
結構、濡れ場のようなものも多く、奥さんの暇つぶしとしては、ちょうどいい時間帯でもあった。
今の時代であれば、
「少々濃厚な内容」
ということで、それ以上の時間は耐えられないと感じる人も多いだろう。
平成の終わり頃からは、ドラマに関しては、ゴールデンも、深夜枠というのも、そんなに変わりはなくなり、どちらかというと、深夜枠の方が、視聴率が稼げたりするというものであった。
今のテレビ番組というと、バラエティが中心で、情報番組のコメンテイターであっても、
「以前売れていた芸人」
というのが結構多く出演していて、
「有料放送に視聴者を持っていかれてどうしようもない」
といったところであろうか。
平成に入ってからのドラマというと、
「連続ドラマの登竜門といわれるような番組は、放送局ごとに時間帯が決まっていて、トレンディドラマなどという、有名脚本家のオリジナルドラマというのが流行った時代があったが、それ以降は、人気漫画が原作」
という番組が増えてきた。
そして、それまでの、昭和の末期からほぼ毎日のように、放送局ごとにやっていた、
「二時間サスペンス」
といわれる、
「ミステリー小説」
を原作としたドラマが、午後9時ころからあったのを、忘れてはいけないだろう。
その頃から流行ったのは、
「安楽椅子探偵」
といってもいいだろうが、
「探偵というわけではない探偵とは一見関係のない人が、好奇心からなのか、事件に首を突っ込み、事件を解決することで、いつしか、〇〇探偵といわれるようになって、シリーズ化した」
というパターンが多かったりした。
そんなドラマ体制の中で、
「昼メロ」
というのは、昭和の終わり頃に、間違いなくブームとなり、放送されていた時代だったということである。
ただ、そんな番組がいつの間にかなくなっていった。
それは、バブルの崩壊とともに、
「主婦が働きに出て、家計を助けないといけない状態になった」
ということからである。
「午後の一時」
というと、パート先で仕事をしている時間、ドラマを見る専業主婦がどんどん減って行き、テレビ番組で一番重要な、
「視聴率」
というものが、急降下してきたというのは、当たり前のことである。
実際には、あの頃の
「昼メロ」
というドラマは、
「原作の小説があったのか?」
あるいは、
「脚本家のオリジナルなのか?」
ということは分からないが、
「部門としては、恋愛小説」
今では、ライトノベルやマンガの世界でしか作品として出てこないジャンルではないかと思える。
実際に、ドロドロとした、恋愛でも、
「純愛」
とは言い難いもので、しいていえば、
「愛欲物語」
といってもいいだろう。
これは、
「怖いもの見たさ」
という夏になると、恐怖やホラーといった、
「心霊写真」
であったり、
「都市伝説」
を取材したりする番組が多いが、それと同じで、
「ドロドロとした恋愛の愛憎絵図というものは、主婦にとって、大好物だ」
といえるのではないだろうか?
大体の場合は、ハッピーエンドというよりも、ドロドロとした泥沼のような結末となることで、
「少々きつくても、自分の方がまだマシだ」
というような、まるで、
「人の不幸は蜜の味」
といわれる発想から、昼ドラの視聴率というのは、かなりよかったのではないだろうか?
何といっても、当時の昼ドラは、化粧品メーカーなどが、スポンサーとして、
「一社提供」
というところが多かったので、それだけ視聴率が稼げたということになるだろう。
だから、昼メロのタイトルも、
「○○奥様劇場」
ということで、
「○○」
のところに、そのスポンサーの名前が入り、いかにも、
「その会社の番組」
という時代だったのだ。
当時は、そういう
「一社提供」
のスポンサーも多く、今ではなかなかそうもいかなくなってきている。
次第に、
「テレビ離れが進む」
ということで、
「バラエティであれば、スポンサーとしては、宣伝になるかも知れない」
ということなのかも知れない。
母親の
「不倫」
というのは、まさに、
「昼メロを絵に描いた」
という雰囲気であった。
相手は、自分が勤めている職場のフロア長であった。
普段から、
「主任」
と呼んでいる間柄であり、奥さんとしては、心のどこかにあった、
「昼メロに対しての憧れ」
のようなものだったに違いない。
奥さんは、年齢はすでに40歳近くになっていたが、それまで、パートをしたこともない、どちらかというと、
「マダム」
といわれるようなタイプで、主任とすれば、
「これはいける」
と思ったのかも知れない。
奥さんとしても、最初は警戒をしていたことだろう。当然、
「昼メロは憧れというだけであり、実際にするようなリスクを負いたくはない」
と思っていたはずだ。
実際に、付き合うなどということはできるはずもないと思っているのも事実で、
「どうしても、まわりの目が気になる」
と思っていたのだった。
ただ、パートに出ると、最初は、それまで、専業主婦で、アフタヌーンを楽しんでいた優雅な生活をしていた頃から比べて、
「パートをしているなどということを他の人に知られるのは、恥ずかしい」
と思っていた。
しかし、
「そんな状態を許さないほどに、時代は急変した」
ということが分かってくると、
「そういえば、これまで一緒に優雅な時間を過ごしていた奥さん連中も、パートに出るようになった」
ということで、いまさら何も言えなくなってしまったのだった。
中には、
「昼メロ真っ青の不倫をしている」
という他の奥さんのうわさも聞いたりした。
「えっ、あの人が?」
というのも、結構多いようで、そういうウワサを聞くたびに、
「私はそんな恥ずかしいことはできないわ」
ということで、頭には旦那の顔が浮かんでくるのだった。
その時だが、浮かんでくる旦那の顔というのは、いつも、気難しい顔であり、落ち着いた穏やかな顔が浮かんでくることはなかった。
「そんなに、いつもいつも、気難しい顔をしているわけではないのに」
ということで、自分でも不思議に思っていた。
だが、実際に、気難しい顔しか浮かんでこないということは、
「普段から、気難しい時以外は、ほとんど旦那の顔を見ていないということか?」
と感じたのだが、これは、
「普段から、あの人のことを気にしていない証拠であって、怯えている時間しか、私の中であの人は存在しないんだ」
という思いしかないのであった。
それを思えば、
「あの人は、お父さんという意識しかないのであって、私の夫としての、存在感などあるのかしら?」
と感じるのだった。
つまり、
「夫などという言葉、あの人と共有で思い浮かぶ感情ではない」
と感じるのだった。
「私って、独身だったのね?」
と思うようになり、しかも、初めてといってもいいほど、結婚してから、一人で表に出たということになる。
「新婚当時は旦那との時間が楽しくて、うれしかった」
ということで、新婚当初は、どこに行くのでも一緒だったような気がするということを思い出すのであった。
そして、子供ができると、
「今度は、子供に全神経を集中させることになる」
というのも、それは仕方のないことで、
「いつ子供が泣き出すか分からない」
ということ、そして、
「ミルクは真夜中でも、2時間に一度与える」
ということになっていて、それどころか、
「子供が泣き出せば、子供中心になり、いつ眠れるか分からない状態」
ということになると、旦那の面倒など見ていられない。
それを、最初の頃は旦那も分かってくれていたはずだが、いつも間には、今度は家に寄りつかなくなる。
その時は、会社のメンバーと、いつも飲み歩いているようだった。
確かに、
「こっちの気も知らずに」
というのもあるが、それ以上に、飲み歩いてくれている方が気が楽だということもあった。
というのも、
「家事や育児を助けてくれるのであれば、それに越したことはないが、まだまだその頃は、家事も育児も、旦那がすることではない」
という風潮があった。
意見としてはいわれるようになってはいたが、社会的には少数派だったのだ。
それを思えば、
「行政や政治は、まだまだ時代に追い付いていない」
ということで、奥さんが、言い出すと、
「明らかに喧嘩になってしまう」
ということになり、却って、厄介な問題を抱え込むということになり、
「余計なことは言わない方がいい」
と考えられるようになったのであった。
「だから、旦那が飲んでくるくらいはいい」
と思うようになっていた。
そのせいもあってか、
「家族での会話というのがなくなっていった」
ということもあり、そのうちに、母親の方が体調を崩してくると、父親が、
「さすがにまずい」
と思ったのか、家事や育児を少しだけ手伝うようになったのだ。
そのおかげで、奥さんは、頭が上がらないと思うようになり、谷口家では、
「父親の威厳」
というものが、復活したのだった。
それも、バブル前ということで、それが、兄のまだ小さかった頃のことであった。
両親の不倫は、そんなお互いに、自分が思う時代を、同じ時代なのに、すれ違った気持ちで過ごしてきたことで、今までになかったことではあったが、子供もそれなりに大きくなり、平和な家庭というものが生まれてきた時、生まれてきたのだった。
二人とも、それなりの年齢になっていた。
ただ、時代というのは、両親ともに、感覚がずれているのは否めなく、
「父親が殺された」
という時代は、実際には、バブルが崩壊し、お互いに共稼ぎを始めてから、かなり経ってのことであった。
次男の方が、すでに中学生になっていて、長男は、もうすぐ大学を卒業するという時代であり、
「この年になるまで、二人とも、よく不倫をせずに来れたものだ」
と考えられるが、逆に、
「ここまで不倫をしなかったのに、どうしていまさら、しかも、二人とも同じくらいの時期になって」
ということになるだろう。
ただ、実際には、最初に浮気した方を、相手が見て、
「だったら、私も」
ということになったのである。
しかし、父親が犯人だとすると、おかしな気もする。
どちらかだけが不倫をしているということであれば分かるのだが、どちらも不倫をしているのだとすれば、お互いに因果関係としては一致しているので、何も相手を殺す必要はない。
つまり、
「動機としては、薄い」
ということだ。
じゃあ、
「息子が?」
ということになるが、前述のように、次男には、鉄壁のアリバイがあるので、そもそも、捜査線上から消える。
となると、もう一人の息子である長男が考えられた。
他の捜査で、まったく進展が得られず、
「おおかた、外からの犯行ということはないだろう」
ということになった。
だから、長男のアリバイや動機が考えられた。
長男は、アリバイを申し立てようとはしなかった。警察から聞かれても、
「友達と出かけていた」
といって、友達の名前を出して、出かけていたところを話すのだが、実際に裏を取ってみると、
「二人を見かけた」
という人はいないのだった。
息子の表情は、まるで、
「苦虫をかみつぶしたかのような顔」
といってもいいだろう。
そんな様子を警察は、
「やつは何かを隠している」
ということになったのだ。
母親にも、次男にも、それとなく聞いてみたが、
「ずっと大学に通うために、一人暮らしをしているので、私たちには、よくわかりません」
という答えしか出てこなかった。
そこで、大学の友達に当たってみることにしたが、彼に対しての意見は、徹頭徹尾、決まっていたといってもいいだろう。
「彼は、とにかく一徹な男で、性格的には、分かりやすいやつで、しかも、勧善懲悪なところがあるので、人を殺すということは考えにくいですね」
というのであった。
「偏屈ということかな?」
と、刑事は少し鎌をかけてみたが、
「そういうわけでもないですね。生真面目ではあるけど、気難しいということはないですね。それだけに、イライラさせられるところはありますけどね」
というのであった。
「どういうことなんですか?」
と刑事が聞くと、
「偏屈というよりも、性格的に几帳面というか、神経質なところがあるんですよ。それこそ、自分の机に人が触れると、いちいちアルコール消毒をするという人でしたね」
というではないか。
それから、数十年経てば、
「そんな几帳面で神経質な性格が当たり前」
という時期が、一時期であるが訪れるということを、誰も予期していない時代だった。
ただ、またそこで顔をそむける素振りをする人がいて、
「どうしたんですか?」
というと、
「彼の場合、それが極端で、自分が許せることであれば、他の人が許せないと思うことでも平気で、戒律を破るというところがあるので、人からは嫌われていたのかも知れないですね。でも、僕は彼の気持ちはよく分かった気がするので、要するに彼は、誤解されやすい性格だということになるんですね」
というのであった。
そういう意味では、
「いかにも、谷口家の長男」
といってもいいくらいであろう。
そんな谷口家の長男のことを調べていた警察は、
「アリバイ」
というものを見つけようとして必死になっていた。
実は、これは別に本人が白状しようがしまいが、
「調べればわかる」
ということであった。
それなのに、なぜ彼が正直に言わなかったのかというと、
「性格的な面が禍いしている」
といってもいいだろう。
彼が行っていたのは、風俗だった。別に風俗に行くことは悪いわけではない。ちゃんとお金を払って、サービスを受けているわけで、特にソープランドというのは、風営法という法律があり、その法律に則って決められた、
「都道府県の条例」
に逆らっていなければ、
「ちゃんと市民権を得た商売」
ということで、
「これほど合法的なものはない」
といってもいいだろう。
彼は、それを自分から口にしてしまうと、
「自分の中の、潔癖な部分が汚されてしまう」
と考えるのではないだろうか?
かといって、
「警察に疑われたままになるかも知れない」
と考えたとすれば、
「とにかく、濡れ衣は晴らさないといけない」
と考えるに違いない。
しかし、彼は、
「警察が濡れ衣は晴らしてくれるに違いない」
と思った。
確かに、何も言わないと、口裏を合わせていると思うかも知れないが、
「相手は風営法に守られた店だ」
ということを考えると、当たり前の返答しかしないだろう。
そうなると、下手に自分から、その店にいっていたということを話すよりも、店側に対して、
「本人から聞いた話を聞かされるよりも、警察の捜査でたどり着いたと思わせる方が、話っとしては、公平な目で見てくれる」
と思ったのだろう。
確かに、その通りだった。
この店は、会員制で、会員カードがそのままポイントになっていて、ネット予約では、ペンネームを使っていたとしても、防犯カメラで映っているところが分かれば、それでいいのであった。
ただ一つ、兄の勇作が気になったこととしては、
「防犯ビデオの保存期間」
であった。
それまでに警察がたどり着けなければ、
「せっかくの防犯ビデオが、消失してしまうかも知れない」
といえるかも知れない。
ただ、
「それならそれでいい」
と思っていたようだ、
「もし、防犯ビデオが消されていれば、自分のアリバイが証明されないことになる。それならそれで、しばらく、けいさつぃから疑われるというのもしょうがない」
と思っていたのだ。
勇作という男は、
「もし、自分が犯人だということで、警察に疑われたままでもいいというのだろうか?」
ということであった。
普通なら、そんなことを望む人は誰もいないだろう。しかし、しばらく疑われることで、何かの時間稼ぎができるとすれば、
「勇作は、共犯の片棒を担いでいるのかも知れない」
と思えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます